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STORY

STORY scene#9

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「また、掲載して欲しい。」

大野さんの小さな声が男の耳に届く。

男はゴクッと唾を飲んで、受話器を握り直す。

「でも、最近の展覧会には……。」

男は目録や個展の案内を見る度に、大野さんの名前を探していたからね。

大野さんが、ここ最近の展覧会に出品していないのはわかっていた。

「あぁ、新作だ。まだ……どこにも出していない。」

「それを掲載……ですか?」

「ああ……。」

展示会に出品していない作品を掲載することはほとんどない。

ほとんどないが、掲載しちゃいけないわけでもない。

男は掲載までの手順を案内する。

今回は作品を見ていないわけだから、写真もコピーもすぐにできるわけではない。

男の意図を考えて……期待で声が震えないよう、息をできるだけ大きく吸い込んだ。

「そうなりますと、掲載時期は……。」

「いつでもかまわない。」

いつでも……?

「まずは……作品を見せてもらい、写真を……。」

「……明日、来てくれ。」

「明日……?」

「……都合が悪いか?」

「いえ……明日、何時頃……。」

男は今後のスケジュールと明日の約束を確認して電話を切った。

社員は喜び、このままコンスタントに掲載が続くよう、

頑張って営業して来いと男の肩を叩く。

男にそんな気はなかったが、やる気のあるフリをしてうなずく。

大野さんに、そんなに何度も掲載できるような余裕があるようには見えない。

今回だって……。

男は明日、大野さんの所へ直行すると社員に告げ、カメラを鞄に詰め込んだ。

一応カメラは一眼レフだ。

新聞掲載だからね。

男が持ってるような小さなデジカメじゃ恰好がつかない。

写真なんか撮ったことのない男にでも扱える、オートでピントがあうやつだけどね。

次の日、逸る気持ちを押さえて大野さんの家に向かったよ。

新作が気になってね。

そりゃそうだよ。

もしかしたら、あの時スケッチした自分の絵かもしれないんだから。

期待半分、恥ずかしさ半分。

もっと複雑なものも交じり合っていたけど……それをなんと言っていいか、

男には言葉にできなかった。

ある程度の教養もあったし、読書家でもあったけど……それでも、

その時の気持ちを言い表すのは難しかった。

ただ、大野さんの家が近づくにつれ、心臓がバクバク言うのを止めることはできなくてね。

最寄りの駅を降り、バスに乗ってもそれは続いて……。

大野さんの家の前で数度深呼吸して……なんとかチャイムを押したんだ。

出て来た大野さんは、前回とは違い、白いシャツに濃いブルーのカーディガンで、

少し印象が明るくなっていた。

4月とは言え、花冷えのする日でね。

肌寒かったんだけど、あの日のような厚い雲はなかったかな。

男を家に招き入れた大野さんは、前回同様、台所を通り過ぎ、

奥の部屋までスタスタと歩いて行く。

また激しさを取り戻し始めた胸を押さえ、男も後に続いた。

同じ場所にイーゼルが置いてあってね。

布がかかっていたんだ。

大野さんは、男が自分の隣に立ったことを確認して、布を捲った。

男の前に現れたのは……赤と黒で描かれた男の姿。

たぶんもっといろんな色が使われていたんだろうけど、

鮮やかな赤と黒のコントラストが目を引く、印象的な絵でね。

光と影、神々しさとエロティシズムと……。

やはり、相対するものが一つの絵の中に描かれていてね、

それが強烈なインパクトを与える……そんな絵だった。

もちろん描かれているのは男の裸像だよ。

なのに、自分じゃないように見えてね。

自分なのに自分じゃない。

これも相対するものなのかな?

男はしばらく絵に見入ったよ。

動けない男を、大野さんも黙って見守ってくれてね。

どれくらいかな……10分やそこらは見入ってたんじゃないかな?

「これ……僕ですよね。」

男がやっと口を開くと、大野さんが小さくうなずく。

「あなたにはこんな風に見えたんですね。」

大野さんはまたうなずいて、絵の中の男の体に指を触れる。

ゾクッとしてね。

まるで自分が触られてるみたいに。

自分じゃないように思えたのに、触られたら、自分の体みたに感じてね。

その指が、背中から腰をなぞり、つま先まで動いていくと、

それに合わせて、ゾワッとした疼きも背中から腰へ流れていって……。

大野さんは指で触ったまま、男の方に振り返って、男を見ながら、さらに指を動かして。

その瞬間、男は確信したんだ。

大野さんも、自分と同じ気持ちだったって。

直に触られたわけでもないのに、反応している自分と、それを見つめる大野さんは、

同じ快感を共有してたんだって。

「この絵は……掲載するのはやめましょう。」

男が言うと、大野さんは少し眉毛を上げて……小さくうなずいてね。

「でもそれでは……。」

男は首を横に振って、着ていたジャケットを脱いだ。

「僕の……仕事の心配をしているなら、大丈夫です。

 適当にごまかします。」

男はさらにシャツのボタンを外し始めたんだ。

「また……描いてもらえますか?」

バクバク言う心臓を、その時の気持ちを、押さえることはやめにした男は、

シャツを腕から外し、Tシャツを脱ぎ捨てる。

「描いても……いいのか?掲載しなくても……。」

「はい……。」

ベルトに手を掛け、ズボンも一気に引き下ろす。

そうしてね、前と同じ、ストーブの前に横たわった。

「寒くはない……?」

大野さんが、また奥の部屋に行こうとするその足を掴んで、男が見上げる。

「今日は前ほど……寒くはありません。」

大野さんは男の掴んだ手をじっと見つめ、少しためらってから、男の手を振り払った。

イーゼルの隣の椅子に戻って、スケッチブックを開く大野さんを、

男は黙って見つめてね。

大野さんが自分に視線を向けた瞬間、前回よりも大胆に……足を広げてポーズを取った。

大野さんがいつか……本物の自分を触りたくなるように。

触らずにはいられなくなるように。










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