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STORY

STORY scene#8

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大野さんはそれに気付いていないのか、気にする風もなく、描き続けてね。

そのせいで、男の反応はさらに進んで……。

男には少し、マゾヒストのきらいがあったのかもしれない。

恥ずかしくて隠したくて、でも、隠すことも動くこともできず、

そう思えば思うほど、自分の内側の奥の奥が震えるほどの快感を感じていく……。

男は視姦され続けたんだ……。

大野さんの、芸術に対するストイックな視線に。

一通り描き終わったのか、大野さんが男に向きを変えるよう指示を出した。

「上を向いて、片膝……そう、奥側を立てて……。

 顔はこちらを向けて……。」

上を向けば明らかに……男の中心が立ち上がっているのがわかってしまう。

それでも男は大野さんに言われるまま、ポーズを取る。

恥ずかしいくせに、見せつけたいんだよ。

自分が……どんな状態にあるのか。

この状況に……興奮していることを。

なのに、大野さんは表情を変えることなく、新しいポーズを写し取っていく。

視線の鋭さも、動くスピードも変わらずに、ただ、鉛筆を動かし続けて……。

男はその姿にさらにゾクゾクしてね。

寒さも忘れ、大野さんを見つめ続けた。

もっと見つめて欲しい。

自分をもっと丸裸にして欲しい。

その瞳に舐めまわされた自分は……どんな風に映っているのか教えて欲しい。

そんな風に思っていたのかな。

鉛筆の動く音、ストーブのパチッと言う音、

電気ヒーターの焦げ臭い匂い。

ああ、もちろん灯油の匂いもしていたよ。

でも、それは最初からこの部屋の匂いだったから。

ただそれだけの空間の中で……男はイキそうになるくらい興奮していたんだ。

触れてもいない、相手の肌を見てもいない、

言わば想像の中だけで……勃起していたんだから、倒錯……に近い?

精神が興奮して、体が反応して……。

ムズムズと腰を動かしたい衝動を、手を動かしたい欲求を必死で抑え……。

できれば最後まで……大野さんの瞳でイカせて欲しかったんだよ。

もちろん最後までイクことはなかったけどね……。



私はここまで話すのはどうかと思いながら、珈琲を啜る。

菊池君は目を見開いて続きを待っている。

「……ってことは、その日はそのまま帰ったんですか?」

「ああ、そうだよ。男はくすぶる下半身を外の寒さでしのいだんだ。」

カップの脇から顔を出し、菊池君に笑い掛ける。

「本当に?何もなく?」

「ああ、何もなかった。大野さんはその後、数ポーズ男の体を写生して、

 ありがとうとスケッチブックを閉じただけだった。」

菊池君はまさかと言うように口をあんぐり開け、瞬きもせず私を見つめる。

「信じられない……。」

菊池君はその後を期待していたようだが、本当に何もなかったんだよ、その時は。

「それで?それで終りですか?」

私はちょっと迷った。

この後の話をするべきかどうか……。

もう一度、カップに口を着ける。

珈琲はすでに冷めていて、苦さが舌の上に広がる。

「終わると思うかい?」

「思いません!家も知ってる、電話番号もわかる。次に繋げる手段はいくらでもある!」

「そう、でも男はそうはしなかった。」

「え?」

菊池君が驚いたように体を引く。

「男はね、大野さんも同じように……自分に興味を持っていると……

 半ば確信していたんだよ。

 だからモデルを頼まれた……。

 ……全ては男の想像でしかない……視姦されていたってことはね?

 だから大野さんも同じなんだと、大野さんも描きながら、

 男を視姦していたんだと言う証拠に、大野さんからの連絡が欲しかった。

 あの空間の中のエロティシズムは、お互いが作り出したものなんだってね。」

「そりゃそうでしょうけど……大野さんが自分から行動に出る……想像ができません。」

菊池君は溜め息をついて、首を振る。

「そうだね。確かに大野さんは自分から行動を起こすようには見えないけど……。」

「けど?けどってことは、大野さんから行動を起こしたんですか?」

私は温い珈琲を飲み干し、店員を呼ぶ。

「ここのプリンは格別なんだ。君も頼むかい?」

私が聞くと、菊池君は少し考えてうなずく。

店員が注文を受け、戻って行くと、続きを促すように私を見つめる。

「ここまでで、十分君の質問には答えていると思うけど……。」

「男が一目で大野さんに惹かれたってことですか?

 それには続きが必要です。」

菊池君はテーブルの上で指を組むと、続きを催促するように二度顎に指を当てる。

それが答えではないんだが……。

……仕方ない。

プリンが来るまで続きを話そうか。

私は一度、ふぅと息をついて口を開く。

「続きは必要ないと思うけど……気になるだろうから、続きを少し話そうか。」

私は思い出すように、窓の外に視線を向ける。

「男は大野さんとの接点を……少しでも残したかった。

 だから、バイトも辞めずに続けたよ。相変わらず受注はなかなか取れなかったけど。」

窓の外を、傘を差した人が通り過ぎる。

ああ、とうとう降って来た。

私は菊池君に視線を戻し、話し続ける。

「大野さんから連絡があったのは……それから3ヶ月ほど過ぎた頃だったかな。

 男は諦めかけていたからね。自分あてに連絡があって、震える手で受話器を取った。」










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