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STORY

STORY scene#6

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白いシャツのボタンを三番目まで外した所で、男の手が止まった。

このまま本当に裸にされてしまうのか?

いいのか?本当に?

丸裸の自分を見るのは怖いような気もする。

この、芸術家の目に映る自分……。

見たいような見たくないような。

相反する感情を抱えながら、男が大野さんを見ると、大野さんはさっきと同じ瞳で、

じっと男を見ていたんだ。

ゾクッとした。

自分を見ているようで、見ていないような瞳。

物理的な肉体ではなく、もっと奥……。

自分の奥の奥まで見透かすされてるようで……戸惑うよね。

そんな風に見られたら。

初めて会った人で、親や友達でもない。

そんな人が、自分の何を描きたいと言うのだろう。

いや、何を描きたいと思ったのか、それが知りたくて脱いでいたんだけどね。

自分の中の、自分も知らないかもしれない自分。

それを、大野さんに教えてもらいたいと思ったのかな。

シャツのボタンを外し切り、大野さんを見ると、やっぱり大野さんは待っていて。

ああ、そうか、やっぱりTシャツも脱がなきゃいけないのか。

そう思って、男はTシャツの裾に手を掛ける。

ギュッと握り、ギュッと目をつぶって一気にTシャツを脱ぎ捨てる。

温かい肌にヒンヤリした空気はキュッと心臓を縮こまらせる。

寒くて、体を屈め、両手で二の腕を撫でる。

「寒いか。」

大野さんの声に、振り向かずうなずく。

そのまま上半身にもストーブの熱を当てる。

肌がオレンジ色に光る。

「悪いが全部脱いでくれ。できるだけ早く終わらせるから。」

大野さんは椅子に座ったまま、スケッチブックを捲る。

新しいページを開いて、男が脱ぐのを待っている。

「ぜ、全部……ですか?」

大野さんは声を発さずうなずいて、じっと男を見つめる。

あの、有無を言わせぬ瞳で。

もちろん男は戸惑った。

さすがに下までは……。

けれどこの芸術家は許してくれないだろう。

すぐ終わらせると言っている。

仕方ない。

早く終わらせるためにはさっさと脱ぐのが一番か……。

男はベルトを外し、ズボンを脱ぐ。

寒くてね。

しゃがみ込んで膝を抱え、ストーブにへばりついたよ。

大野さんはそれでも何も言わず、男が最後の一枚……下着を脱ぐのを待ってたんだ。

これまでか……。

男はそっとパンツの中の自分の様子を窺った。

寒くて縮こまってるそいつは……自慢できるもんじゃない。

それでも脱がなきゃいけないのか。

男がイチモツを気にしてるのがわかってか、大野さんが声を掛ける。

「心配するな。ミケランジェロのダビデのは実物大にすると7㎝だと言われてる。

 あの身長で7㎝だぞ。」

そんな大物と比べられても……。

男が縋るように大野さんを見返しても、

大野さんは微動だにせず、ただ黙って男を待っている。

男は最後の一枚からも足を抜き……無防備な、その裸体をさらけ出したんだ。



私が一息つこうと珈琲に手を伸ばすと、菊池君は身を乗り出して、

飲み終わるのを待っている。

どうやら私の話に興味を持ってくれているらしい。

「それから、どうなったんですか?」

待ちきれないのか、菊池君が先を急かす。

「先に言っておくが……大した話じゃないよ?

 君のその期待に応えられるかはわからない。」

珈琲を一口啜って、菊池君に笑い掛ける。

菊池君は乗り出した体を元に戻し、恥ずかしそうに頭を掻く。

「いえ、大丈夫です。ここまでで十分おもしろ……あ、いや、興味深いです。」

菊池君も珈琲を飲んで窓の外を見る。

窓の外は相変わらず、寒々しい曇り空だ。

「男は……順風満帆な自分の人生に物足りなさを感じていたんでしょうか?」

菊池君がポツリとつぶやく。

「物足りなさと言うより……何かをしなきゃいけない焦りはあるのに

 何をしていいのかわからない、不安と言うか、虚無感と言うか……。

 心の孤独を感じていたのかもしれないね。」

「心の孤独……?」

「そう、満たされない心を何で埋めればいいのか。

 それが人なのか、行動なのか、思考なのか、それすらもわからず、気ばかり焦る。

 時期的にも、大学3年生と言えば、そろそろ将来を選択しなくてはならない。

 未来に対する不安……。

 そんな感じかな?」

「未来に対する微かな不安……芥川ですか?」

菊池君が笑う。

「そんな大それたものではないよ。

 誰もが持っている自分の中だけの……不安だよ……。」

私はもう一口珈琲を飲んでカップをソーサーに戻す。

「では続きを話そう。

 男が全てを脱ぎ捨てたところからだったね。」

私は組んだ足の上に肘を付き、その手で唇を撫でる。

少し湿った触感が、思い出させるのは……。

「男は……裸の体を抱きかかえて……ストーブの前から大野さんを見上げた。

 筋肉の少ない、細い体でね。人に見せるのがだんだん恥ずかしくなってきたんだ。

 見せられる程度の体だと思っていたのにね。」

菊池君がまた体を前のめりにし、私の言葉にじっと耳を傾けた。










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