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STORY

STORY scene#2

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あれは、その男が君と同じ、3年生だった時のことだ。

割のいいバイトを探していてね。

優秀だった男には多少の時間があった。

けれど、あまり金銭的に余裕はなくてね。

できれば短時間で高収入を得たいと、最初は家庭教師や塾講師を探していたんだが、

求人雑誌を見ていて男の目に留まったのは、広告代理店の電話営業だった。

当時時給1500円は破格でね。

しかも、昼間の5時間のみ。

週3でも月に9万くらいになる。

夜は居酒屋でバイトをしていたから、合わせればそこそこだ。

男はすぐに面接に行き、バイトを始めることになったんだが……。

もちろん営業なんて初めてで、しかも半分詐欺のような営業でね。

美術館でたまに一般作品の展示会などやっているだろう?

そうそう、二科展とか、書道の展示会とか。

そういうところから目録だけ貰って来て、目録に載っている住所から、

番号を割り出して掛けるんだ。

当時は電話番号案内って言うのがあってね、

住所がわかると電話番号を教えてもらえたんだよ。

ははは、個人情報なんてあったもんじゃないね。

見たこともない絵画や美術品を、目録だけ見て、

「この構図がすばらしい」「この色が鮮やかで……」なんて、

褒めそやしてね、広告に載せてもらうんだ。

あぁ、その会社は全国紙の日曜版に1ページ分のスペースを持っていてね、

そこに美術品の写真とその解説を載せて広告収入を得ていたんだけど……。

そうなんだ。

一見広告には見えない。

評論家が見つけて来た良い作品を紹介してる風で、

実は広告主がお金を払って載せているという……広告主も読者も騙すような、

そんな営業だったんだ。

ああ、広告主は、全国紙に載ると言うステータスと、

そこから誰かに見つけてもらえるかもと言う期待?

そんなものから載せるんじゃないのかな?

そこは旨い具合に言葉をごまかして……。

もちろん、そんなに容易く騙されてはくれないよ?

褒められて調子に乗っていても、お金を払う話になると、

手の平を返したようにつっけんどんになる人がほとんどでね。

バイトは時給制だったから、枠が埋まらなくても困ることはなかったが、

電話は掛け続けなければならない。

元来、真面目な男だったからね。

断られる度に気落ちしながらも、社員が隣で雑誌を読む傍らで電話をかけ続けたんだよ。

バイトは他にも5、6人いたかな?

同じ頃に採用された仲間が次々に受注していくと、焦ってくるよね。

そして、焦れば焦るほど、話を聞いてもらえなくなってくる。

不思議なものでね、焦ると電話越しでも相手に伝わってしまうんだな。

最初の頃は褒め言葉くらいは聞いてもらえていたのに、

だんだんそれすら聞いてもらえなくなってくる。

「大丈夫。数掛ければ、その内受注できるから。」

社員はそう言うけど、なかなかそうは行かない。

学校でもプライベートでも高評価ばかり貰って来た男だ。

電話を切られる度にプライドは傷つくし、何を話せばいいのかわからなくなってくるし。

新聞の〆切が迫って来ると、呑気に構えていた社員も焦って来る。

「後2枠、どこからでもいいから持ってこい!」

そんな雰囲気にもなってくる。

あぁ、もうダメだ。

こんな気持ちになるくらいなら、高収入でもこのバイトは辞めるかな。

そう思った時、電話の向こうの男が言ったんだ。

「……載せてください。」

最初、男は耳を疑ったよ。

本当にいいのか?こんな詐欺みたいな広告に載せて。

そう思う反面、初受注の嬉しさも込み上げてくる。

「……いいんですか?」

「……うん、いいよ。」

「……お金、かかりますよ?」

「……お願いします。」

電話の向こうの声は穏やかで、言葉の意味を間違えているような雰囲気ではない。

「あ、ありがとうございます!」

掲載内容と金額、支払い方法の説明をして電話を切った。

受話器が電話に収まるのと同時に、隣で見ていた社員が、右手を差し出す。

「初受注、おめでとう。」

男も笑顔で答える。

「ありがとうございます。」

こうして男は初めての受注に至ったわけなんだけど……。

え?

ああ、ここまで長いかな?

大丈夫?

もう少し、話を聞いてもらえれば……。

うん、そうだね。ここまで一気に話したから少し喉が渇いたよ。



私は温くなった珈琲を飲み干し、お代わりを注文した。

菊池君は黙って私の話に聞き入ってくれているが、

自分の質問とこの話のどこに接点があるのか、不思議に思っているようだ。

ここまででは、わからないのも当然だろう。

私はテーブルに片肘を付き、窓の外を眺めながら続きを話し始めた。

「男が初めて広告主に会ったのは、集金の時だった……。」

窓の外は暗く、今にも雨が降り出しそうだ。

そう言えば、あの日も、雲が多かったな。










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