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イチオクノホシ(やま)

イチオクノホシ ~ Swan Lake ~ ①

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目を開けると、ルームランプの中で微睡む横顔。

長い睫毛から、通った鼻筋。

ほとんど音のしない寝息。

ん~、……このテンポはアダージョ。

唇から零れる息遣いは甘いドルチェ。

若い肌の上の柔らかそうな産毛のラインはレガート。

そっと撫でると、微かに動く、光沢を放つ筋肉。

「起きた……?」

「…………。」

口の端が動いたように見えたのは気のせいか?

密着した智の肩甲骨が、ゆっくりと俺の胸を押す。

シーツを引き寄せ、仄かな明りからも逃げようとする若い体。

その腰をグッと俺の方に引き寄せる。

智の腰と密着する俺の腰。

顔を智の肩と首筋に乗せ、昨日の余韻の残った智の匂いを吸い込む。

「起きないと……今日は早いんじゃなかった?」

言葉に合わせて、生え際の柔らかい毛が揺れる。

汗の匂いまで甘い。

踊った時の汗とは若干違う香り。

「……ん…っ……。」

俺の息に反応する智が可愛い。

足の指で、智のふくらはぎを撫でると、サッと体を縮こまらせる。

「まだ起きないの?」

声を掛けても、返事は返ってこない。

いつまでも眠い智。

俺の上で、弾けんばかりのエネルギーを放出したしなやかな体は、まだまだお疲れか。

仕方なく、上半身を起こして、息をつく。

シーツの下で盛り上がった肩。

その肩を撫で、ポンポンと二度叩く。

智の中では、まだ夜は明けないらしい。

ベッドから下り、キッチンに向かう。

コーヒーを淹れるため、マグカップを取り、棚を開ける。

……もちろん、インスタント。

それでも十分いい香りだ。

マグカップにお湯を注ぐと、白い湯気がユラッと立ってすぐ消える。

ダイニングに腰かけ、開けっ放しの寝室を見つめる。

シーツがもぞっと動いて形を変える。

起きた……かな?

暫く待ってみる。

再び動く様子は……ない。

形のいい踵が、小さな山を作ってる。

一口、マグカップに口をつける。

シーツ越しに恋人の足を見つめる朝。

穏やかで満ち足りた朝……。

もう一口コーヒーを飲んで、マグカップをダイニングに置く。

歳の離れた俺達が、こうして一緒に暮らしている不思議。

駅のホームから始まった恋。

世界的なダンサーの智と売れない作曲家の俺。

出会うわけのない二人が……いや、出会っても通り過ぎるだけだったはずの俺達が、

恋に落ち、お互いの気持ちを確かめ合い……。

もう、悩んでないわけじゃない。

智には、俺なんかいなくても、寄って来る人間はたくさんいるし、

人が寄ってこなくたって、バレエがある。

世界にまで羽ばたいたバレエが。

そんな智の未来を奪ってるんじゃないかって気持ちは、やっぱりまだ残ってる。

智を飛ばせてやれるのは、本当に俺なのか?

自問自答しない日はない。

でも……そんな俺を愛してると言ってくれる智。

離れないと言ってくれる智。

少しは……自信持っていいのかな?なんて、最近はちょっと思い始めてる。

大人らしくない、我が儘なのはわかってる。

でも、もう離れることなんてできっこないんだから、しょうがない。

だから、自信を持とうと……。

智が愛してると言ってくれる。

俺の為のダンスを毎夜踊ってくれる。

それで十分じゃないか?

でも、智は若い。

……智がもし、俺に飽きたと言うのなら、

若気の至りと、俺にバイバイと手を振る時がきたなら、

俺は……笑って手を振り返そうと決めている。

それが大人の務めだ。

俺には智を愛する気持ちしかないんだから。

でもできれば……、いつまでも……こんな朝が続けばいいなと……思ってしまう自分は

やっぱりそこにも自信がなくて。

泣いて縋りついてしまいそうで怖い。

いい大人が大人げない。

コーヒーをまた口に含む。

ほろ苦い香りが、俺の中に残った智の匂いと相まって、

インスタントが、高級店のコーヒーさながらに高貴な香りで満たしてくれる。

シーツの下の足がスルッと動いて……ベッドの軋む音がした。

少しして、智が欠伸を噛み殺しながらやってくる。

「おはよ。」

「おはよ……。」

クシャクシャと頭を掻き、俺の隣に座って、コテッと肩に寄りかかる。

「なに?まだ眠い?眠いならベッドで……。」

智の肩に腕を回し、智の頭に頬を乗せる。

柔らかい髪から、仄かに上る智の香り。

「翔にくっつきたい。」

「さっきまでくっついてたし、今もくっついてるよ?」

「もっとずっとくっついてたい。」

智がさらに体を寄せる。

今日はいつになく甘えん坊だね。

「どうしたの?何かあった?」

智の肩をギュッと握り、智のつむじに向かって話す。

「……何も……ないよ。」

その言い方、あったんじゃないの?

でも、智が言いたくないのなら……。

「……翔が欲しい。」

「え?朝から?」

「セックスして、一つに溶け合って、グチョングチョンになりたい……。」

……え、それはさすがに……。

昨日だって……結構頑張ったんだよ?

「しよ?」

智が顔を上げる。

まだ眠気眼の智が、軽く口を開く。

乾いた唇から覗く、ヌメッとした舌。

それだけで、俺を誘うには十分で……。

でも、まずは、何があったのか……。

「いいけど、何が……。」

智がクイッと首を回して、俺の肩に頭を乗せる。

「次の役が決まった。」

「そっか。おめでとう。で、何の役?」

難しい役なのかな?

智がこんな風になるなんて。

「ジークフリート。」

「ジーク…フリート?」

「そう、白鳥の……王子。」

頬に掛かった髪が、智が話す度に揺れる。

でも、智の表情は見れなくて……。

白鳥……白鳥の湖の王子って、そんなに難しい役なのか?










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