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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 51話

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その日、俺は新しいマンションには戻らなかった。



朝、首筋がくすぐったくて目を覚ました。

大野の寝息が首筋に当たっている。

指先で、大野の頬を撫で、薄がけを引っ張る。

もう、朝晩は冷えるようになってきた。

大野の肩が隠れるよう、薄がけで覆うと、大野の口がむにゃむにゃと動く。

いつもは男らしい大野の、こんな可愛らしい寝顔を想像していなかった。

俺の腕の中で安心しきって寝ている……。

それだけで温かいものが満ちてくる。

本当にこれでよかったのか。

これが正解なのかまだわからない。

わからないが……これが幸せなのだと思う。

大野の瞼が動く。

うっすら開いた瞳が、俺を捉える。

焦点の合わない瞳。

徐々に開く瞼。

「……おはようございます。」

俺が笑うと、少し黒目を動かして、この状況を確認する大野が、

照れ臭そうに睫毛を伏せる。

「……ぉ…はよ。」

大野が照れたせいで、俺も恥ずかしくなってくる。

男同士のこんな状態を、大野は想像したこともないだろう。

「……そんな顔で……。」

大野が目を伏せたままつぶやく。

「……ん?」

首を傾げて大野の顔を覗き込もうとすると、大野の手が伸びてきて、

俺の顔の向きを変える。

「そんな顔で見んな。」

「そんな顔って……。」

大野の手に反して、大野の方に向こうとすると、力いっぱい頬を押される。

「そんな顔で見られたら……はずいだろ!」

「そんなこと言われても……。」

「鏡見てみろ。」

鏡など、近場にあるわけがない。

「俺、どんな顔してます?」

大野の手はまだ俺にそっぽを向かせる。

「どんなって……。」

「どんな?」

「……顔中下がった、恥ずかしさMAXの顔だよ!

 ……言わすな。」

大野が俺の頬から手をどかし、体の向きを変える。

背を向けた大野が可愛らしく、大野の首筋に顔を埋め、腰に腕を回す。

ギュッと抱きしめ、体を密着させると、大野の匂いが俺を包む。

「だったら……大野さんもそんな顔で寝ないでください。」

「そんな顔?」

大野がわずかに俺の方を向く。

「安心しきった……子供みたいに可愛らしい顔で……。」

「ばか、寝てる時の顔なんか知るか。」

「同じです。俺もどんな顔で見てるかなんてわかりません。」

大野が振り返って俺を睨む。

「でも……大野さんを見る時は……きっとこれからも同じ顔です。」

睨んだままの大野の手が、今度は俺の頬を覆う。

節だった手が、優しく頬を撫でる。

「だから……慣れてください。」

「慣れるかっ。」

そう言いながら、大野の目が優しく笑う。

両腕で、ふんわり俺の頭を抱きしめる。

「しょうがねぇな……。」

大野の胸に顔を埋め、俺も大野の腰を抱きしめる。

お互いの温もりが同じ温度で……。

このまま、大野の心も俺と同じ温度であればいいと思う。

ふと、机の上のイヤリングが目に入る。

美咲に送ったイヤリング。

美咲が……大野の心から消えてなくなることはない。

「あのイヤリング……。」

机の上のイヤリングを見ながら大野に問う。

「何の花なんですか?」

大野も机に視線を向ける。

「ああ……。」

大野は手を伸ばし、イヤリングを掴み取る。

「ナナカマドの花だ。」

「……ナナカマド?」

大野は手の平の上でイヤリングを転がす。

「お守りのつもりだった……。」

「お守り……?」

「ナナカマドの木は船を守ると言われていて、必ず一枚、船体のどこかに使われるんだ。」

「へぇ~。」

俺はイヤリングに顔を近づける。

大野は、俺が見やすいよう、イヤリングの角度を変えて花が見えるようにしてくれる。

「美咲を守ってくれるように……。そう思って作った。」

「誕生日プレゼントに?」

大野がコクッとうなずく。

それを美咲は勘違いして……。

好きな人からの手作りのプレゼント。

勘違いしても仕方ない。

美咲の気持ちも大野の気持ちも切なくて、ぎゅっと大野を抱きしめる。

大野は俺の腕の中から、ゆっくり顔を上げる。

「……コーヒー牛乳……飲みに行くか?

 日曜は朝風呂やってる。」

「はい……。」

何度も行った銭湯。

でも、一緒に行ったのは最初だけだ。

俺の脳裏を初めてのキスが蘇る。

俺を虜にしたシャワーの下でのキス……。

あの時、大野はなぜあんなことをしたのだろう。

男に興味があったとは、とても思えない……。

「大野さん……シャワーが壊れた時のキス……覚えてますか?」

「あぁ……覚えてるよ。」

「あの時、なんであんなことを……?」

「あれは……取ってやろうと思ったんだ。」

「取る?」

「……松本のことを調べたら、美咲の後に付き合い始めたのが男らしいとわかって……。

 ここにおまえがやってきたから、ピンと来た。

 美咲を殺した相手を幸せになどさせない……そう思って。」

そのキスで囚われた俺……。

大野の思惑は成功したわけだ。

まんまと引っかかったのは……多少癪に障る……。

「でもたぶん……あの時すでに……。」

「すでに……?」

大野がクスッと笑う。

「さ、風呂行くぞ。」

続きが聞きたい気もしたが、大野の笑顔で満足だった。

大野は、上半身を起こし、イヤリングを机に乗せる。

カーテンの隙間から差し込む朝陽を浴びて、イヤリングがキラッと光る。

「来年……。」

俺も上半身を起こす。

「来年?」

「来年も、俺と一緒に花火大会、行きましょう。」

俺が顔を上げると、大野がふにゃっと笑う。

「ああ、そうだな……。」

来年も再来年も、この町で、このアパートから、二人で。










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