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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 49話

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工場の屋台はお好み焼きだと、オーナーが言っていた。

お好み焼きの看板を探す。

最初に見つけたお好み焼きの屋台に大野はいない。

もっと奥か?

さらに奥に進む。

お好み焼きの屋台は全部で3つあったが、どこにも大野はいなかった。

パッと辺りが明るくなる。

上を向いた人々の顔が、明るく照らし出される。

俺が屋台を探し回っている間も、花火は打ち上がり、人々の顔を照らし続ける。。

来た道を振り返り、もう一度戻ろうかと思う気持ちを、首を振って打ち消す。

これが運命なんだ。

もう会わない方がいい、そう運命に言われているんだ。

俺は来た道を戻ることなく、先に足を進める。

相葉には悪いが……このまま帰ることにしよう。

会えなかったということはそう言うことだ。

このまま帰れということなのだ。

大野の為にも、俺の為にも。

探し回って会えなかったら……惨めすぎる。

勝手に会いたいと思い、勝手に探し回り、勝手に会えなかったと嘆くなんて……。

花火の明りが、少し先にある橋を照らす。

あの橋を渡れば、隣の駅まで歩いていける。

戻らなくても帰れる。

新しい家へ。

俺はゆっくり歩を進める。

見上げると、いくつもの小さな花火がパッと開いて散っていく。

会いたかった……。

ただ、見るだけでよかった……。

でも、もし見つけたら……今以上に苦しくなりそうで、怖くもあった。

大野を苦しめるとわかっていて、それでも自分の気持ちを押し付けそうで……。

大きな花火が、見事な柳を描く。

綺麗だ……。

大野の汚れた手も綺麗だった……。

流す涙も……。

散った花火が霞んでいく。

潤んだ瞳のまま、橋のたもと目がけて歩みを続ける。

これでいいんだ……これで……。

目をゆっくり閉じる。

一粒、涙が頬を伝う。

秋になりかけた風が、頬に冷たい線を描く。

手の甲で頬を拭き、瞼を拭った。

霞む目の焦点を花火に合わせる。

満開の花火。

次々と咲く花火に、思わず立ち止まる。

赤や黄色の華が、咲いては散り、散っては咲いていく。

息を詰めて見つめる。

流れる線。

飛び散る火花。

牡丹や菊が、艶やかに咲く。

近くで見ているせいか、夜空を埋め尽くす花火は壮大で……。

誰かが言っていた、夏の終りを告げる花火と言う言葉がぴったりで……。

花火と一緒に浮かぶ顔を、花火と一緒に消していく。

小さな煙が、下の方の花火を隠し始める。

風向きが変わったのか?

そろそろ行こう……。

このままここにいるのは未練がすぎる。

視線を、空から橋の方に向ける。

「あ……。」

心臓が止まるかと思った。

息が詰まり、体が動かない。

それなのに、すぐにバクバクと胸が鳴り出し、呼吸が早くなる。

さっきまで夜空に消していた顔……。

その顔が……隣に立っていた。

隣で……夜空を見上げている。

綺麗な横顔を、花火が照らす。

「大野……さん……。」

つぶやくようにそう言うと、大野の顔がゆっくりこちらを振り返る。

「おまえも来てたんだな。」

「……はい、……オーナーに誘われて……。」

それだけ言うのが精一杯で……。

「……綺麗だな。」

「はい……。」

大野はまた夜空に視線を移す。

俺も……空に顔を向ける。

大輪の華が咲く。

大きな音と人々の歓声。

花火を映す川面と人々の顔。

夏の終りの花火……。

「会えてよかった……。」

人々のざわめきの中、大野の声に振り返る。

「え?」

大野がごそごそとポケットに手を入れる。

ポケットから手を出すと、俺の前で広げる。

手の中にあるのは、キラキラと輝く船。

「これ……。」

「餞別だ。」

大野が俺の手にそれを握らせる。

「おまえはアクセサリーは着けなさそうだったから、キーホルダーにした。」

「大野さん……。」

俺は手の中の船をじっと見つめる。

帆に風を受け、悠々と海原を駆ける帆船。

耀くそれは、花火を受けて、赤や黄色に変わる。

「ありがとうございます……大切にします。」

ギュッと胸元で握り、大野を見つめる。

ずっと作っていた銀細工。

器用な手と、真剣な表情で、シュッシュッとヤスリを掛ける大野を思い出す。

もう、ずいぶん前のことのようだ。

ドドドーンッと大きな音が鳴り響く。

驚いて振り返ると、所せましと咲き誇る花火たち。

花火大会も終りに近いのか?

終わってしまうまでいたら……きっと泣いてしまうに違いない。

全ての終りを感じて……。

花火が終わる前に帰ろう。

その方がいい。

きっとその方が……。

「それじゃ……行きます。」

「最後まで見ていかないのか?」

俺はゆっくり首を振る。

「そうか……。」

大野が右手を差し出す。

汚れて、節の尖った職人の手……。

俺も手を出し、大野の手を握る。

ゴツゴツしているのに繊細な指。

温かい大野の温もり……。

この手を引いて、抱きしめたい衝動に駆られる。

何も考えず、ただ抱きしめて、俺の想いを……。

それが大野を苦しめるとわかっていても、自分勝手な俺の気持ちが俺の中を埋め尽くす。

キーホルダーをギュッと握り、無理やりその気持ちを押し込める。

大野の手を離し、笑って見せる。

これが今の俺にできる精一杯。

「じゃ……行きます。」

「……おぅ。」

キーホルダーを握ったまま、大野の隣を通り過ぎる。

本当にこれでお終いだ。

もう、本当に会うこともない……。

またキーホルダーをギュッと握る。

握って涙を堪える。

目の前がパッと明るくなる。

大きな花火が打ち上がったのだろう。

けれど、もう見上げることはできない。

最後に会えた……それだけで満足しなければ……。










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