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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 48話

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荷物をダンボールに詰め、宅配便で送る。

大した家具はない。

机を商店街のリサイクルショップに売ったら終りだ。

最後に鍵を掛け、アパートとは工場を挟んで反対側にあるオーナーの自宅へ持って行く。

今日は土曜日だが、工場は閉まっていた。

以前、大野が一人で出勤していたのは土曜日……。

微かな期待を込めて工場を覗く自分を、自分で馬鹿だと嘲笑う。

いたところで、声をかけることもできないくせに。

オーナーは残念そうにアパートの方を見上げる。

「せっかくいい人が入ってくれたと思ったのに。」

「すみません……仕事の異動で遠くなってしまうので……。」

「いいのよ。仕方ないわよ。……あのアパートも潮時ってことかしらね。」

「え、それは……。」

アパートを畳むってことなのか?

そうなったら大野はどうなる?二宮は?

俺の表情を読んで、オーナーが穏やかに笑う。

「大丈夫よ。そうなっても智ちゃんと二宮君には良い所を紹介するから。」

にっこり笑うオーナーに、気持ちを隠して俺も微笑む。

あのアパートがなくなったら、本当に二度と大野に会えなくなる。

今、俺と大野を細い糸で繋いでくれているのは、あのアパートのみだ。

いや……。

出て行く俺が何を考えてる。

俺と大野を繋ぐものなどありはしない。

「今日の花火大会は見て行くでしょう?」

オーナーが、アパートとは反対の空を見上げる。

「見ていってよね。この町一番のお祭りなんだから。

 そりゃ、大きな花火大会には負けるけど……ウチの工場も出店を出すし。」

「……えぇ。」

曖昧にうなずく俺の腕を、オーナーが掴む。

「屋台、ウチはお好み焼き担当なの。智ちゃんも焼くから大盛りにしてくれるわよ。」

ポンと俺の腕を叩き、チャリンと音をさせで鍵を握り締めたオーナーが優しく笑う。

「待ってるわね。」

「はい……。」

閉まったドアを見つめ、考える。

花火大会……。

オーナーが見ていた空を見上げる。

暮れかかった空に、薄い雲が浮かぶ。

真夏とは明らかに違う空。

夏のように鮮烈な濃さはなく、暮れかかる空すらも透明感を帯びている。

俺は駅への道を歩く。

子供と手を繋ぐ母親。

仕事帰りの男性。

友達とはしゃぐ女子高生。

穏やかないい町だ。

あんな事件があったとは思えない。

事件のすぐ後は、この町でもざわざわしていたことだろう。

それも、もうすでに過去のことだ。

人々は日常を穏やかに過ごし、事件のことも忘れていく。

俺の……胸の中も同じだ。

月日が流れれば忘れていく。

事件のことも、大野のことも……。

多少時間はかかっても。

ここを曲がれば駅だという交差点で信号待ちをしていると、

ドドーンと大きな音が響き渡る。

見上げると、薄暗い空に、大きな花火が弾けていく。

「おぉーっ。」

どこかから歓声が上がる。

次の花火が上がり、大きな赤い華を咲かせると、俺の胸がドクッと波打つ。

華と一緒に浮かび上がるのは、シャワーに濡れた大野の顔。

艶めいた唇が近づく瞬間。

立て続けに花火が上がる。

次の花火と一緒に浮かぶのは、照れ臭そうに笑う大野の横顔。

機械を弄る汚れた手。

初めて会った時の、タンクトップから見える鎖骨。

ツナギ越しの細い腰。

美咲の部屋での真剣な表情。

ヤスリを掛ける時の、尖りかけた口。

次々と溢れて来る大野に、自分でもどうしたらいいのかわからない。

俺はこんなにも……。

こんなにも大野のことが……。

熱いものが目を潤ませる。

流れないよう、空を見上げて目を見開く。

大きな花火が、俺の視界一杯に広がる。

大野に会いたい……。

せめてもう一度だけ……!

信号が青に変わり、人が流れ始めると、俺は駅とは反対の方向に走り出す。

花火大会の会場は川の近く。

近くまで行って……声が掛けられなくても……。

ドンッ、ドンッと花火が上がる。

その音に後押しされるように、川に向かって走った。



会場はすぐにわかった。

この時期に浴衣を着ていく人など、花火大会以外にはないだろう。

会場に着くと、見たことのある商店街の人々が、

ヨーヨー掬いやたこ焼き、ビールなどを売っている。

「あ、櫻井さん!」

聞き覚えのある声が聞こえ、キョロキョロと辺りを見回す。

「ここ、ここ!」

ここと言われてわかるわけがない。

人込みに目を凝らすと、ピョンピョン人の頭の上に飛び出るタオルを巻いた頭……。

「……店長?」

その頭の方に向かって駆けて行く。

一際目立つ緑の屋台の中で、相葉が、ヘラを両手にニコニコしている。

「来てくれたんだ~。」

嬉しそうに笑いながら、焼きそばを掻き混ぜる。

「もうまわった?」

「いえ、これから……。」

「ゆっくり楽しんでってよね!あ、焼きそば食べる?」

白い船皿を片手に、タオルを巻いた顔が傾く。

「いえ、今は大丈夫です。」

「そお?じゃ、後でね。」

商売上手な相葉が、ニコッと笑う。

「あ、あの……。」

俺は聞くべきか聞かない方がいいのか、少し悩んで、思い切って声に出す。

「大野さん……の工場の屋台は……。」

「ああ、あっち。」

相葉が屋台の列の奥の方を指さす。

「もうちょっと先にあるよ。なんか用事?

 あ、最後だもんね。行っといで。」

相葉は焼きそばをひと混ぜし、手にした船皿に盛っていく。

「ありがとうございます。」

「絶対後で寄ってよ!」

相葉の声を背に、奥へ向かって小走りになる。

近くまで行って確認するだけ……。

そう自分に言い聞かせながら、人込みを掻き分けた。










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