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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 44話

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「……別れよう。」

覚悟していたように見えたのに、俺の言葉にビクッと潤が体を震わせる。

「それは……俺が美咲の最後の頼みを聞いたから?

 罪を犯したから?」

「……違う。」

俺はそうつぶやいて、潤に背を向ける。

潤の真っ直ぐな瞳を直視できない。

罪を犯しても、追い詰められてやつれていても、潤は迷いがない。

迷わず俺に向かってくる。

それが、今の俺には辛かった。

俺は、そんな潤に応えることが……できないから。

「じゃ……好きな人が……できた?」

今度は俺がビクッとする。

「そうじゃない。」

「うそ。」

潤の言葉が俺に突き刺さる。

「嘘……じゃない。」

「うそ。嘘ついてもわかるよ。」

潤の足音が聞こえ、ドンッと俺の背中にぶつかる。

「翔さん……。」

潤の腕が、ぎゅっと俺を抱きしめる。

胸で交差する潤の腕。

引き剥がすこともできなくて、俺は、ただ立ち尽くすことしかできない。

「潤……。」

「俺に会いに来る度、翔さんが変わって行くのを感じてた。

 だから早く出たかった。

 警察よりも……翔さんの方が苦しかった……。」

「潤……。」

「ね?俺じゃダメ?俺じゃダメなの?」

潤の頬が背中に当たる。

前に回された腕が、ギュッと俺を締め付ける。

「ごめん……。」

ただ謝ることしかできない。

潤が何かしたわけじゃない。

潤に落ち度があったわけでもない。

ただ俺が……忘れられないだけだ。

濡れた睫毛が揺れるキスを。

銭湯でコーヒー牛乳を飲む姿を。

船にヤスリを掛ける音を。

ふにゃっと笑う穏やかな顔を……。

思い出しただけで目頭が熱くなる。

決して表に出すことのできない気持ち。

口にすることのできない想い。

「……誰なの?翔さんの心に入り込んだのは……。」

「……そんな人はいない。」

「まだ嘘つくの?」

潤が俺から離れ、俺の前に周り込む。

「嘘じゃないから……。」

「うそ!」

潤が俺の顔を覗き込む。

慌てて顔を逸らす。

「嘘ついてないなら、俺を見て。」

潤が俺の頬を両手で挟む。

ゆっくりと顔を上げ、潤に視線を合わせる。

「本当に……好きな人はいないの?ただ、俺がイヤになっただけ?」

「違う……潤が嫌になったわけじゃない……。」

「じゃ、なんで……?」

俺は何も言えず、潤を見つめる。

潤の真っ直ぐな瞳が、やつれた顔でもキラキラと純粋で……。

見ているだけで涙が溢れて来る。

「翔さん……。」

「ごめん……。」

ゆっくり目をつぶる。

流れる涙が頬を伝い続ける。

でも、止めることができない。

頬を包んだままの潤の親指が、涙を拭う。

「俺のことを思ってなら……違うよ。

 俺は翔さんの本心が知りたい。

 例えフラれちゃっても……俺は美咲じゃないから、大丈夫だよ?」

年下で、甘えん坊の潤が、俺を慰めるように頬を撫でる。

「俺、ずっと感じてた。

 翔さんの心の中に、何か別の存在が大きくなっていってること……。

 焦ったし、イライラしたし……でも、自分にはどうすることもできなくて……。

 でもね、俺が警察にいてもいなくても、たぶん俺にはどうすることもできない……。

 人を好きになるってそういうことでしょ?

 他人にどうこうできるもんじゃない。

 他人どころか、本人でも……違う?」

俺は涙を堪えてうなずく。

そう……。

自分でもどうすることもできない。

自分の気持ちなのに……。

「翔さんは……その人のことを愛してるの?」

俺はゆっくりと目を開け、涙で霞む視界の向こうの潤を見つめる。

「愛してると……言えない。」

「言えない?」

「言える……相手じゃない……。」

また……涙が溢れて来る。

一生、好きだと、愛してると言えない相手……。

なぜならそれは……俺が彼を苦しめるだけだから。

今苦しめているのも……俺だから。

潤がぎゅっと俺を抱きしめる。

優しく、俺の背中を擦る。

「潤……。」

「なんか……変だね?俺のが翔さんより年上みたい。」

擦り続ける潤の手は優しく、温かく……。

「泣き叫んで、絶対別れないって言ってやるって思ってたけど……。

 こんな翔さんみたら……しょうがないね……。」

「潤……。」

「……いいよ。でも……。」

背中を撫でる潤の手が俺の肩を包む。

「今、思いっきり泣いて、吐き出して。

 それができたら……別れてあげるから……。」

潤が包み込むように優しく笑う。

ずっと小さな弟のようだった潤。

可愛くて、真っ直ぐで、愛しかった潤。

俺が気付かないうちに、俺よりずっと大人になっていた……。

「……潤…ごめ……。」

俺は、潤の肩に顔を埋める。

潤の温もりと、優しさで、涙が止まらない。

嗚咽が込み上げてくる。

「大好きだったよ……愛おしかった……。」

「翔さん……。」

潤の腕が俺の肩を締め付ける。

「幸せにしてあげたいと思った……。」

「好きになった人を……幸せにしてあげないの?」

潤の首筋で、小さく首を振る。

「俺がいたら……幸せになれない。」

「……どうして?」

「苦しめたのは……俺だから……。

 俺がいたら……苦しさを忘れられないから……。」

「翔さん……。」

潤は何も言わず、俺を抱きしめ続けてくれた。

愛してると言えない相手を、愛している俺を……。










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