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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 34話

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「おばさんって郵便の送り主?」

「そうだろうな……。」

「親戚ですか?」

「たぶん……美咲を引き取った親戚なんだろうが……。」

「おばさんがどこに住んでるのか知ってます?」

「いや、知らねぇ。俺は美咲のことはほとんど知らねぇから……。」

大野の顔が曇る。

長く離れ離れになっていた妹だ。

しかも、兄だと名乗ったわけでもない。

知らなくて当然か……。

「親父も、写真以外は何も残してなかったから……。」

それでも会えた奇跡。

亡くなった両親が呼び寄せたのか……。

沈む大野が不憫で、声の調子を上げる。

「で、でも!郵便物はあるはずですよね?あの部屋に!」

「郵便……物?」

大野が顔を上げ、じっと俺を見る。

俺はうなずいて笑い掛ける。

「そうですよ。郵便物。それを受け取って美咲さんは亡くなった。

 犯人の手がかりにならなくても、死ぬ前の美咲さんを辿れます。」

「美咲の……。」

大野の顔が切なそうに歪む。

俺は大野の肩を叩いて廊下に向かう。

「善は急げです。美咲さんの部屋に、行ってみましょう。」



大野が鍵を開ける技術は、格段に上達している。

前回の半分の時間で戸が開く。

器用なのだろう。

飲み込みも早く、勘もいい。

工場での大野の立場が想像できる。

頼りになる若者……。

工場長もオーナーも、可愛がっているに違いない。

ふと、大野のこれまでの人生を知りたくなる。

苦労していたとは言え、大野なら、それなりに周りに人が集まったことだろう。

運動神経も良さそうだ。

ルックスもいい。

年上受けもしそうだ。

恋愛も十分経験した青春時代……。

大野の学ラン姿を想像し、それに最初のキスが重なる。

濡れた前髪と濡れた睫毛。

それより濡れた唇……。

「おいっ、何してる?」

「あ、すみません。」

戸口で立ち尽くす俺を、振り返った大野が訝(いぶか)る。

今日は前回と違って部屋が明るい。

カーテンは閉まっているが、カーテンを透かして外の光が部屋を明るく照らす。

薄いピンクのカーテンに照らし出される部屋は、暗闇で見るより

ずっと女の子らしく見える。

物は少ないが、女の子が好きそうな物がそこここにある。

白とピンクのクッションは、夜見るよりもずっと可愛らしい。

大野はすぐに、棚の上の小さな引き出しを開けていく。

手紙などが入っていそうなのは……。

俺も引き出しを開け、郵便物らしい物がないか探していく。

大野が小さな引き出しを見終ると、鏡台に移動した。

俺も、大野に続いて、隣のロッカーを開ける。

ロッカーには夏冬雑多に洋服がかかっている。

夏物は左側、冬物は右側か。

右側の奥にある箱が目につく。

B4サイズが入るくらいだろうか。

厚みも7、8センチくらいはありそうだ。

それに手を伸ばし、膝に乗せて蓋を開ける。

大学や奨学金関係の必要書類が入っている。

ザッと目を通し、蓋を閉める。

おばさんからの郵便物と言う感じではないが、

こう言った書類が送られてきた可能性は捨てられない。

何かの手違いで、元の住所に送られて来た可能性……。

「おい、あったか?」

「いいえ……。」

閉めた箱を元の位置に戻す。

すると、その隣に小さな木の箱が置いてあることに気付く。

こっちは先ほどの書類の箱と違い、飾り彫りのついた可愛らしい箱だ。

それに手を伸ばし、掴んで大野に見せる。

大野がこっちにやってくる。

二人並んで箱を開ける。

目に飛び込んできたのは手紙や紙切れ?

一番上にあるのは……。

「これか……。」

大野が手に取り、ひっくり返す。

送り主の名前はあるが、名前を見ても美咲のおばさんのものかはわからない。

封筒の中に指を突っ込む。

手紙を開く大野に遅れ時と、顔を並べて手紙を読む。

「これ……。」

大野は黙って手紙を読み進めていく。

俺も素早く目を走らせる。

綺麗な女性の手で書かれた手紙の内容は、きっと美咲にとっては衝撃だったことだろう。

「美咲さんは……知ったんですね。」

大野は何も言わず、2枚目の手紙も読み進めた。



『美咲へ

 二十歳の誕生日、おめでとう。

 どんなに綺麗な娘に成長していることか……。

 お母さんはたぶん、美咲の二十歳の姿を見ることができないでしょう。

 だから、先に、伝えておかなければならないことを、手紙にしました。

 美咲には、お父さんは死んだと教えてきましたが、お父さんは生きています。

 ごめんね。その方がいいと思ったの。

 美咲はまだ小さくて、覚えていなかったから……。

 今、会うかどうかは、大人になったあなたの判断に委ねます。

 でも、これだけは信じてね。

 お父さんもお母さんもあなたをとても愛しています。

 ただ、お父さんとお母さんの心がすれ違ってしまっただけ……。

 お母さんはとてもお父さんを愛していたから、耐えられなかったの。

 ごめんね。

 そして、あなたには兄がいます。

 お父さんと一緒にいるはず……。

 もし、お兄ちゃんに会うことがあったら、

 お母さんはお兄ちゃんのことも愛していると伝えてください。

 死ぬ前にひと目会いたかったけど……それは無理そうだから。

 お母さんが入院する時、姉さんに頼んで、お父さんに連絡を取ってもらったんだけど、

 もう、前の家には住んでいなくて……。

 会いたいと思っても会えないかもしれない。

 でも、ここに元の住所と名前を記しておきます。

 美咲が会いたいと思った時、手がかりになるように。

   東京都葛飾区○○町○○3-10-4

    大野剛・大野智

 大きくなった美咲が、愛する人と幸せに暮らせるように願っています。

                      美智子     』










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