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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 25話

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アパートに戻る途中、大野の工場の前を通りかかる。

工場からは、いつものように大きな音は漏れてこない。

大野も帰ったのか。

そっと工場の中を覗いてみる。

奥から2番目の機械にだけ、光が付いている。

俺は2、3歩、中に入って足を止める。

繊細な仕事をしているのか、前に見た時のような大きな動きではない。

ウィーンと高い音をさせながら、時々ジジッと火花が散る。

火花は大野の手を飛び越え、肩の辺りまで飛び上がる。

口を尖らし、真剣な表情で手元を見つめる大野から、視線が外せない。

薄暗い工場の中。

蝉の声と機械の音。

じっと見つめる大野の視線。

火花に照らされる大野の手と、こめかみを伝う汗……。

ムシッとする気温は、不快感を煽る。

まだまだ残暑は厳しい。

朝とは違い、日中は蒸し暑さでじとっと汗が滲む。

大野はレバーを上げ、出来上がった製品を手に取り、光に翳す。

キラっと光を放つそれを、大野がいろんな角度で確認していく。

まだ納得がいかないのか、もう一度機械に戻し、レバーを引く。

小さな火花が大野の手の甲に落ちる。

大野は気にする風もなく、機械を止め、製品を光に翳す。

満足したのか、フッと微笑む。

頬が緩み、それを手の平に持ち替えると、やっと俺と目が合う。

「なんだ、来てたのか。」

大野はガラッと表情を変え、不敵な笑みを浮かべる。

「と、通りかかっただけです。」

見惚れていたとは言えない。

火花の中の大野が……綺麗だったなどと……。

「舞ちゃんならいねぇよ。今日は俺だけだ。」

「いえ……オーナーに用事があったわけでは……。」

大野が面白そうに笑う。

「じゃ、俺に用事があったのか?」

ニヤッと笑い、手にしていた製品を機械の上にそっと置く。

「な、何を作ってたんですか?」

話を変えたくて、視線を機械に向ける。

「これか?」

大野はもう一度製品を摘み上げる。

俺はゆっくり大野に近づいて行く。

大野は機械の前に立ったまま、俺に製品を見せてくれる。

不思議な形のそれは、直系3センチ位だろうか?

キラッと光って大野の手の中に入って行く。

俺は、大野の隣に並んで、手の中を覗き込む。

「綺麗ですね……。」

指先で、ちょんと触ってみる。

固い、鉄の塊?

歪んだ円形のフォルム。

「スチール?」

「砲金だ。これは船の部品。」

「船?」

「そう、船のエンジンの一部になる。」

「へぇ……、これが船を……。」

船を動かす動力の一部。

こういった小さな部品が大きな船を動かす……。

大野の手の上のそれを、指で突いたり、ひっくり返したりしていると、大野がクスッと笑う。

「子供みてぇだな?」

「え?俺?」

「他にいるか?」

大野が笑う。

子供みたいだと言いながら、子供みたいな顔で笑う大野に、ドキッとする。

「親父さんはもっと綺麗に仕上げる。」

「親父さんって……オーナーの旦那さんの工場長?」

大野がコクリとうなずく。

「厳しいし、口は悪ぃけど。」

大野はまた笑ってギュッと製品を握り締める。

「親父さんの歳になった時、親父さんと同じくらいの物が作れるか……。」

「作れますよ。大野さんなら。今だって、こんなに綺麗に作ってる。」

「おまえにはわかんねぇよ。」

大野は笑いながら、手の中の製品を近くの箱に放る。

カシャンと音がして、箱の中を覗き込むと、同じ形の製品がいくつも入っていて、

どれが大野の作ったものかわからない。

「明日だな……。」

大野がポツリとつぶやく。

そうだ。

明日、潤の所に行く。

俺は小さくうなずく。

「ちゃんと真実を聞いて来い。」

わかっている。

潤が言い辛いことも、俺が聞きづらいこともちゃんと……。

「そうだ。風呂は直ったみてぇだぞ。

 午前中に舞ちゃんが立ち会って直してもらったって。」

「よかった!これでいつでもシャワーが浴びれる!」

俺の顔を見て、大野が笑う。

「ふふふ。おまえはコーヒー牛乳向きじゃねぇか。」

「いゃ、俺もコーヒー牛乳はファンになったんですけど……。」

「けど?」

「帰りに汗だくになるから……。」

「ははは。汗っかきだもんな?」

大野が笑って、首に掛けたタオルでこめかみを拭く。

「シャワー、浴びて来い。汗、すごいぞ?爽やかなイケメンが台無しだ。」

「……はい。」

これ以上仕事の邪魔をするのも悪いか……。

「それじゃ……。」

俺は大野に別れを告げ、アパートに戻る。

後ろから、また機械が動く小さな音が聞こえてくる。

蝉の鳴き声の中、真剣な大野の顔を思い出し、アパートの戸を開けた。

すぐに風呂場に向かう。

蛇口をひねると、ゴォっと言う音と共に、シャワーが勢いよく吹き出す。

手を翳すと、ぬるい湯が、徐々に温かくなっていく。

「直ってる……。」

流れるシャワーを見つめていると、大野のキスがフラッシュバックする。

俺を壁に押し付ける大野。

舌を絡める大野。

濡れた前髪を掻き上げる大野。

キスの原因のシャワーは直った。

もう、あんなキスは二度と……。










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