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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 23話

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土曜日。

仕事のない俺は、ゆっくり下に下りて行く。

食堂には誰もおらず、洗い物籠の中に、一人分の茶碗などが置いてある。

大野は仕事か。

俺はインスタントのコーヒーを淹れ、ガス台の上の鍋を見る。

大野が飲んだらしい味噌汁。

一人前くらい残っている。

昼に帰って来て飲むのだろう。

初めて会った時のように。

俺は庭に視線を向ける。

初めて会った時、大野が立っていた場所。

残暑は続き、朝だと言うのに暑い。

庭の樹々も、秋の装いにはまだまだ時間がかかりそうだ。

マグカップを持ち、ダイニングに移動する。

いつもの場所に座り、今日のスケジュールを考える。

昼前に相葉のところに顔を出し、あわよくば相葉に話を聞いて……。

明日は潤に会えるよう、弁護士にも話してある。

潤に話を聞いたら、事件の真相がわかるだろうか……。

何気なく置いた手が、テーブルの上の雑誌を落とす。

「あ……。」

落とした雑誌を拾い、元の場所に戻そうとしてふと手を止める。

テーブルの上の雑多な物の中で、何かがキラッと光る。

ガサゴソと物を退け、その光る物に手を伸ばす。

雑誌の間、壁際に嵌り込んだそれは……。

「イヤ…リング……?」

指でつまみ、あらゆる角度から見てみる。

小さな花を模ったシルバーのイヤリング。

何の花か俺にはわからない。

でも、可愛らしい清楚な花。

「美咲の……?」

この家で女は美咲だけだった。

オーナーが付けるには若すぎる。

住人の彼女の物かもしれないが、あの二人に美咲以外の女がいたような様子はない。

もっと古い住人の……?

さすがにダイニングの上だ。

大掃除もしないなんてことはないだろう。

シルバーもくすんではいない。

やはり、これは美咲のか。

俺はそれをポケットにしまい、コーヒーを飲み干した。



予定通り、昼前に相葉亭に行く。

暖簾はかかったままだが、戸は閉まっている。

ガシャガシャと開けてみるが、やっぱり開かない。

そこへ、買い物袋を持った相葉がやってくる。

「あれ?今日はランチは休みだよ~。」

愛想のいい顔で、俺に笑い掛けてくる。

「そうだったんですね。今日は仕事が休みだから、ランチはここにしようと思ってたのに。」

「そうだったのかぁ、ごめんごめん。ある物でよければ何か作ろっか?」

「それじゃ悪いから……。」

「いいよ、いいよ。ちょっと待っててね。今開けるから。」

相葉は戸の鍵を開け、俺を中に入れてくれる。

いそいそとキッチンに入って行き、買い物袋を置くと、鍋に火をかける。

俺はカウンターに座り、覗き込むように相葉の手元を見る。

「やっぱり大きいですね、フライパン。」

「ああ、中華鍋?大きくないとたくさん作れないからね?

 これで揚げたりもするし。」

相葉が慣れた調子で油を入れ、肉を炒め始める。

「生姜焼きね。俺も食べようと思ってたから。」

「いいんですか?俺、ここの生姜焼き、大好物!」

「くふふ、嬉しいね~、そう言ってもらえると。」

相葉が鍋を振り、美味しそうな肉が踊る。

最後にカンカンとお玉で鍋を叩いて、火を止める。

皿に冷蔵庫から出した千切りキャベツと肉を乗せ、

二人前の生姜焼きをカウンターに出す。

「これ、あっちに持ってって。向こうで一緒に食べよう?」

「はい。」

俺も笑顔で答えた。

隅のテーブルに生姜焼きを置き、割りばしを並べて待つと、

相葉が両手いっぱいにお冷とご飯を持ってやってくる。

不器用そうにそれらをテーブルに置いていく。

お冷のグラスが倒れそうになるのを、慌てて押さえる。

「ありがと。横着するから、こうなるんだよね~。わかってるんだけど。」

相葉は笑いながら、向いに座る。

「いただきます!」

パンと手を合わせ、割りばしを割る。

俺もそれに倣い、少し手を合わせ、割りばしを割った。

相葉はムシャムシャと食べていく。

見ていて清々しいくらいだ。

俺も負けじと口に詰め込む。

「ん~、やっぱり美味しい!」

俺が言うと、相葉が俺を見て嬉しそうに笑う。

「そういう言葉がほんと嬉しいんだよ~。」

相葉の頬がモグモグと動く。

近所でも評判のイケメン……。

こういう飾りっ気のない感じも好感を呼ぶのか。

「新しい部屋はどう?落ち着いた?」

「はい。なんとか。」

生姜焼きを頬張りながら、にっこり笑う。

「大野さん、いい人でしょ?若いけど、頼りがいあるから。」

口の端にキャベツを付けながら相葉がうなずく。

「相葉さん、キャベツ、付いてますよ。」

「え?あ……マジで?」

口の周りをサラッと撫で、キャベツを見つけて口に放り込む。

「二宮さんとも仲いいんですか?」

「ニノ?ニノは高校の同級生。あそこ紹介したの、俺だから。」

「そうなんですか?」

「うん。変わってるでしょ?」

確かに変わってる……。

「でも、いい奴だから。」

「はい……。」

俺は曖昧に笑って、相葉の様子を窺う。

そろそろ聞いても大丈夫か?

「柴山さんとも仲良かったんですか?」

「……柴山?」

「美咲さん……あそこに住んでた。」

相葉の顔色が変わる。

「いや、商店街の端の喫茶店に行ったら、二人が仲良さそうだって聞いたから……。」

俺は視線を生姜焼きに合わせながら、喋り続ける。

「彼女だったのかと思って……。」

チラッと相葉の顔を見る。

相葉はサッと視線を外し、動き続けていた箸を止める。

「俺じゃないよ……美咲ちゃんが好きだったのは……。」

俺も箸を止め、相葉を見つめる。

伏せた相葉の視線は、茶碗の縁をなぞる。

「彼氏がいたんですね……可哀想に……。」

「美咲ちゃんはね、いい子なんだよ。たくさん苦労して……。」

相葉の視線が俺に向けられる。










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