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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 19話

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開いた戸から、大野が入って行く。

左側の壁を撫で、部屋の明りを付けようとする俺を、大野の手が止める。

「ダメだ。灯りを付ければ誰か気付くかもしれない。

 ここはまだ警察に止められてる。」

そうだった。

でも、暗がりでは何も見えない。

俺はうなずき、何か明りになる物を取りに戻ろうとすると、再び大野に止められる。

大野の手には小さな懐中電灯が握られている。

表情を変えることなく、大野が部屋に向かって懐中電灯を点ける。

カチッと小さな音をさせ、光の輪が部屋を照らす。

俺は大野の後ろから部屋へ入り、戸を閉める。

美咲の部屋は女にしては物の少ない、整理された部屋だった。

窓際にベッドが置かれ、白い鏡台にいくつかの化粧道具が並んでいる。

部屋の中央には小さなテーブル。

その脇に、白とピンクのクッションが二つ。

壁沿いに引き出し箪笥とロッカー。

大野は躊躇なく引き出しを開けていく。

俺も隣からそれを覗き込む。

一段目、二段目……、引き出しを開けても衣服しか入っていない。

五段全てを見てみたが、目ぼしい物は見当たらない。

続いてロッカーを開ける。

つるされたシャツやジャケット。

下の方には、さほど高そうではないバッグやベルト。

大野はバッグの一つを掴んで中を開ける。

最初のバッグには何も入っていない。

もう一つのトート型のバッグには、学生証やノートが入っている。

それを床に置き、大野が俺に懐中電灯を手渡す。

バッグが綺麗に収まるよう、光の当たり方を調節しながら、大野の手を見つめる。

大野は中の物を一つ一つテーブルに並べていく。

ノートが数冊、ファイル、文庫本、授業用らしき本。

ハンカチや筆箱、学生証、ポーチ……。

大野は手早くポーチを開ける。

中にはリップや目薬、ハンドクリーム……女子が持っていそうなありきたりな物ばかり。

一通り見終え、鏡台に移動する。

台の上には化粧品以外、目に着く物はない。

一つだけ付いている引き出しを開ける。

引き出しの中には細かな化粧品が箱に入れて整理されている。

柔らかな色合いのネイルが数本、口紅やペン型の何か。

俺には縁がないので、よくわからない。

巾着袋に入れられた物、箱入りのままの化粧品……。

どう見ても、手帳や日記のようなものはない。

もう一度バッグに戻り、丁寧に内ポケットを見ていく。

先ほど見た他には、ポイントカードが数枚出て来ただけで、

目新しい物はない。

「ないな……。」

大野がバッグをひっくり返す。

中から落ちて来たのは古いレシートが一枚のみ。

バッグを床に置き、大野がノートをペラペラと捲る。

「確かに手帳を使ってたんだが……。」

手帳……。

俺なら手帳をどこにしまう?

確実に持ち歩く。

出なければ手帳の意味がない。

いつでも取り出せる所にしまうんじゃないか?

外ポケットとか、中に入れてもすぐ取り出せる場所……。

大野が手放したバッグを片手で探る。

外ポケットは先ほど大野も調べていた。

内ポケット……。

「あ……。」

大野に合わせていた懐中電灯を、バッグに向ける。

「どうした?」

外ポケットと逆側に、ぴったり合わさったジッパーが付いている。

「ここ……。」

ジッパーをゆっくり開ける。

中に手を突っ込むと、掴んだのは……。

「……!」

引き出した俺の手には、薄い紫色の手帳。

大野と顔を見合わせ、手帳を開く。

大野の手が手帳の上に広がり、どうしたのかと顔を上げると、大野が首を左右に振る。

怖気づいたのか?

ここで待ったはあり得ないだろ?

抗議の目で大野を見る。

大野は筆箱からペンを取り出し、先ほど落ちたレシートの裏に走り書きする。

……声を出さず、それを持って部屋を出ろ。

この部屋は……盗聴されてるかもしれない……。

……盗聴?

誰が?

目を見開き大野を見ると、大野が小さくうなずいて、唇に人差し指を当てる。

盗聴なんて本当にあるのか?

訝しみながらもうなずき、テーブルの上の物を、手早くバッグに戻していく。

「やっぱりねぇな。仕方ない。」

大野はそう言って立ち上がる。

俺も立ち上がり、手帳を持って部屋を出る。

204号室の鍵を元通り掛けるのに十数分を費やし、

自室に戻ろうとする俺を、大野が自分の部屋に引っ張って行く。

「大野さん!?」

「俺の部屋のがいいだろ?」

大野が部屋の戸を開けると、俺を押し込み、素早く閉める。

「俺の部屋は調べてあるから大丈夫。でも……お前の部屋は危ねぇからな?」

俺の部屋も……盗聴されてる!?

まさか!

誰が?何のために?

大野は部屋の明りを付け、昨日来た時にはなかった、

折りたたみ式の小さなテーブルの前に胡坐を掻く。

「まずは手帳だ。」

早く出せと大野が手を差し出す。

俺は……盗聴が気になったが、取りあえず、まずは手帳だと思い、

薄紫の手帳をテーブルの上に広げた。










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