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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 17話

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大野には俺の言わんとすることが理解できたらしい。

ペットボトルを開け、ゴクゴクと飲んでいく。

飲み切れない分が、口の端を伝う。

汗と交じって広がるスポーツドリンクが、首筋を通って消える。

ペットボトルを口から離し、俺に視線を合わせた大野がつぶやく。

「ダメだ。女の部屋に勝手に入るなんて。」

「でも、もう美咲さんはいません。

 美咲さんの死の真相を知る為なんです。」

俺は大野ににじり寄る。

「大野さんが手伝ってくれなくても……、俺は一人でもやります。」

大野はじっと俺を見つめ、仕方なさそうにまた溜め息をつく。

「本気なのか?犯罪だぞ?」

わかっている。

住人が死んでしまったとしても、あの部屋の持ち主は美咲だ。

見つかれば犯罪だってことくらい……。

「それでも……。それで手がかりが見つけられるんなら……。」

大野は不満そうな顔のまま、胡坐を掻いた足を見つめる。

やるべきか、思案しているのか?

手帳が見つかれば……嫌でも真実を目の当たりにしなければならない。

それを……躊躇している?

もちろん……手帳が見つかれば……だが。

「わかった……。ただし、やるなら明日だ。

 明日なら……二宮はここにいない。」

俺は首を傾げる。

どういう意味だろう?

大野は二宮のスケジュールを把握しているのか?

「明日は……二宮が月一で実家に戻る日だ。」

「実家に?近いんですか?」

「ああ、都内らしいが、詳しくは知らん。」

都内……。

じゃ、なんでわざわざ一人暮らし……?

まだ漫画家としてデビューできてもいないのに。

一人立ちしたくて?

「父親が再婚して、家に居辛いらしい。」

「再婚……。」

「二宮と、さほど歳の変わらない母親なんだと。」

「それは……。」

大野が難しい顔で眉をしかめる。

俺もどんな顔をしていいかわからない。

男としては複雑だ。

父親が男であると言うことも、自分の本当の母親に対しても。

「では、明日の夜……決行でいいですね?」

「……絶対、一人でやるなよ?」

大野の目に力が入る。

「はい。協力すると……約束しましたから。」

俺もペットボトルを開ける。

庭の蝉の声が暑さを煽る。

夜とは言え、まだまだ暑い。

開いた窓から入り込む風も、暑い空気を送り込んでくるだけだ。

大野が、部屋の隅に置いてある扇風機をつける。

ウィーンと小さな音をさせ、扇風機が回り出す。

心なしか、扇風機の風は少し温度が低いように感じる。

「涼し……。」

扇風機の首が回って、風が通過するのに合わせて、首を伸ばす。

じんわり掻いた汗に、風が当たって気持ちいい。

「汗っかきだな。」

大野も首を伸ばす。

「俺も……忘れてました。自分が汗っかきだってこと。」

家も職場も、空調は管理されている。

熱いと感じるのは外だけだ。

でも、ここは……。

暑さを感じ、蝉の鳴き声を感じる……。

「夏ですね……。」

「そうだな……。」

大野は立ち上がり、帆船とヤスリを手にして戻ってくる。

シュッシュッとヤスリを掛け、じっと見つめる。

「その音……ヤスリだったんですね。」

「これか?」

シルバーにシュッとヤスリを掛け、音を確認する。

ほとんど変化のない帆船の船尾。

それでもきっと、じわりじわりと形を変えているはず。

「船……好きだったんですよね、昔。」

小さい頃は船とか飛行機とか、乗り物が好きだった。

夏になれば、船を作って遊んだりしたものだ。

浮かぶとか、動くとか、そう言う物に興味と憧れがあったのかもしれない。

それ自体はしっかり作られた物なのに、船が浮かぶ不思議。飛行機が飛ぶ不思議。

そして、形の美しさ。

俺が作る物が美しかった試しはないが……。

大野の手の中の帆船は、浮かぶことも動くこともない。

それでも、今にも動き出しそうなフォルムと美しさ。

俺が大野の手の中を覗き込んでいると、大野は手を止め、手の平にそれを乗せる。

「動いてる帆が……見えるみたい……。」

まだ帆船は出来上がっていない。

細部は湾曲し、おおまかに帆船だとわかる程度。

でも、それが、大海原を駆けていくのが見えるようだ。

「小さな頃……よく遊んでました。潤と……。」

「小さな頃から……知り合いなのか?」

「はい。幼馴染なんです。」

だから、気付くのが遅くなった恋。

これから始まるはずだった。

「小さな頃の記憶があるのは……いいな。」

「そうですか?」

「ああ、羨ましい……。いい思い出があるだけで……。」

大野が切なそうに笑う。

何を思ってそんな顔を?

美咲を?

美咲とは、いい思い出がなかった?

それとも……小さな頃の大野は辛い思いをした?

大野は帆船を持ち直し、またヤスリをかけ始める。

俺はそれを、黙って見ていた。

大野の手は汚れていて、でも、綺麗に見えるのは……物を作る手だからなのか。

あまりにじっと見すぎて、フッと顔を上げると、大野との距離が近くてドキッとする。

その距離のまま、俺を見つめる大野の目に、吸い込まれるように動けなくなる。

俺が潤を愛するように、美咲を愛した大野。

大野の愛は……青白い炎。

静かに、激しく熱い……。

大野の視線がスッと離れる。

催眠術を解かれたように、俺も体を元の位置に戻す。

「ふん、キスされるのを待ってたか?」

大野がニヤッと笑いながらヤスリをかける。

「ま、まさか!」

二度のキスには理由がある。

理由のないキスを大野がするはずがない。

ハッとして、大野から顔を背ける。

俺は……大野の言う通り、待っていたのか……?

大野の唇が触れるのを……。










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