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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 15話

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銭湯の番台を過ぎると、大野が腰に手を当て、コーヒー牛乳を飲んでいた。

なぜかホッとして、大野の隣へ行く。

「おう、遅かったな。」

「毎日これくらいにはなります。

 今日は早かった方で……。」

「どこも大変だな。」

大野が最後のコーヒー牛乳を飲み終わる。

「じゃ、先に帰ってるから。ゆっくり浸かれ。」

大野は乾いた体を確認して、Tシャツを被る。

俺は逆に、風呂に入るべく、Tシャツを脱いだ。



風呂に入り、汗を流すと、モアッとした外の風も、多少涼しく感じる。

アパートまでの道すがら、昨日までのことを反芻する。

美咲が生前、付き合いのあった人間……。

もちろん、大学やバイト先にもいたはずだ。

大学にも聞き込みに行ければいいが……。

だが、そんなことをしても、調べる対象が増えるだけか?

出来ればもう少し、ピンポイントで調べたい。

何か……手がかりになるものはないのだろうか。

例えば……日記とか、手帳とか。

帰ったら大野に聞いてみるか。

大野なら、美咲の恋人だったあの人なら、知っているかもしれない。

そしてできるなら……美咲の部屋を……捜索してみたいが。

……無理か?

手がかりがあるとすれば、そこしかないような気がする。

もう、引き払ってしまった後か?

いや、まだ警察が捜索中のはずだ。

潤に逮捕状は出ていない。

それならまだあの部屋に何か残っているかもしれない。

犯人を示す、何か……。

足を止め、目の前のアパートを見上げる。

築……何年くらいなのだろう。

昔はここも、人がいっぱいで、工場が終わってから、

みんなで酒を飲んだりしていたに違いない。

食堂で工場の人が酒盛りする姿を思い描き、オーナーの気持ちを察する。

蝉の声が庭の方から聞こえる。

銭湯通いも、まんざら悪くないかもしれない。



食堂に行って、冷蔵庫を開ける。

6本買ってきたはずのビールは、もう後1本になっている。

二宮が飲んでるのか?

最後の1本を開けようと手にし、思い留まる。

酒は飲まずに話をしたい。

飲むのは話が終わってからだ。

乾いた喉を潤す為、荷物をテーブルに置いたまま、外の自販機に急ぐ。

炭酸を……と思ったが、ゴクゴク飲みたくて、スポーツドリンクを選んだ。

大野の為にもう1本。

2本を持って、階段を上る。



部屋でバスタオルを乾かし、大野の部屋に向かう。

食堂にいなかったから、もう部屋だろう。

大野の部屋からシュッシュッと、変な音がする。

なんだ?何の音だ?

戸を叩き、中の様子を窺う。

人の動く気配がして、すぐに大野が戸を開けてくれる。

「さっぱりしたか?」

「はい。」

中に招き入れられ、部屋を見回す。

こざっぱりした部屋。

俺の、何もない部屋とも違う、整理された室内。

壁にかかったツナギ。

小さなカラーボックスにテレビ。

必要なものが最低限おいてある部屋。

生活感があるのに、物は少ない。

だが、端に置かれた机の上だけはごちゃごちゃといろんな物が並んでいる。

茶色や透明な瓶には薬のラベル。

ペンチやヤスリ、バーナー?

真ん中の台の上には……作りかけの……。

「これ、なんですか?」

不躾に部屋を見回す俺の隣に大野が並ぶ。

「ああ、シルバー加工。」

「シルバー?」

「そう。指輪やアクセサリー。」

工場での大野を思い出す。

細かい仕事は工場長と大野しかできないと、オーナーも言ってたっけ。

器用そうな指が、作り途中のシルバーを摘まむ。

「何を作ってるんですか?」

「これは、船。」

「船?」

「ペンダントヘッドにしようと思ってる。」

大野がじっとシルバーの細部を見詰める。

大きな帆船のフォルム。

風になびく帆のうねり。

まだ細かい加工はされていないが、確かに帆船だ。

「すごい。」

「作るだけなら誰でも作れる。」

大野はシルバーを台に置き、部屋の中央で胡坐を掻く。

もうちょっとシルバーを見ていたかったが、俺も大野の向いに胡坐を掻く。

「あ、これ……。」

ペットボトルを大野に手渡す。

「サンギュ。」

受け取ったペットボトルをすぐに開け、ゴクゴクと飲み始める大野を見て、

俺もペットボトルを開ける。

乾いた喉に染みわたる甘さ。

「はぁ~。」

息を付き、ペットボトルを閉めると、大野がニヤッと笑う。

「コーヒー牛乳は飲まなかったのか。」

「飲みました。でも、帰って来るだけで喉がカラカラで。」

大野が笑う。

「今日、業者が来てくれたんだが、部品が足りなくて直るのは週末になるそうだ。」

「週末……。」

当分銭湯通いが続くのか。

「銭湯も悪くないですけど……。」

「けど?」

文句を言うなと言いたげに、大野がジロッと俺を見る。

「さっぱりしても、帰ってくるだけで汗だくで。」

またペットボトルを口にすると、大野が笑う。

「しばらく辛抱しろ。直るんだから。」

そうだ。

直るとわかってるなら待っていられる。

潤は……出られるかどうかわからないのに、罪が晴れるのを待っている。

「さっそくですが……。」

「ん……。」

俺は少し膝を詰めた。










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