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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 14話

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アパートに帰り、大野が戸締りをし、二人一緒に階段を上る。

俺が上る度、ギシギシと階段が鳴る。

大野の足音は……。

「大野さん、どうしてギシギシ言わないんですか?」

「ギシギシ?……ああ、階段の端を歩くんだよ。

 真ん中を歩くと軋むから。」

「そうか、なるほど。」

俺も倣って端を歩く。

確かに軋む音が落ち着く。

「でも、大野さん、全然鳴らないじゃないですか。

 俺は端を歩いても鳴るのに。」

体重と動きの違い?

大野の動きは何をしていても軽やかで、静かだ。

潤とは正反対に見える。

潤は何もしてなくても、華やかで活発に見え、周囲が注目する。

本当はナイーブで甘えん坊なのに。

大野は動いていても、静寂を纏っているように見える。

その内にあるのは、美咲の話をした時のような激しい感情?

青白い炎のような大野……。

二宮の部屋の前を通り、自分の部屋に向かう。

「二宮さんはお風呂、大丈夫なのかな?」

「大丈夫だろ?子供じゃねぇし。使えないことは教えてあるんだから。」

それもそうだ。

近所に知り合いがいて、そこで入るかもしれないし、

一日くらい入らなくても……。

俺には無理だけど。

「じゃ、お休みなさい。」

鍵を開け、自分の部屋の戸を開ける。

「お休み。」

大野は俺を通り過ぎ、自分の部屋の前まで進む。

大野の部屋は一番奥。

俺の部屋とは一部屋挟んだ向こう側。

「何かわかったら……。」

部屋に消えようとする大野に声を掛ける。

大野が首だけ振り返る。

「連絡します。大野さんも。」

「……わかった。でもまずは……。」

大野が声をひそめる。

このアパートには俺と大野と二宮しかいない。

二宮を警戒してる?

「知ってることを教えてくれ。」

「今から……いえ、明日の夜……。」

大野がうなずく。

すぐにでも話をしたかったが、今日は疲れて頭が回りそうもなかった。

それに……。

これ以上、大野と一緒にいるのは危険な気がした。

大野に情が移れば、目的を見失いかねない。

俺の今一番の目的は、潤の汚名を晴らすこと。

明日は仕事だ。

今日、知った情報をノートにまとめ、明日の用意をしないと……。

俺は大野に礼をして、部屋に入った。



朝、階下に行くと、昨日と同じく大野が朝飯を食べていた。

味噌汁、納豆、アジの干物。

朝、早く起きて用意するなんて、俺には考えられない。

「おはようございます。」

「飯……食べるならあるぞ。仕事だろ?」

雑多な物に埋もれて見ていなかったが、大野の向いにもう一膳用意してある。

俺の為に……?

「あ、ありがとうございます。頂きます。」

向いに座り、急いで飯をかっ込む。

食べる予定じゃなかったから時間がない。

でも旨い!

こんな朝飯を食べるの、一人暮らしを始めてから初かもしれない。

「旨い……大野さんが作ったんですか?」

「こんなの誰でもできる。魚は焼いただけだし、米は研いでスイッチ入れるだけ。」

大野はズズッと味噌汁をすする。

「それでもすごい。味噌汁まで……。」

俺も味噌汁を口にする。

油揚げとわかめが口の中に入って来る。

「旨い!」

叫んだ俺を見て、大野がふにゃっと笑う。

「朝飯くらいちゃんと食え。一日仕事できないぞ。」

「そうですね。ほんと、ちゃんと食べないと……。」

家を出る時間は気になったが、朝飯の魅力には勝てなかった。



このアパートから会社までは、前の家と変わらない。

若干こっちの方が近いくらいだ。

朝飯を食べて家を出ても、始業時間には十分間に合った。

休みをもらったせいで溜まった仕事を、次々こなす。

朝飯の威力か?

仕事がスムーズに進む。

社長の息子とは言え、仕事は特別扱いされない。

親父から、そう指令が出ているらしい。

人間関係はやや特別扱いされてるみたいだが、

そういうのは丁重に断る。

特に女子社員の誘いは……。

正直言って、昔から女子に人気があった。

付き合ったこともある。

だが、潤ほど愛おしいと思ったことはなかった。

これほどすんなり潤を受け入れられた俺には……。

元々そんな素養があったのかもしれない。

だから……大野のキスも受け入れられた?

大野は……どうなのだろう?

美咲と付き合っていたのなら、そういう趣味があったわけではなさそうだ。

大野はなぜ俺に……?

「櫻井!ちょっと!」

課長に呼ばれ、我に返る。

いけない。

仕事中は、仕事に集中しないと。



家に帰ったのは、7時を過ぎた頃だった。

同僚から飲みに誘われたが、まだ引っ越しが残っていると言って断った。

今日は大野と話をしなければならない。

できるだけ早く帰りたかった。

アパートに着き、食堂を覗いたが、大野はいなかった。

部屋か?

でもまずはシャワーだ。

今日、業者が来ると言っていたが、直ったのだろうか。

脱衣所の戸を開ける。

風呂場の戸に貼られた『使用禁止』の文字が目に飛び込んでくる。

昨日、大野が書いた字だ。

まだ直ってないのか……。

風呂に行くなら早い方がいい。

遅くなれば、大野と話す時間がなくなる。

慌てて階段を駆け上がる。

せっかく教えてもらったのに、端を歩く余裕はない。

ギシギシ音を立てる階段を、バタバタと駆け上って行く。

大野はもう風呂に行ってしまったのか?

部屋の鍵を開ける時、大野の部屋の戸を見たが、開く様子はない。

もう風呂に行ってしまったのだろう。

急げば追い着くか?

コーヒー牛乳を飲む大野が頭を過る。

部屋に鞄を投げ、スーパーの袋を左手で掴む。

バスタオルやら着替えやらを右手で掴み、スーパーの袋に押し込む。

俺は銭湯までの道を、半分駆け足で急いだ。

なんでこんなに急いでいるのか、自分でもよくわからない。

話はきっと帰ってからだ。

銭湯でする話じゃない。

帰ってからの時間を確保するため?

そうだ。

それ以外に理由はない。

大野と……コーヒー牛乳を飲みたいわけじゃない。










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