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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 12話

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大野に連れて行かれたのは事務所の裏手。

「これ持って。あと、これも。」

大野に渡された工具箱は……、お、重い!

その上にトンカチのような物を置かれる。

「とりあえず、それだけ持ってけ。後は俺が持ってくから。」

水は出るようになったシャワー。

温度も直せるのか?

「大野さん、素人に直せるものなんですか?」

「わからん。でも、古い物は造りがわかりやすくできてんだよ。今のと違って。」

オーナーは、大野が苦労したって言ってたっけ。

これくらいは自分で直せるものなのか?

絶対俺には無理だけど……。

仕方なく、引きずるように工具箱を持ってアパートに帰る。

蝉の声がうるさい。

暗くなれば、少しはおさまるのか?

脱衣所にドカッと工具箱を置き、風呂場の戸を開ける。

壁に掛けられたシャワーから、ポチャッと一滴滴が落ちる。

シャワーの下での大野を思い出し、ズクッと、腹の中の何かが疼く。

それを否定するように、ブルブルと首を振る。

あれは不可抗力だ。

自分からしたわけじゃない。

事故みたいなもの……それだけだ。

自分に言い聞かせるようにうなずいて振り返ると、

脱衣所の入口に大野がスパナを持って立っていて、ドキッとする。

「もう少し待ってろ。直るかどうかわからんが、やるだけやってやるから。」

大野はスパナを空中でクルッと回し、俺を押しのけ、脱衣所の配管にある元栓を止める。

「外の止水栓も止めて来た。当分トイレに入れないぞ。」

「トイレも?」

「元を止めないと作業できないだろ?」

そんなことも知らないのかと、見下したような視線を向け、風呂場に入って行く。

これだからお坊ちゃんは、そう言われたような気がして、

ちょっとムッとした俺は、なんとか言い返す言葉を探す。

「お、大野さんだって、シャワー浴びれなかったら困るんじゃありませんか?」

「俺は……使えなけれは風呂に行くし。」

蛇口を丁寧に外していく。

「風呂!?銭湯があるんですか!?」

「あるよ。ちょっと歩くけどな。」

「どうして昨日教えてくれなかったんですか!」

「時間が遅かっただろ?」

外した蛇口を手に、中を覗き込む。

「あの後行っても入れず帰って来るだけだ。

 余計汗を掻くことになったぞ?」

「行ってみなくちゃわからないじゃないですか。」

「工具箱、取って。中にレンチが入ってるから。」

大野は俺の言葉を無視して、俺に向かって手を差し出す。

「レンチ……?」

レンチくらい、取って渡したいところだが、俺にはこれがレンチだ、と言える自信がない。

仕方なく、工具箱を大野の隣に置く。

蓋を開け、ガチャガチャと中を引っ掻き回し、探し物のレンチを手にする。

あれがレンチか……。

大野が作業を始め、俺は壁を背に寄りかかる。

「大野さんはなんでもできるんですね。」

「できることはやる。それだけだ。」

風呂場の小さな窓から差し込む夕日が、大野の背を染める。

日に焼けた肌が金色に光る。

細かく動く、節だった男らしい指。

半分シルエットになる横顔。

こんな大野を見たら、美咲が惚れてもおかしくない?

「大野さんは……美咲さんと仲がよかったんですか?」

大野は黙って、作業を進める。

「昨日……あんなに怒ったのは……美咲さんと恋人同士だったから……?」

俺の声が、大野の作業する音と共に、空しく反響する。

きっと聞いても答えてくれない。

大野が答えてくれなければ、美咲がいない今、誰にも知られることはない。

「……だったらどうする?」

大野の低い声が響く。

「え?」

「だったらどうするんだ?」

美咲と大野が恋人同士だったら……。

だからって、潤の疑いが晴れるわけじゃない。

俺が知りたいのはそんなことじゃないはずだ。

「どうして……俺が潤の関係者だってわかったんですか?」

大野はまたガサゴソと、工具箱を引っ掻き回す。

「美咲が……松本の話をしてくれた時に……おまえの話もしてたんだよ。」

「俺の?」

「今付き合ってる人には、すごく大事な幼馴染がいるって。」

付き合ってる……?

潤と美咲は付き合ってた?

まさか!

「その人は、なんでもできて、なんでも持ってて……。」

大野がドライバーを中に突っ込む。

「松本の憧れの人なんだと。」

潤……。

「お前を見て、すぐにわかった。

 普段でも部屋の空いてるこのアパートに、おまえみたいのが越して来たんだ。

 事件のあった直後に。

 おかしいと思って当然だろ?」

「それは……。」

父親に勘当されて……と、二宮に付いたような嘘は付けない。

大野は俺が潤の関係者だと知っている。

俺は昨日、否定しなかった。

「でも、潤は絶対やってない!」

「どうしてそう言い切れる?」

大野が作業の手を止め、俺を見上げる。

「潤は……俺達は、来週には一緒に暮らす予定だった。」

「一緒に暮らす?」

見上げる大野の顔は、半分シルエットで表情が読み取れない。

「俺達は……付き合ってる。」

グッと壁に付いた拳を握り込む。

潤とのことを人に言うのは初めてだ。

「本気か?」

「本気だ。本気で愛し合ってる。」

大野はじっと俺の顔を見つめてる。

何を思い、何を考えてる?

美咲のことか?

「それが原因か。松本が美咲を殺した……。」

「違う!潤はそんなやつじゃない!」

「どうしてわかる?」

大野が工具箱の中にドライバーを放り込む。

ガシャンと金属音が響いて、俺の前に立ち上がる。

「潤は……純粋なやつだ。一途すぎて我が儘なところもあるけど、

 決して人を殺したりしない!

 俺と一緒に暮らす為にも!」

大野の顔が近づき、鋭い視線で俺を見据える。

「美咲が死んだのは事実だ。」

「だから!……だから、真犯人を探してる。

 協力……してもらえないだろうか?」

「協力?」

「そうだ。美咲さんが死んだ真相を……一緒に探さないか?」

大野はじっと俺を見たまま動かない。

窓から差し込む夕日が眩しくなる。

蝉の声が、今日、最後の声とばかりに鳴き続ける。

「真相をさぐって……。」

大野の声は小さいくせに、やけに響く。

「もし松本が犯人だとわかったら……俺が殺す。

 それでもいいか?」

「潤はやってない!」

「やってないと……自信があるならいいだろう?」

潤は無実だ。

真相がわかったら、俺達は一緒に暮らす……。

その為に、俺はここに来たんだ。

俺は確かめるようにゆっくりうなずく。

「契約、成立だ。」

大野の唇が動き、徐々に近づいてくる。

大野は恋人の死の真相を知る為、俺は恋人のぬれぎぬを晴らす為。

その為の契約のキス……。










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