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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 9話

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生姜焼き定食はオススメだけあって美味しかった。

何度か通えばもう少し話してくれるようになるか?

徐々に混みだした店内は、もうすでにいっぱいで、相葉が通る通路も狭い。

早く食べないと迷惑だなと思った時、相葉が相席を尋ねて来た。

もちろんOKし、生姜焼きを口に詰め込む。

さっさと出た方が良さそうだ。

ほどなくして前の席に座ったのは……。

「……え?」

目の前に座った顔はこっちを見もしない。

「ここも人手不足だな。」

「小さな店だから、人雇うのは無理なの!」

前に座った大野は生姜焼きを注文し、相葉も忙しそうに、他の客の所へ行く。

「ほーぉ……さん?」

「口の中がなくなってからしゃべれ。」

大野はお冷を一口飲むと、タオルで額の汗を拭く。

仕事している時は着ていたはずのツナギの上を、今日も降ろしている。

タンクトップから出る二の腕が、力強さと男らしさを強調する。

「ここ、見つけるの早ぇな。」

「お腹空いて歩いてたら……。」

「見つけたのか?おまえの嗅覚、すげぇな。」

遅れて出されたおしぼりを、バリッと開き、顔を拭う。

拭いたおしぼりを確認する大野を見て、クスッと笑いが込み上げる。

さっぱりした大野の顔は童顔で、なのにおしぼりを確認する仕草はおじさん臭くて。

「なんだよ、何笑ってんだ。」

「いや……なんか、大野さん、可愛い顔してるんだなぁと思って……。」

「おまえに言われたかねぇよ。」

意外にも、照れ臭そうに顔を背ける大野に、さらに笑いが零れる。

「笑うな。」

「笑ってません……。」

「うそつけ!」

口を尖らせた大野が、俺を睨む。

「すみません、嘘つきました。」

小さく舌を出すと、大野も笑った。

ふにゃっと顔を崩すように笑う大野に、ドキッとする。

こんな顔もできるんだ……。

生姜焼き定食は食べ終わっていたが、もう少し大野と話したい。

待ってる客がいるのはわかっているが、

ゆっくりお冷を飲み、付け合わせのキャベツを頬張る。

「大野さん、あそこは長いんですか?」

「……そろそろ3年になるか……。」

「3年……。」

「俺には行くところがないからな。あれくらいがちょうどいい。」

両親が離婚して、父親も亡くなったと言ってたっけ。

母親は?

だが、まだ知り合って二日の俺には聞けない。

相葉が大野の生姜焼きを持って来る。

「大盛りにしといたよ。午後も仕事頑張って。」

「おう、ありがと。」

あの、ふにゃっとした笑い方を相葉に向ける。

相葉にはその顔を簡単に見せる仲?

俺にはさっき初めてだったのに……。

親し気な二人が、なぜか面白くない。

「さっさと退いてやれ。待ってんぞ。」

大野がチラッとレジ横で待つ客に視線を送る。

「……わかってます。」

追い返されるようでムッとする。

大野はきっと何かを知ってる。

美咲の何か……。

それが事件の糸口になるかもしれない。

聞きたいが、ここでは無理だ。

俺はガタッと椅子を引いて立ち上がる。

「じゃ、お先に……。」

「おぅ。」

生姜焼きをがっつく大野のつむじを見て、俺はレジに向かった。



午後は近所のお店を回った。

話好きの八百屋の奥さんや、世話好きそうな豆腐屋のおばさんと少し話をし、

事件のことを聞いてみたが、大した話は聞けなかった。

やはりもっと近い人間でないと無理か……。

まずは相葉か……。

大野はきっと話してくれない。

二宮も、何か知っていたとしても、もう少し親しくならないと無理だろう。

相葉なら、親しみやすさを逆手に取れば、知ってることを話してくれるはず。

相葉の店は9時まで営業している。

仕事終り、ギリギリに店に行ってみるか……。

炎天下に歩き回って、汗が滝のように流れてくる。

今年は例年にない猛暑。

ジリつく太陽は熱く、肌を焦がす。

仕事で外回りに出ても、これほど外を出歩くことはない。

交通手段を使って回れば、すぐに涼しい場所に行きあたる。

あまりの暑さに、目に入った喫茶店に足を向ける。

商店街も終りに差し掛かった辺りの喫茶店は、

寂れた様子がレトロな雰囲気を醸し出している。

入ったことはないが、純喫茶と言う感じか。

どこでもいい。

冷たいカフェオレが飲みたい。

喫茶店のドアを開けると、昔懐かしいドアベルがカランと鳴る。

「いらっしゃいませ。」

エプロン姿の中年の女性が出て来て、窓際の席を勧めてくれる。

俺は素直にその席に座り、おしぼりを受け取る。

「見ない顔ね?最近越して来たの?」

店員はいかにも世話焼きといった笑顔で、メニューを開く。

「どうしてわかったんですか?

 そうです。昨日越して来たんです。」

「ふふふ。この店に来るのは常連さんがほとんど。

 最近は違うのも来たりしてたけど……、あなた、そんな感じに見えないし。」

違うの……というのは、警察や記者のことか?

「なんか……事件があったみたいですね……。」

「そうなのよ、もう聞いた?」

「はい。どんな事件なんですか?」

店員は誰もいない店内をキョロキョロと見回し、声をひそめる。

「……殺人事件。」

「殺人!?」

大げさに驚いて見せる。

店員は俺の様子に満足し、話を続ける。

「そうなのよ。若い女の子が殺されたの。

 きっと愛情の縺れね。三角関係よ。」

「どうして……そう思うんですか?」

店員はさらに声をひそめる。

「その子ね、ここに何度か来たことがあるんだけど……、違う男と来てたの。」










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