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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 8話

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アパートを出て、隣の工場の前を通り、足を止める。

何を作っている工場なんだろう……。

鮫島製作所……?

工場の屋根に近い部分に、白いペンキで大きく書かれている名前。

鉄の匂いと油の匂い。

機械の動く音が聞こえてくる。

開けっ放しの工場の入口から、チラッと中を覗いてみる。

等間隔に並べられた機械が4つ、それぞれ不揃いな音をさせる。

機械一つに一人、オペレーターが付き、時々、大きな音が工場に響き渡る。

大野は……。

奥から二つ目の機械を前に、真剣な表情で手を動かす大野が見える。

油にまみれ、ヨレヨレのツナギで機械を操作していく姿は、男らしく……。

風呂場での大野を思い出す。

力強く強引な唇……。

頭を振って歩き出す。

大野は美咲の恋人として、一番有力だ。

潤の可能性もないわけではないが……。

ふと立ち止まって考える。

部屋にまで入れてくれて、話をしてくれたが……。

二宮は、自分の話をほとんどしてくれなかった。

俺が知ったのは、二宮の歳と漫画を描いてるということだけだ。

二宮は……一番食えない男かもしれない……。

今日も太陽の陽ざしは強い。

真夏の太陽が、ジリジリと肌を焼いていくのを感じる。

腕を撫で、腕時計を見てみると、11時を少し回ったところだ。

さて、情報を集める為にはどうしたらいいか……。

曲がり道でキョロキョロする。

今日の昼飯は、中華料理だ。

中華料理屋を見つけておいた方がいいか……。

駅までの道を歩きながら、頭の中で今日の行動を繰り返し精査した。



中華料理屋はすぐにわかった。

通りからは外れていたが、ラーメン屋には珍しい緑の暖簾が目を引いた。

古い中華料理屋だが、どこかお洒落な感じがするのはなぜなのだろう?

中華料理屋の前に立ち、暖簾を見上げる。

相葉亭と書かれた暖簾が、パタッと小さな風に揺れる。

まだ忙しくなる前か?

少し話ができるだろうか……。

暖簾をくぐり、ガラガラと引き戸を開ける。

店内には客がすでに入っていて、ところどころ席が埋まっている。

「いらっしゃいませ!」

威勢のよい声が聞こえてくる。

中に入ると、背の高い細身の男が、お冷を手にしてやってくる。

「御一人様で?」

「はい。」

俺がうなずくと、人好きのする笑顔で、右端の席を勧めてくれる。

「混んで来たら相席、お願いします。」

明るい声でそう言われ、黙ってうなずく。

昼時にはそれくらい込むってことか。

結構繁盛してるんだな。

「ご注文は?」

男はテーブルにお冷を置き、尻ポケットから注文票を取り出す。

「……ここのオススメは?」

「そうですねぇ、やっぱりラーメン?チャーハンも評判いいですよ。

 あ、俺が好きなのは生姜焼き定食だけど。」

ラーメン屋のくせに生姜焼きが好きだと言う男は、くふふと、楽しそうに笑う。

「じゃ、オススメの生姜焼き定食で。」

「え~、オススメしたわけじゃないんだけどなぁ。

 でも、美味しいから食べて。」

初めての客にもフレンドリーなのは、下町らしさ?

「ここの、店長さん?」

「そうです。店長の相葉です。」

注文票から顔を上げ、相葉がにこやかに笑う。

「今度……工場裏のアパートに引っ越して来たんですけど……。」

「あ~あ、あそこ?入ったんだ?よかった!」

「よかった?」

俺が首を捻ると、しまった!と言う顔付きで、小刻みに首を横に振る。

「あ~、あそこ、なかなか人が入らなくて、辞めちゃおうかって言ってたから。」

「それは……あそこのオーナーが?」

「そうそう、工場の親父さんの奥さんなんだけどね。

 俺が小さい頃はあのアパート、工場の人の下宿みたいになってて。

 今の若い人は、ほら、綺麗なとこに住みたがるから。」

人がなかなか入らないアパートで、さらに殺人事件では……。

もう潰すしかないと言うことか。

「それでも、気に入って住んでくれてる人もいるしって……。

 俺、結構いいと思うんだけどなぁ、レトロで。」

レトロと言うよりは、ボロいだけのような気はするが。

それもあって、大野は夜電話するのを止めたのか?

直さなければならない箇所が多ければ……あそこがつぶれる可能性は高い。

「ま、とにかくよかったよ。大野さんも喜ぶ。」

「大野さん?」

「あれ?会ってない?」

「あ、会いました。昨日……。」

「いい人だから、大野さん。口数少ないけど、頼りになるし。」

住人の話になったのは好都合。

そろそろ切り出してみるか……。

「あそこ、女の人も住んでたんですよね?

 女の人には住みづらそうだけど。」

ギクッとあからさまに顔色が変わる。

「そうでもなかったみたいだよ?

 部屋は普通に別々だし。」

「でも、お風呂も共同で……、若い女の人は嫌なんじゃないですか?」

「まあ……そういうのが気になる子は無理かもね。」

相葉がキッチンに戻ろうとする。

引き留めるように、声を大きくする。

「じゃ、そういうのが気にならない素朴な子だったんだ。」

「そうだよ、素朴ないい子だった……。」

半分体を捻って振り返った相葉の目は、潤んで見える。

「親しかったんですか?」

「たまに……食べに来てくれてたから。

 大人しい子だったけど、芯の強い子で、笑うと可愛くて。」

食べに来ただけでそこまでわかるか?

美咲の恋人は……相葉か?

「プライベートでもお付き合いがあったんですね。」

「……たいした付き合いじゃないけど……、よく食べに来てくれてたんだ。」

相葉は無理に笑ってキッチンに戻って行った。

それ以上は聞けず、注文が出来上がるまで、相葉がこっちに来ることはなかった。










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