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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 7話

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「う~ん、少しはよくなったかな~。」

二宮が肩をクルクル回しながら、首も回す。

「漫画家って肩が凝るんですね。」

「そりゃそうよ、一日机に向かってカキカキしてるんだから。」

コーラを煽り、大人にしては小さな可愛らしい手で、傍らのポテトチップを摘まむ。

「で?画伯が聞きたいのは事件のことだっけ?」

「ええ、何が起こったんですか?」

「……殺人事件。」

二宮はニヤリと笑って、またポテトチップを口に放った。



二宮の話は、俺の知ってることがほとんどだった。

「……ということは、その男の叫び声を聞いて、二宮さんが駆け付けたと。」

「そうそう、びっくりして。

 描きながらいつの間にか寝てたんだなぁ。飛び起きたよね。」

「で、あの部屋を見たら……。」

「血の海よ。」

二宮の顔は、明らかに俺を怖がらせたがっていたので、俺はそれに乗って怖がって見せる。

「ぞっとしますね……。」

「だろ?」

二宮がポテトチップをパリッと食べる。

「でも……。」

俺は考えるように顎を撫でる。

「女の悲鳴は聞こえなかったんですね?」

「そう言えば……そうだな、聞いてない。」

「不自然ですよね。襲われたんなら、女の悲鳴で目覚めそうなものなのに。」

「ん~、でも、口を塞いで刺されたのかもしれないし、

 俺が気づかなかっただけかもしれないし。

 一概に不自然とも言えないんじゃないの?

 犯人の手には血がべったりついてたから、疑う余地なし!」

「血が?」

「俺が入った時、血の付いた手で携帯かけてた。」

それは警察と救急車に電話してた時だろう。

「被害者の女ってどんな人だったんですか?」

「どんなって……普通の女子大生よ。

 でも、こんなとこに住んでるくらいだから、あんまお金はなかったんじゃない?

 いつもパッとしない恰好してたし。」

写真で見た柴山美咲はそんな感じではなかったが……?

服装も、そこそこ小奇麗にしていたし……。

「ああ、たまにおしゃれして出て行く時があったな。

 あれ、デートの時だったのかなぁ。」

「彼氏はいたんですか?」

「どうだろ?いてもここには連れてこないでしょ?」

二宮が天井を見回す。

木目がそのままの天井はところどころシミで黒くなっている。

裸電球が似合いそうな風情だ。

「そうですね……女子大生向きの部屋ではなさそう……。」

「画伯だってそうよ、ここには似つかわしくないから。」

「そうですか?」

俺が頭を掻くと、二宮がまたニヤッと笑う。

「なんの為にここに来たの?本当は事件関係者?」

「ち、違います!」

慌てて否定する。

犯人の恋人だとわかったら、警戒されて話も聞けなくなる。

「じゃ……二宮さんには正直に話しますけど……。

 確かに俺の実家はそこそこ裕福です。

 ……でも、先日、親父に勘当されまして……。」

「勘当!?」

「はい……。家を継ぎたくないと言ったら、それならここを出て行け!と……。

 だから、今はこのアパートが相応なんです。」

なまじ全部うそじゃない。

潤とのことを考えてから……親父の跡を継ぐのは辞めようと思っていた。

跡を継げば、世間の冷たい視線に潤を晒すことになる。

それくらいなら、二人で知らない土地で暮らす方がいいのではないか、と。

「イマドキあるんだな?そんな話。」

「そうなんですよ。」

二宮の目に少し同情の色が浮かぶ。

「で、画伯の実家って何してるの?」

……考えてなかった……ちょっと裕福で跡を継ぐような家……。

「さ、酒蔵です!」

「酒蔵?」

「はい。でも俺、あんまり呑めなくて……。

 蔵にいるだけで酔いそうで……。」

「そりゃ、継ぎたくないわ。」

「はい……。」

二宮は信じてくれたのか、俺の背中をバンバン叩いた。

「大丈夫。人間、なんとかやっていけるもんよ?」

「はぁ……。」

さて、どうやって美咲の話に戻そうか?

このまま脱線し続けられては困る。

しかし、幸運なことに二宮から話を振ってくれた。

「そうだ、柴山さんと仲良かった人、いたいた。」

「え?誰です?」

「近所の中華料理店の店主。」

「店主?」

「店主って言ってもまだ若いよ?俺らと同じくらいかな?

 あ、画伯はいくつ?」

「俺は24ですけど……。」

「え?そんなに若いの?落ち着いてるからもっと上かと思った。」

「よく言われます……。」

肩を下げてそう言うと、二宮が塩の付いた指をペロッと舐める。

「いいことじゃん。俺なんて、いつまでたっても17くらいって言われるよ。」

確かに、二宮なら制服を着ても通用しそうに見える。

「二宮さんはいくつなんですか?」

「俺?22。」

22……潤と同じか……。

「二宮さん、彼女はいないんですか?」

「彼女?俺の恋人は漫画だから!」

二宮はふざけたようにそう言って、最後のコーラを流し込んだ。

「ちなみに大野さんは25だったかな?」

空になったペットボトルに蓋をする。

二宮が若く見えるのはこの手のせいもあるのだろうか。

丸く厚みのある手は子供のようだ。

「大野さんも落ち着いてますよね。」

「ああ、あの人苦労してるから。」

「苦労?」

「らしいよ?なんでも、小さい頃に両親が離婚して、ずっと父親と二人暮らしで。

 その父親も病弱で、もういないって話だから。」

「それは……大変でしたね……。」

「でも、いい人よ?たまにハンバーグ作ってくれるし。」

二宮がチラッと時計を見る。

そろそろ帰った方がいいか……。

でも最後に……。

「大野さんも付き合ってる人はいないんですか?」

「付き合ってる人?いないんじゃないのかな?

 女っ気、なさそうだもん。工場、男ばっかだし。」

「その……亡くなった人と親しかったとか……。」

「柴山さん?それはないんじゃないかな?

 そんな雰囲気はなかったよ。普通にしゃべってはいたけど。」

……親しくなかった?

なのにあのセリフ?

二人の関係は隠すようなものだったのか?

なぜ?

やはり美咲の恋人は大野?

俺は二宮に暇を告げ、アパートを出た。










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