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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 6話

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大野は8時きっかりに家を出た。

朝食の皿を洗い、昨日と同じツナギを着た大野は、昨日と何も変わりがない。

美咲は、本当に大野の恋人?

ただ近所に住む女友達?

聞いたら本当のことを教えてくれるだろうか?

俺はインスタントコーヒーを淹れ、ダイニングを漁る。

どこかに美咲の残した物があるかもしれない。

乱雑なテーブルの上にあるのは、いつのものかわからない雑誌と新聞、

飲み残したペットボトル、お菓子の包み紙、チラシ……。

仕方なく、ペットボトルは洗い、ゴミはゴミ箱に捨てる。

少し片づけないと何もみつからない……。

雑誌と新聞を重ねていると、階段が軋む音がする。

二宮か?

廊下の方に目をやり、人影を確かめる。

二宮が、子供のように目を擦りながら食堂に入って来る。

「おはようございます。」

手を止め、笑顔で挨拶する。

「おはよ。」

大きな欠伸と共に冷蔵庫を開ける。

中から飲みかけのコーラを出し、少し顔を上げて、ゴクゴク飲んでいく。

白い喉が波打つ。

喉仏に違和感を感じるほど、白く細い首。

こうして見ると……二宮も綺麗な顔をしている。

きめの細かい、触り心地の良さそうな肌に、華奢な肩。

口元のホクロも意識して見れば艶めかしく、茶色い瞳は……俺を見つめる。

「なに?何見てんの?」

「あ、いや……すみません。不躾で……。」

「いいけど……今日は休み?」

「はい。今日まで休みを頂きました。」

「ふぅん……。」

二宮が、下目遣いでまたコーラを煽る。

「で?なに?」

「何って……。」

二宮の言わんとすることがわからない。

俺が見ていたのがそんなに不満か?

会話が始まったら、相手を見るのは当然だろう?

「なんか、聞きたいこと、あんでしょ?」

ドキッとして……思わず顔に出る。

「図星だ。なに?やっぱりあんた、記者?」

ブンブンと首を振る。

「違います、違います!でも……隣の部屋で事件って……気になるじゃないですか。」

いいぞ。これで美咲のことが聞ける。

「気にしなくていいよ。」

二宮はペットボトルのキャップを閉める。

「気になりますって!……何があったんですか?」

「聞きたい?」

二宮がニヤリと笑う。

怖がらせて楽しもうってことか?

「はい……。教えてください。」

「そうだな……俺の頼み、聞いてくれたら話してやってもいいよ。」

「頼み……?俺にできることなら……。」

二宮は、コーラを持ったまま、ニヤニヤ笑って俺の腕を引いた。



「違う~っ!うっ、そこ……じゃないっ!」

「こ、ここですか?」

「違う!ヘタクソ!」

「じゃ……ここ?」

「あ……あぁ、いぃ……そこっ!」

「ここですね?」

「ああっ……もっと……。」

「こ、こう?」

「あ~んっ、もっと強くっ。」

「こ……これくらい?」

「……もっ…と……っ!」

「こ、これで精一杯です!」

二宮の肩を、親指で目いっぱい押す。

「力が足んないんだって!もっと強くっ!」

ガチガチの二宮の肩は、どんなに押しても柔らかくならない。

「む、無理です!これ以上はっ!」

全体重を親指に乗せる。

「弱いって!マッサージもできないの?

 これだからお坊ちゃんは……。」

俺は手を止め、二宮の後頭部を見つめる。

「大野さんにも言われました、お坊ちゃんって……。

 なんでそう思うんですか?俺のこと、何か知ってるんですか?」

二宮が、顔だけで振り返る。

「あんた、それ、本気で言ってる?街中で聞いてみ?

 10人聞いたら9人はあんたのことお坊ちゃんって答えるよ。

 間違いなく。」

え?なぜ?

不思議そうに二宮を見る俺を、不憫そうに見返し、俺のTシャツを引っ張る。

「手入れもしてなさそうに皺つけて着てるけど、これ、一枚いくら?」

このTシャツ?

さぁ、いくらだろう?

いちいち覚えてるわけがない。

「俺のはもらいもの。」

二宮が襟の伸びた自分のTシャツを引っ張る。

「でも、服なんて気に入ったもの着てれば……。」

フォローしようとそう言ったが、二宮は、それを否定するように首を振る。

「気に入るとかじゃないの。俺にとっちゃ、なんでもいいのよ、服なんて。」

そういうだけあって、二宮の着ている服はちょっと変わっている。

胸の真ん中に、『行け!今のままで』と書かれた黄色のTシャツ。

確かにあまり見たことがない。

二宮はTシャツの裾を両手で引っ張り、自分でTシャツの文字を読む。

「第一、今のままじゃいけないのよ。世間が、俺の才能に気付かないと!

 俺は、ここを第二のトキワ荘と言わせてみせる!」

え?一人で?

「その為にも、あんたの画力を見せてよ。ちょっとここに書いてみて。

 そうだな……あんたの知ってるキャラクターでいいや、なんかないの?」

突然、そんなこと言われても……。

怯む俺に、二宮が無理やりペンを持たせる。

「いいから、描いて。上手かったら、〆切間際は手伝ってもらうから。」

「〆切って……もう連載、お持ちなんですか?」

二宮は、ふんっと鼻を鳴らして俺を見上げる。

「連載……みたいなもん?新人賞の応募〆切!」

そっちの〆切……。

話してみると、二宮も若く見えるが、結構年なのかも……。

仕方なく、思い出せるキャラクターの絵を描く。

それを見た二宮は、それ以来、俺のことを画伯と呼ぶようになった。

絵を褒められたことなど一度もないが……。

見る人が見ると、わかるのか?










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