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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 3話

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ひと眠りし、荷物を整理すると、階下へ降りて行く。

例え暫くとは言え、ここに住むのだから、消耗品を買っておきたい。

食堂から見える庭にも、緑の中に夕暮れの気配を感じる。

時計の針は、7時を少し過ぎたことを示している。

近くにコンビニはあるだろうか。

肌に貼りつくシャツを引っ張る。

フワッと空気が入り、一瞬ヒヤッとする。

それと同時にモワッと汗の匂いが鼻につく。

できればシャワーを浴びたい……。

だが、買い物が先だ。

シャンプーだのボディソープだの、買ってこなければシャワーを浴びることもできない。

玄関で靴を履いていると、ガラッと戸が開く。

入って来た大野が、不満そうな顔で俺を見る。

「まだいたのか。出て行けって言わなかったか。」

大野の目は相変わらず冷ややかだ。

「ここに住むって、俺も言いませんでしたっけ?」

大野の脇を素通りし、玄関を出ようとして、大野の腕に遮られる。

「どこへ行く。」

「近くのコンビニへ。シャンプーも石鹸もないから。」

「2、3日なら俺のを貸してやる。」

どうあってもここを出て行かせたいんだな。

俺は大野の腕を振り切り、外へ出る。

「結構です。自分のを使いますから。」

家の前の小さな道で、左右を見回し、キョロキョロする。

駅はどっちだっただろう……。

駅方面に行けば、どんな所でも、コンビニの1つや2つあるはずだ。

下町とは言え、ここも東京。

コンビニすらない所など、そうそうない。

大野に聞こうかという思いが、一瞬頭を過ったが、すぐに否定する。

あいつが素直に教えてくれるわけがない。

仕方なく、右に向かって歩き始める。

「どこへ行く。」

まだ出て行けと言うのか?

大野のしつこさに嫌気がさし、振り返って大声を上げる。

「だから、コンビニへ!俺は出て行きません!」

俺の声にひるむことなく、大野が淡々と言う。

「そっちにコンビニはねぇよ。

 左の道を真っすぐ行けば、ドラッグストアとスーパーがある。

 コンビニはその先だ。」

生活に必要な店……教えてくれたのか……?

「え、あ……ありがとう。」

大野は何も言わず、玄関に入って行く。

不愛想なやつ……。

俺は教えられた道を進み、ドラッグストアで消耗品を買い込む。

明日の朝用の菓子パンと、飲み物も数本。

冷蔵庫は共同だって言ってたっけ。

少し考えて、ビール6本ケースもレジに持って行く。

暫く顔を合わせるんだ。

お礼くらいは必要だろう。

何か手がかりを持っているかもしれないし……。

レジ脇で、乾き物も2、3個カゴに放り込んだ。



アパートに帰ると、大野が食堂でテレビを見ていた。

シャワーを浴びた後なのか、ハーフパンツとTシャツに着替え、

さっぱりとして、昼間より若く見える。

俺より年上かと思ったが……年下か?

「大野さん、先ほどはありがとうございました。」

テーブルの上でビールをまとめた紙を破り、1本を大野の前に置く。

「何が?」

「コンビニまでの道、教えてもらって……。」

自分用にも1本置き、残りを冷蔵庫にしまう。

「名前、書いとかないと飲まれんぞ。」

「ああ、いいですよ。飲みたかったら飲んでください。」

「俺じゃねぇよ。もう一人の同居人。」

もう一人の……ああ、二宮さん?

俺はクスッと笑って、自分の缶のプルタブを引く。

プシュッと音がして、プルタブの形に沿って小さな泡が盛り上がる。

慌てて口をつけ、ゴクッと飲み込む。

「ぷはぁ~、うめ……。

 いいですよ。二宮さんにも飲んでもらって。」

「なんだ、二宮にも会ったのか?」

「はい、先ほど挨拶させてもらいました。」

バリッと、買って来た乾き物の袋を開ける。

「そんなもんばっか食ってっと、体がもたないぞ。」

大野は自分の目の前にある惣菜を俺の方に寄せる。

「あ、ありがとうございます。」

ほうれん草のおひたしに冷ややっこ、出汁巻き卵……。

酒のツマミにもちょうどいいメニュー。

「へぇ~、どこで買って来たんですか?」

割り箸を割り、ほうれん草に箸を出す。

「ばか、こんなもの買ってくるか。」

「え?自分で作ったんですか?」

「これくらい、誰でも作れる。」

大野もビールを開け、ゴクゴクと喉を鳴らして流し込む。

それを見ながら、俺もほうれん草を口にする。

意外にも出汁の利いた上品な味だ。

「うまっ。」

さらにほうれん草を頬張る。

「めちゃめちゃ旨い!」

「大したことねぇよ。」

大野がグビッと音をさせてビールを飲む。

褒められて照れたのか、俺と視線を合わせてくれない。

「二宮さんて……何してる人なんですか?」

大野は視線をテレビに移し、冷ややっこを摘まむ。

「いや、昼間から家にいたし……何の仕事してるのかなと思って……。」

「おまえだって同じじゃん。」

「俺は……今日明日は引っ越しなので有給取りました。」

大野が、ふぅんと顎を上げる。

何を考えているのか、怪訝そうに俺を見る。

「二宮は……漫画家だそうだ。」

「……漫画家?」

「本人曰く、これから手塚治虫みたいな大作家になるんだと。

 俺は読んだことねぇけどな?」

なるほど。

それで昼間から家に……。

なら、事件のあった日も、家にいた可能性は高い。

何か……知っているのか?

出し巻き卵に箸を伸ばし、躊躇する。

潤も……よく出し巻き卵を作ってくれたっけ。

もう一度ほうれん草を摘み、喉にビールを流し込んだ。










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