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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 2話

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雑然と物の置かれたダイニングテーブルで、向き合ってカレーを食べる。

「うまっ。あなたが作ったんですか?」

大野は返事することなく、カレーを食べ続ける。

「ここ……格安でしたけど、住み心地はどうです?」

大野がチラッと俺を見る。

「……いいんじゃねぇの?」

グラスに注がれた麦茶をゴクゴクと飲む。

首筋を伝うのは、汗と麦茶。

開けっ放しのこの部屋にクーラーはない。

大野はどこからかタオルを取り出し、首筋を拭う。

「便所、風呂、ここは共同。別々なのは部屋のみ。

 部屋には鍵がかかる……。鍵、持ってるだろ?」

俺はポケットから赤いキーホルダーの付いた鍵を取り出す。

「鍵に部屋番号がついてなくて……。

 俺、203号室でいいんですよね?」

黒板を差し、鍵をチャリンと鳴らす。

「……本当にあの部屋でいいんだな?」

「あの部屋でって……どういう意味?」

大野はじっと俺を見つめる。

「知らねぇの?」

「知らないって……何が?」

俺はすっ呆けて答える。

知ってるから来たんだ。

潤との新居じゃなく、ここへ。

「あの部屋の隣……204号室の事件。」

「事件って……。」

「悪いことは言わねぇ。すぐ出てけ。」

大野は最後のカレーを頬張ると、口を拭いて立ち上がる。

「無理です。元いた家は引き払っちゃったし。」

「だったら新しいとこ早く見つけろ。」

言いながら、大野が庭に下りて行く。

「大野さん!」

靴のつま先でトントンと地面を蹴りながら、大野が振り返る。

風がそよぎ、樹々が揺れる。

日焼けした大野の肩に、木漏れ日が当たる。

汗でしっとりした肌が光り、動く度、筋肉の影が移動する。

「おまえみたいのが来るとこじゃねぇ。出て行け。」

大野はそう言い捨てて、庭を出て行く。

「そんなこと……。」

言われなくてもわかってる。

潤のことがなかったら、こんなとこに来やしない。

用が住んだらすぐ出て行ってやるよ。

俺は心の中で呟いて、残ったカレーを詰め込むと、キャリーバックを置いた玄関に向かう。

バックを抱え、一段一段踏みしめ、階段を上って行く。

足を踏み出す度に、ギシギシと木が軋む音がする。

今にも板が抜けそうな階段……。

これじゃ、外からの進入はすぐにばれるな……。

事件は、ここで起きた。

ここの二階。

204号室。

俺がこれから住む部屋の隣。

被害者、柴山美咲が見つかった場所……。

二階に上がり、廊下を見渡す。

部屋はL字型に並んでいる。

201号室がL字型の短い部分。

202号室からは順番に205号室まで横並びだ。

「あの、大野って人、何号室なんだろ。」

俺は204号室のノブに手を掛ける。

ガチャッと回してみる。

もちろん鍵がかかっている。

本当はこの部屋を借りて調べたかった。

が、さすがに貸してはくれない。

まだ、警察が調べている途中なのかもしれない。

弁護士は、決定的な証拠がないと言っていた。

全ては状況証拠のみ。

だが、その状況証拠は全て潤に向いている。

それなら……俺が、真犯人を見つけてみせる。

潤を有罪になんかしない!

潤は、無実なのだから!

「そこで何してんの?」

俺はパッと手を離す。

振り返ってみると、よれよれのTシャツに微妙な丈のハーフパンツの男が、

205号室のドアから顔を覗かせている。

「あんた、誰?」

寝癖のついた髪をバサバサと掻く。

こいつ、風呂に入ってるのか?

「あ、すみません、まだ部屋も見ていないので、挨拶が遅れました。」

俺は身なりを正し、手を前で合わせる。

「今度、203号室に越してきました、櫻井です。」

軽く会釈して、にっこり笑う。

「ふぅん、203……。そこ、204だけど?」

気付かなかった風を装い、びっくりして見せる。

「あ、そうだったんですね。どうりで開かないと思った。」

「203はその奥。番号のとこに色ついてるでしょ?それが鍵の目印。」

俺は鍵を取り出し、203号室の前に移動する。

確かに部屋番号の色が赤くなっている。

204号室は紫、205号室は黄色。

「他の人は……外出中ですか?」

「201の大野さんは、隣の工場で働いてる。

 夕方にならないと戻らないと思うよ。

 202と204はいない。」

「じゃ、今、ここに住んでるのは、大野さんと俺と……。」

俺は205号室の住人を指さす。

「そ、3人。あ、俺、二宮。」

「二宮さん……よろしくお願いします……。」

二宮は胡散臭そうな目で俺を見る。

「あんた……雑誌の記者とかじゃないよね?」

「雑誌の記者……?どうして俺が……?」

「ああ、違うならいいのいいの。最近、うるさいのが多くて。」

「……うるさいって……?」

「ま、いいよ、そのうちわかるでしょ。じゃ。」

二宮は言うだけ言うとドアを閉める。

「あ、ちょっと……。」

ドアを追ったが無駄だった。

俺の聞きたいことは半分も聞けてない。

……仕方ない。

雑誌の記者……事件のせい?

俺は、203号室の鍵を開ける。

ガチャッと音がして、ゆっくりドアが開く。

中は、六帖一間。

窓側に板の間が半帖ほどついている。

「しばらくここで暮らすのか……。」

キャリーバックを入口に置き、急いで窓を開ける。

籠った部屋の空気はホコリ臭い。

窓を開けただけで、爽やかな風が入って来る。

それと同時に蝉の鳴き声が一際大きくなる。

窓のすぐ前まで、涼し気な大きな木の枝が伸びている。

蝉はこの木についているのか……。

昔ながらの日本の夏が、ここでなら味わえそうだ。

部屋の真ん中で胡坐を掻く。

新居じゃなくても、ここでも……潤と一緒なら、天国なのに。

潤……。

「ちゃんと食べてるかな……。」

ゴロンと横になり、目をつぶる。

潤のはにかんだ笑顔が蘇る。










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