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愛してると言えない(やま)

愛してると言えない 1話

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「潤……。」

アクリル板越しに向かい合う潤はやつれていた。

頬がこけ、目も落ちくぼみ、相当憔悴している。

元々目鼻立ちの整った潤だ。

凄みが増して、犯人然として見える。

ほんの二日前は、キラキラ輝く笑顔だったのに……。

「翔さん、俺……。」

「わかってる。」

アクリル板に手を添える。

潤も俺の手に合わせ、透明な板の向こうから手を合わせる。

「やってない……、俺はやってない!」

「わかってるから。」

「翔さん……。」

今にも泣きそうに、顔を歪ませる潤。

合わせた手に力を込める。

白く筋の浮き出る指同士が、重なり合い、確かめ合う。

「だから詳しく聞かせて欲しい。

 事件の日のこと……。」

潤のくぼんだ目が、縋るように俺を見る。

「俺……本当に……!」

「わかってる。わかってるから……。」

潤を説得するように力を込めて言う。

潤がやるわけない。

やるわけないんだ!絶対に!



潤との面会の後、その足で弁護士のところに向かった。

事件の概要と、ことの経緯……、それを聞く為に。



俺と潤は幼い頃から一緒にいた。

言わば幼馴染ってやつだ。

あまりに一緒にいすぎて、潤への気持ちになかなか気付けなかった。

いや、無意識に、気づかないようにしていたのかもしれない。

気付いたのは、つい数ヶ月前……春の終り頃だ。



大学生の潤が、俺と同じ会社に入りたいと相談してきた。

俺の会社は親父の会社だが、まだ2年目の俺に、何かできるわけもない。

「潤なら大丈夫だよ。自信持って。」

俺の部屋で、潤の話を聞く。

この時期の大学4年生に、何を言っても無駄だってことは俺にもわかっていた。

気休めにしかならない。

潤ならやることはしっかりやってるだろうし、情報だって、俺よりたくさん持ってるはずだ。

「もし……、もし内定もらえたら……、翔さん、お祝いしてくれる?」

いつも自身あり気な顔が、今日はうつむきがちだ。

「いいよ、何でも言って。飯でもご馳走しようか?

 それとも就職用に何か買ってやる?」

俺はウーロンハイを飲みながら、出し巻き卵に箸を入れる。

さっき、潤が手早く作ってくれたツマミ。

こういうこともできるのが、潤のすごいところだ。

潤はウーロン茶を口に含む。

「そうじゃなくて……。」

伏せた瞼を上げ、俺を見つめる潤の目が微かに潤む。

「俺……翔さんが……。」

思い切ったように口を開く潤が、何を言おうとしてるのかはすぐにわかった。

潤がそういう目で見ていることに……たぶん、気付いていたのだろう。

彫りの深い、外国人みたいな顔が近づいてくる。

「ずっと……翔さんが好きだった……。」

胡坐を掻く俺の肩に潤の手がかかる。

俺は微動だにしない。

その後、どうされるかわかっていても。

赤い、綺麗な唇が俺の唇に重なる。

差し込まれる舌に、抵抗なく舌を絡ませる。

待っていたのかもしれない。

潤が成長することを。

潤から仕掛けてくることを。



それでも俺達はそれ以上には進まず、潤が内定をもらえるまで待った。

潤の就職が決まったら、一緒に暮らそう、そう約束して。



お盆も過ぎ、ツクツクボウシがうるさくなってきた頃、潤の内定が決まった。

俺達は手を取り合って喜んだ。

就職祝いは、二人の新居になった。

一緒に不動産屋を周り、会社にも近い、いい物件も見つかって、

来週には一緒に暮らし始める予定だった。

なのに……!

そんな潤が、人を殺すなんて……。

絶対にあり得ない!



俺は古い木造アパートを見上げる。

下町の小さな工場が隣接する辺り。

鉄と油の匂いが、時々鼻につく。

昔は下宿として使われていたボロアパートの、木の扉をガラガラと開ける。

扉に埋め込まれたガラスがカチャカチャと鳴る。

「すみませーん!今日からお世話になる櫻井ですが……。」

おかしいな。

仲介の人が来てくれてるはずなんだけど……。

玄関は共同だ。

靴を脱いで、適当に下駄箱に入れる。

玄関のすぐ目の前に階段がある。

その奥は食堂?

とりあえず、キャリーバックを玄関に置き、食堂に入っていく。

誰もいない食堂は、田舎のばあちゃんちのような匂いがする。

……蚊取り線香と古い家の匂い……。

食堂の壁面は黒板になっている。

黒板にはゴミの日や、回覧板、必要事項が書いてある。

あ、俺の名前……。

203号室……。

このまま二階に行っていいのかな?

戸惑いながら、食堂から続く庭や、トイレ、浴室を覗いてみる。

誰もいない。

ただ、蝉の鳴き声と、時折吹く風に、庭の葉が音をさせるだけ。

「しかたない。」

俺はとりあえず、部屋を見ようと、玄関に戻る。

鍵はあらかじめもらってある。

挨拶がなければ、このまま部屋へ……。

「おい。」

声を掛けられ、ビクッとする。

キョロキョロするが、声の主がどこにいるかわからない。

「おい。」

もう一度声がして、振り返る。

庭に続く縁側に、男が一人立っていた。

浅黒く日焼けした肌。

ギラギラする瞳。

そのわりにふっくらした頬。

男は、タンクトップにツナギを着、上を脱いで腰で結んでいる。

近所の工場で働いてるのか……?

「おまえ、誰?」

男の声は、思いの外澄んでいて、俺をドキリとさせる。

「あ、今日からこちらの……203号室に入ります、櫻井です。」

「……櫻井?」

小さく頷き、男を見つめる。

「あなたは……。」

男が縁側から食堂に入って来る。

俺は、食堂と廊下の間で男を見つめる。

「……大野。」

「大野……さん?」

男は躊躇なく台所の暖簾をくぐる。

「おまえも昼飯食う?」

大野と名乗る男は、ガス台の上の鍋に火を点ける。










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