ナイスな心意気 (21) 下

「ん～、これでいいかな？」

マサキがリビングの隅に四角い機械を固定する。

あれ、何するもの？

マサキはその真ん中にある丸い物に顔を近づけたり離したりし、ニッと笑う。

「後で見ると楽しいからね～。」

機械から小さくウィ～ンと音がする。

あれ、動いてるの？

「ほら～、これで川の雰囲気も楽しめる！」

マサキが頭にタオルを巻いて、テーブルに近寄って行く。

テーブルの上には、小さな流れる川。

そこに白い物を流す。

クルクル回る白い物はキラキラ光って……。

思わず俺の前足が出る。

「ダメだよ。まずは俺が食べてから！」

川に触れる前にマサキに止められ、マサキが箸で白い物を掬う。

「ん～、んまいっ！やっぱ夏は素麺だよね～。」

ジュンが汁の入ったペットボトルを登る。

「イッツ、クレイジー！なんでみんな冷たくしたがるかなぁ。

　あったかい方が気持ちいいのに。

　もちろん、俺はサトシの腹のあったかさが一番好きだよ。」

ジュンがサトシにウィンクする。

「ジュンはほんと可愛いな。いつでも可愛い！」

サトシがペロッとジュンを舐める。

「よせよ、人が見てるぜ？ハニー！」

「サトシはお前をエサにするタイミングを計ってるんだよ。

　それくらいもわかんないの？」

ジュンが、長い舌を出して俺を見上げる。

「ほら、ヤキモチ焼き登場だ！」

カズナリが、ソファーの上であははと笑う。

「ショウちゃんのヤキモチは元気な証拠！サトシ大好き！サトシ大好き！」

「うるせぇっ！」

「ほらほら、そろそろお前たちにも遊ばせてあげるから！」

お腹がいっぱいになってきたマサキが、白い物の代わりにおもちゃの魚を流す。

「これなら川気分でるっしょ？」

川気分って！

クルクル回る赤い魚と青い魚。

意外と早くて、目が回りそう……。

サトシの目がクルクル魚を追いかける。

俺の目も、カズナリの目も、ジュンの目も。

最初に動いたのはサトシ。

サトシの前足が、クルクル回る水の中に突っ込まれる。

「冷たっ！」

すぐに引っ込めるサトシ。

続いて、川の壁にへばりついたジュンの舌と、

カズナリの嘴が魚をつつく。

それでも流れ続ける魚たち。

しょうがない。ここは俺の出番。

満を持して、俺の前足がうなりを上げる。

「うおっ！」

声と共に前足を水に突っ込む。

ビシャッと水しぶきが飛び、魚が空を泳ぐ。

と、同時に、小さな川がひっくり返る。

え？と驚くマサキの顔。

水から逃げるサトシ。

へばりついてた壁が動いて、体中で飛び上がるジュン。

羽をバタバタさせるカズナリ。

全部が一斉に、スローモーションみたいになって……。

気付けばリビング中が水浸し。

「ショウっ！！」

マサキが叫んで、水を被ったサトシがブルッと体を震わせて、

ずぶ濡れの俺は……口で赤い魚と青い魚をくわえる。

それを、マサキの前に置き、パタパタと尻尾を振ったら、マサキが大笑いした。

カズナリとジュンも笑う。

「あはははは、さすがショウちゃん！」

「ビビりなくせに、変なとこ度胸あるんだよね～。」

サトシは……。

「ショウちゃん……。」

俺、魚取ったよ？

動く物を捉える俺の本能、知らない？

サトシも同じでしょ？

パタパタと尻尾を振り続ける俺にサトシがニコッと笑う。

「ショウちゃん、おいら水嫌いなの知らないの～？」

サトシの爪が空を割く。

「痛っ。」

俺の鼻に激痛が走る。

マサキが頭に巻いてたタオルで顔を拭きながら、大笑いし、ジュンとカズナリも笑う。

「これはいいのが撮れたね！」

マサキが、部屋の隅に向かってニコッと笑う。

いいの？

いいのって何？

俺が首を傾げると、顔を拭いてたタオルで俺の体を拭き始める。

「大丈夫だよ。こうなることは想定済み。

　ちゃんとビニールシート敷いてるから。

　それにいい画も撮れたから、暑中お見舞いもばっちり！」

しょちゅーおみまい？

「サトシ達にお前らの姿も送りたいじゃん？

　いつものワイワイがきっと上手く撮れてる！」

ぐふふっと笑うマサキに、俺ら３匹と１羽は首を傾げる。

マサキ……こうなることを予見して……わざとだな。

それでも俺らはマサキを囲んでワイワイ続ける。

みんなと一緒なら……ここがどこでも、楽しいから！