ワイルドアットハート(やま)
ワイルドアットハート 6
2018.07.01 *Edit
今日は別々の仕事だから、俺が先に降ろされる。
「じゃ、翔君、頑張って。」
智君のふんわり笑顔に俺も笑顔で返す。
「智君も。俺の方が帰り遅いと思うから。」
「飯は?」
「適当に食べて帰る。」
「わかった。」
……やっぱり、影があるように感じたのは気のせい?
車の中でも、智君はいつも通りで、特に変わった様子はなかった。
「じゃ。」
車のドアを閉め、黒い窓ガラスに向かって手を振る。
智君は見えないけど、智君からは俺が見えてるはずだから。
俺の仕事は順調に進んだ。
特にトラブルもなく、割と時間通りに次の仕事に向かえた。
最後の仕事が終わったのは9時を過ぎたところ。
思ったより早く終わったし、来週キャンセルした友達誘って飲みに行くか?
来週の水曜日は、結局後輩の舞台を観に行くことにした。
久しぶりだったのと……ちゃんと相葉君に返事しないとと思ったから。
もしかしたら、相葉君も冗談だったのかもしれないし。
さっそく友達にメールしたけど、返信はない。
突然は、やっぱり難しいか。
ま、家に帰れば智君がいるしね。
またまったり二人で飲むのもいいし……。
そう思って、家路を急ぐ。
俺、何急いでんの?
まだ時間は早い。
急ぐ必要なんてないのに。
スーパーに寄って、刺身を買って帰る。
刺身なら智君も好きだし、俺用の貝と智君の好きな蛸と烏賊を買って……。
そうそう、本わさびも忘れずに。
「ただいま~。」
と声を掛け、玄関を入ったけど、家の中は暗くて……。
まだ、智君は帰ってない?
おかしいな。
今日の智君のスケジュールなら、もう帰っててもよさそうなのに。
仕方なく、先にシャワーを浴びて、帰って来るのを待ってみたけど……。
飲んでるうちに帰って来るか?
ビールと肴の準備をして、ソファーに座る。
疲れた体にまずは一杯。
「くはぁ~。旨いね~。」
喉を通るビールは冷たくて、胃に入った瞬間全身に広がる感じはいつもと同じ。
旨い。
確かに旨いのに……。
何か物足りない俺。
テレビをつけて、バラエティ番組にチャンネルを合わせる。
テレビから聞こえてくる楽しそうな笑い声。
でも、その楽しさの中に入っていける気がしない。
「あっはっは、何それ!」
わざと声に出して言ってみる。
ダメだ。
余計に、寂しいような、切ないような気持ちが押し寄せてくる。
どうした、俺?
なんでこんなに気持ちが落ちてる?
手荒くテレビのリモコンを押して、スマホをタップする。
今のトレンドでも調べておくか。
幾つかあるニュースの中に、「嵐」の文字が浮かぶ。
タップしてみると、松本の新しいドラマの話題で、ホッとする。
嫌なニュースはこういう気分の時に見るもんじゃない。
他には……。
画面をスクロールしていく。
すると、ガチャッと玄関の開く音がして、廊下の明りが点く。
智君が帰って来た!
リビングのドアを凝視する。
ドアにはめ込まれたすりガラス越しに、人影が違づいてくる。
ドアが開いて、俺を見た智君が、ビクッと驚いて、目を丸くする。
「なんだ、翔君、帰ってたんだ!」
「お帰り。思ったより早く終わったんだ。」
「朝、電気消し忘れたのかと思った~。」
智君が笑顔でキッチンに入って行く。
「俺もビールもらっていい?今度買っとくから。」
「遠慮せず、飲んで飲んで。」
ビールを持ち上げ、グビッと飲み込む。
う~ん、旨い。
これだよ、これ!
ビールはこうでなくっちゃ。
でも……なんでビールの味が変わった?
さっきよりぬるくなって、本当なら味が落ちてるはずなのに……。
「何、買って来たの?」
気持ちを切り替えようと、智君を見る。
智君が、スーパーの袋から、次々冷蔵庫に何かしまっていく。
「朝ごはんのおかず。翔君に食べさせたくて。」
智君のふんわり笑顔が、背中越しでもわかる。
う~ん、いいね。
俺の為に買い物して、俺の為に朝ごはん……。
え?
なんか、なんか……違くね?
缶ビールを持った智君が俺の隣にやってくる。
「おっ、旨そ。」
智君が肴の刺身を見て、にっこり笑う。
「智君も食べて。一緒に食べようと思って買ってきたんだから。」
「翔君、食べて帰るって言ってたから、俺、食べてきちゃったよ~。」
智君が急いでキッチンから箸と小皿を持ってくる。
もう、どこに何があるかわかってるんだな。
朝ご飯、作ってくれてるもんな……。
「ごめん、メールすればよかったね。」
「いいよ、いいよ。一緒に暮らしてるからって、
一緒にご飯食べなきゃいけないわけじゃないし。」
チクっと……。
何かが俺の胸に刺さる。
「でも、でもさ、どうせなら、一緒に食べたいじゃん?」
「ん~、そうだけど、別にいいよ。気を遣わなくって。」
智君がビールを開け、グビッと一口飲む。
「お疲れ。」
飲んでから缶を差し出す智君。
普通は逆でしょ?
でも、それが智君っぽい。
「お疲れ~。」
缶を当て、俺もまたビールを飲む。
やっぱり旨い。
誰かがいるってだけで、こんなに違うものなのか?
俺、相当な寂しがりだな……。
「どこで飯食ったの?」
「ああ、前から誘われてたのを、やっと行って来た。
だから、店、よくわかんない~。」
智君が嬉しそうに蛸を摘まむ。
「おっ、翔君が擦ったの?」
「そ、そうだよ。智君に教えてもらった通り……。」
智君の迎え舌。
目に入ると、離せなくなる。
「で、誰と行ったの?」
「ん~?侑李。でも突然だったから、タイミング悪くて、
あいつ、明日朝早いって言うから……。」
あ、あいつ……?
あいつなんて、呼べる仲になったの?
いつから?
映画から……?
「だったら、ウチで一人で食べてればよかったのに。
俺が早く帰れるかもしれないとか、思わなかったの?」
智君が、烏賊にわさびを乗せて、口に放り込む。
「思わなかったね。仕事に厳しい翔君だし、
遅くなることはあっても早く終わるなんて……。」
「そんなことないよ。俺だって、早く終わらそうと思えば……。」
「自分が思ったって、自分一人の力で終り時間なんて決められないだろ?」
「そうだけど……。」
「遅くなるかもしれなくても……翔君は一人で家で待っててもらいたいの?
翔君の彼女になる人は大変だ!」
あれ?
智君、イラついてる?
てか、俺も……イライラしてる……?
「そんなことないよ。彼女にそれを無理強いしたことなんかない!」
「へぇ~、彼女には求めないのに、俺には家で待ってろって言うんだ?」
「そんなこと言ってないじゃない!」
「俺は……!」
智君が俺を見上げる。
「俺は……ここで翔君を待つのが嫌だったんだ……。」
嫌……?
どうして……?
なんでそんなこと言うんだよ、智君~っ!
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