WONDER-LOVE Ever -19-

№0617が凪に呼ばれて行ってしまうと、二人はお互いの体を見比べる。

「もう大丈夫だよね？」

ノアはもう一度、自分の頭を撫で、角がないか確認する。

「大丈夫。僕は？女の子に見える？」

ニコッと笑うブランは、赤いスカートが良く似合う、

ちょっと小生意気な女の子にしか見えない。

「うん、大丈夫。」

ノアの顔を確認して、ブランが手を出す。

「じゃ……。」

「うん。」

ドキドキする胸を押さえて、ノアがブランの手を取る。

「ちゃんと握ってるんだよ。離れちゃダメだからね。」

「う、うん。」

ノアはブランの手をギュッと握る。

「行くよ。」

ブランは女の子の姿のまま、ブランよりも大きな白い羽を広げる。

ノアも大きく深呼吸して黒い羽を広げる。

「なんか、変なの。ノアなのにお婆さん！」

「ブランだって！」

二人は笑い合って、窓辺に立つ。

「いざっ！過去に向かう実験へ！」

ブランがノアに向かってニコッと笑い、ノアも引きつりながらうなずく。

二人同時に飛び立つと、一瞬体が急降下し、ゆるやかに浮上し始める。

「急ご。帝王様に気付かれる前に！」

「うん！」

二人の体が光の速さで消えて行く。

その風圧で落ちた、白い羽と黒い羽が一本ずつ、仲良さようにクルクルと輪を描く。

そのまま、重なり合うように、二人が飛び立った窓の中に吸い込まれて行く。

テーブルから一枚の紙が舞い上がり、羽を隠すように落ちる。

紙には大きな×の文字。

今のバベルの塔よりも、もっと大きなバベルの塔の絵。

大きなバベルの塔は地獄から天界へ、天界からさらに続くのは……。

しばらくして、部屋に入って来た黒い影が、その紙を拾い上げる。

「ふん。馬鹿なことを……。」

影は、２本の羽には気づかない。

黒い影の足が羽を踏みつける。

台の上の書類をバラバラと漁り、大きなバベルの塔の書類を数枚手に取ると、

書類が黒い手の中に消えて行く。

悪魔の気配を感じ、影がカラスに変わる。

カラスはちょん、ちょんと窓辺に向かうと、羽を広げ、すばやく飛び立つ。

誰もいなくなった部屋の扉がガチャリと開く。

「あ～、散らかしっぱなし！」

入って来た№0830が、仕方なさそうに書類を片づけ始める。

「凪様じゃないよな～。№0617か？

　あいつ、後でやろうと思ったとか、平気で言うからなぁ。」

トントンと書類をまとめ、棚に戻していく。

その台の下の汚れた羽に、№0830も気付くことはなかった。