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「短編」
短編(いろいろ)

トビラ ②

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あの頃の俺は、話を聞いてくれない親父と、ことあるごとに衝突していた。

思春期真っただ中の、誰にでもある……まぁ要するに子供だった。

親父だって、意味なく怒鳴っていたわけじゃない。

大人になるとわかることでも、子供の俺には反発しかなかった。

家にいるのも嫌だった。

部活や塾からの帰り、そのまま家に帰る気にはなれなくて、

持て余す時間をどこかで潰して帰った。

本屋だったり、CDショップだったり。

部活や、友達との予定があればいいけど、何もない日曜日は最悪。

家に俺の安らげる場所はない。

なんだかんだと理由を作って、なんとか家を出る。

家を出ても、行く場所なんかない。

本屋に行っても、CDショップに行っても、そうそう時間は潰せなかった。

仕方なく、地元の山や海を散策する。

散策と言えば聞こえはいいが、大したことはない。

過ごしやすそうな場所を見つけては本を読んだり、音楽を聴いたり、考え事したり。

考えることはたくさんあった。

海に行けば、波と風を感じ、それがどこから来るのか、どこへ行くのか。

山に入れば、川の上流はどこに続いてるのか、

樹々の違い、小石の違い、そんなものを眺めて考えてみる。

川はどうしてこの流れになったのか、

その樹がどうしてそこに立っているのか。

天気のいい日はそうやって過ごした。

海に行って飽きたら山へ。

山に飽きたら海へ。

それさえもできない雨の降る日は……本当に困った。

海は荒れ、川は猛り狂う。

俺の居場所はどこにもないと、改めて感じざるを得ない日。

その小屋を見つけたのは、そんな雨の降る日だった。



山に入り、川の上流に向かって歩いていると、突然雨が降り出した。

ザァーっといきなり降り出した雨に、体を隠す場所を求めて彷徨った。

足元もぬかるみ、玄関を汚したと怒鳴る親父を想像して気が滅入った。

とにかく雨から逃れたくて、山の中を走りまわる。

走り回っているうちに、いつもは行かない、山の反対側に出ていることに気が付いた。

反対側は、冬になるとクマが出る。

今は夏だから大丈夫とは言え、季節外れのが出て来ないとも限らない。

まずいと思って引き返そうとした時、小さな屋根が目に入った。

家?

家なら雨宿りさせてもらえるかもしれない。

走って近づいてみる。

小さな朽ちかけた小屋が、樹々の間に立っている。

すみませんと、扉に向かって声を掛ける。

人の気配はしない。

そっと取っ手を引いてみる。

運のいいことに鍵は開いている。

入るとすぐのところに南京錠が置いてある。

前に使った人が、そのままにして帰ったようだ。

小屋の中は10帖くらいの広さだろうか。

窓がないせいで、薄暗く、奥までは良く見えない。

薪や袋、毛皮等、所せましと置いてある。

荷物に隠れた奥に、毛皮を敷いた小上がりのようなものも見える。

後に母さんに聞いた話だと、爺ちゃんの爺ちゃんが

山に入る時の拠点にしていた小屋だったらしい。

爺ちゃんの爺ちゃんはマタギ。

どうりで毛皮が大量にあったはずだ。

つまりあそこは櫻井の持ち物。

うちが使っていないのだから、誰かが使うことはない。

そんなことは知らない当時の俺だったが、そこは恰好の隠れ家になった。



誰もいない空間。

それだけで俺には天国だった。

家にいれば、いや応なしに親父の声が聞こえてくる。

家の一階は肉屋の店舗になっていて、小売もするから、

日中は得意先を回ったり、会合に出ている親父も、

夜の会合がない限り、俺が家に帰る頃には、ほぼ家にいることになる。

従業員を怒鳴り、母を怒鳴り、最後には俺と妹にも怒鳴り散らす。

うんざりだった。

母と妹は、怒鳴られてもうまく受け流していたけど、俺には無理。

小屋を少し片づけ、寝転がれるくらいの場所を作る。

快適だった。

もちろん、電気も水もない。

放置された小屋は古く、ところどころ傷んでいたが、

寒さをしのがなきゃいけない冬と違って、夏は気温を気にしなくて済む。

明りがなくても、本を読むにはランタンで十分。

一人っきりの空間は、俺を本当にワクワクさせた。



その日も雨が降っていた。

雨が降っても、この小屋にいれば快適だ。

俺を怒鳴る者もいなければ、足元がぬかるむこともない。

隙間風は入ってくるが、風と雨はしのげる。

CDを聴き、買って来たコーヒーを飲む。

コーヒーは大抵ぬるくなっていたけど、それでも俺には優雅な時間……。

ランタンの明りが、ユラユラ揺れるのさえ、贅沢に見えた。

そんな時間を満喫していると、突然ドアが開いた。

何が起こったのかと、ビクッとする。

開きっぱなしのドアには、俺と同じ、驚いた顔。

それが、徐々に和らいで、ニコッと笑う。

「人がいるとは思わなかった……。少し……お邪魔してもいい?」

形の良い唇がそう言うと、俺は考える間もなくうなずく。

男にしては、長めの髪から滴る雨粒。

それが喉を伝い、服を濡らす。

潤んだ垂れぎみの瞳が、俺を見ながら湾曲していく様に、ドクッと電流が流れた。

衝撃。

人は想像だにしない出来事に出会うと、言葉を失うって言うけどまさにそれ。

この時の俺のことだ。

なんとも感じたことのない衝撃が俺を貫き、目が離せない。

心臓が、バクバクと高鳴り、身動き取れない。

赤い唇がクスッと笑う。

「そんなに怯えないで。ちょっと雨宿りさせてもらうだけだから。」

男は濡れた体をどうしたものかとキョロキョロしながら、そこに立ち尽くす。

ハッとして、俺は鞄に手を突っ込んでタオルを握り締める。

なんて言っていいかわからず、無言で腕を伸ばす。

これ以上近づけば、心臓の音を聞かれてしまう。

男はきょとんと首を傾げる。

「んっ!」

さらに腕を伸ばすと、自分に差し出されたことを理解した男が、にっこり笑って俺に近づく。

「いいの、借りて?」

俺はうなずいて、男がタオルを受け取るとパッと手を離し、離れる。

「ありがとう。」

男がタオルで顔を拭くのを横目に、顔が赤くなっていくのを感じる。

今にして思えば……。

衝撃はひと目惚れのサイン。

高鳴る心臓は恋の印。

初めて会ったこの時から、俺はあなたのことを考えない日はない。

俺が……初めて恋を知った日。

12の俺と、10も年上のあなたとのこれが出会い。










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