WONDER-LOVE Ever -4-

凪と呼ばれた悪魔は、情けなさそうに帝王様を見上げる。

「サルガタナスとミカエル様の使者が首を長くして待っております。」

「急ぐような要件はない。」

断定的に言い切る帝王様を、凪が冷ややかな目で見つめる。

「バベルの塔の需要が高まっております。

　それに伴い、物資が不足し、魂のサイクルにも影響が出ております。

　可及的速やかに検討が必要かと……。」

「凪が良いようにやればいい。」

ほっほっほと凪が笑う。

「お戯れを。私などに決定権はございません。

　帝王様はお忘れのようでございますが、地獄の帝王は帝王様なのです。

　帝王様が職務をおこたれば、その分……。」

凪がチラッと智を見る。

智がギュッと我が子を抱きしめる。

そんな智を見て、帝王様の目が吊り上がる。

「凪の分際で俺様を脅すか？」

「脅しではございません。現実をお教えしているまでです。」

「いい！もうしゃべるな！気分が悪い！」

凪は黙って微かに頭を下げる。

「ミカエルの使者には会おう。サルガタナスは追い返せ。」

「そうはいきません。」

凪がじっと帝王様を見据える。

帝王様の体から炎がメラメラと上り立つ。

「ショウ君！ダメ！」

智が帝王様の腕を掴んで首を振っても、帝王様の炎は収まらない。

「ショウ君っ！」

智がキッと睨む。

帝王様の顔が苦しそうに歪んでいく。

それでも智は首を振り続ける。

「俺様に……我慢しろと言うのか！？」

帝王様の腕を掴んだ智の手に力が籠る。

「凪様の言ってることは間違ってない。」

「智まで！わかっているのか？サルガタナスの要件は……。」

「わかってるよ。それも、ノアとブランの為に必要なんでしょ？」

「必要なものかっ！」

「必要でございます。」

凪がするどく言い放つ。

「クッ！」

帝王様の足が、悪魔達を蹴り上げる。

「え？」

「ひぇ～っ！」

№0617はすかさず退いたが、№1224は間に合わない。

窓から飛んでいく№1224に、ブルとルーが笑顔で手を振る。

少し怒りが和らいだのか、帝王様の炎が、ブワッと広がり、フッと消える。

「……行くぞ。」

帝王様は腕の中のヴェールを№0617に渡すと、ズカズカと歩き出す。

凪は帝王様に道を開け、礼をして後に続く。

二悪魔が行ってしまうと、智と№0617が顔を見合わせる。

「サルガタナス様の要件は……。」

智も困ったように顔を歪ませる。

「うん、ノアとブラン……地獄を継いだ子とアスタロト様の婚約について……。」

№0617が大きな溜め息をつく。

「そりゃ帝王様が会いたがらないわけだ！」

「ショウ君は……誰が相手でも嫌がると思うけど。」

「そうでしょうねぇ。帝王様ですから……。」

だれが相手でも怒るなら、むしろアスタロト様でよかったのでは？と、

№0617は思ったが、口にする前に、ブルとルーが窓に向かって走り出した。

「ブル！ルージュ！」

智が叫ぶと同時に、№0617がシールドを張る。

シールドに当たり、跳ね返る子供達を№0617が抱きとめる。

「とりあえず、この元気な子達を遊ばせてきます。」

「お願い。」

智が申し訳なさそうに笑うと、部屋の入口から声がする。

「ラファエル。」

振り返ると、無表情の天使が立っている。

「ウリエル、どうしたの？」

「ノアとブランが勉強の時間になっても来ない。」

№0617と智が驚いて顔を見合わせる。