WONDER-LOVE Ever -1-

「ブラン！」

ノアの声に、ブランの体がピクッと揺れる。

上空でブランを見つけたノアは羽を閉じ、ブランの元に下りて来る。

振り返ったブランはふくれっ面を隠しもせず、抱えた膝に顎を乗せる。

「やっぱりここにいた！」

ブランがいたのは、地獄の宮の最上階の屋根の上。

ここからなら地獄が一望に見渡せる。

完成したバベルの塔は高く高く、天まで続き、三途の川がゆるやかに流れる。

やってきたノアもブランの隣に腰を下ろす。

「ブラン……。」

ノアが話し掛けても、ブランはじっと遠くを見つめたまま、身動き一つしない。

ノアはブランの視線の先から空を見上げる。

地獄の空はいつでも薄暗い。

陽が照ることがないのだから当たり前だ。

「ブラン……。」

ノアはブランの金色の髪を撫で、肩を引き寄せ、頭をくっつける。

ブランだけが叱られたわけじゃない。

叱られる時は二人一緒だ。

叱られる時だけじゃない。

二人は何をするにも一緒にやってきた。

楽しいことも、悔しいことも。

「どうして、何やってもダメって言うんだろね。」

ノアが聞いてもブランは答えない。

「少しくらい聞いてくれてもいいのに……ブラン？」

ブランがやっと重たい口を開く。

「いいんだ。もうそれは。」

「え？いいの？落ち込んでるんだと思った。」

ノアがブランを見つめる。

「落ち込んだりしないよ。帝王様がダメって言うのはいつもだし……。」

「でも、いきなり二人で人間界に留学したいなんて……。」

ブランは顎を膝に乗せたまま振り返る。

金色の髪が、パサッと揺れ、ノアの目に眩しく光る。

「だって、僕達、12になったら離れ離れになっちゃうんだよ？」

ブランが目を大きく見開く。

「どっちかが天界に行かなきゃいけない……。」

「そうだけど……。」

ブランはそっとノアの手を握り締める。

二人は10になったばかり。

期限までは後2年。

「ノアはいいの？離れ離れになっても。」

「そりゃ、嫌だけど……。」

ノアの声は小さい。

どんなに抵抗しても、こればっかりは変えられないことがわかっている。

「だから……ノア、手伝ってくれる？」

ブランが繋いだ手を顔の前に翳す。

「……？何を？」

ブランはニッと笑う。

「僕達さ、過去が見れるじゃない？」

「う、うん……。」

ノアはうなずいてブランの顔を見つめる。

「でも、帝王様とママンの過去は見れない。」

「そりゃ、帝王様がシールド掛けてるから……。」

「そこに帝王様の、僕達に見せられない何かがあると思うんだ。」

「何かって？」

「わかんないけど……弱み……みたいな？」

「弱みなんてあるかな……帝王様に。」

「一つくらいあるよ！絶対！」

ノアは、う～んと首を傾げる。

あの帝王様に弱み……。

傍若無人な二人の父の弱みなんて、ノアには想像もできなかった。