五里霧中(5人)

五里霧中 サトシ - 大学にて -

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明音がおいらのとこに走ってくる。

肩から下げた重そうなトートバックが、ずり落ちる。

それを抱え直しながら、おいらの隣に並ぶ。

機嫌が悪いわけじゃない。

でも、笑顔の苦手な明音はあまり笑わない。

笑わなくて、不器用で、ぶっきらぼうで……。

でも、とっても繊細な絵を描く明音。

大学に入って、初めて話したのが明音だった。

コブシの樹の根元で、何かをじっとスケッチしてるひっつめ髪の女の子。

何を見てるんだろ?って気になって、そっと隣から覗いたら、

なんだかよくわからない虫……?

おいらにも気づかず、一心にスケッチし続ける明音に興味が沸いて、

おいらもスケッチブックを取り出す。

携帯用の小さいやつ。

それにサラサラと明音の後ろ姿を描き写す。

スケッチを終えて顔を上げた明音が、おいらを見て顔を引きつらせる。

「ごめん、もう少し、後ろ向いたままでいて。」

おいらは鉛筆を走らせながらお願いする。

明音はしぶしぶ元の体勢に戻ってくれて……。

「ん~、こんな感じかなぁ。」

スケッチブックをちょっと離して明音の後ろ姿と比べる。

「もういい?」

「いいよぉ。ありがとう。」

振り返った明音が立ち上がると、おいらはスケッチブックを契って渡す。

「一生懸命な後ろ姿。」

ニコッと笑って、スケッチを明音に押し付ける。

「ごめんね。見てたら描きたくなっちゃった。」

押し付けたスケッチを受け取って、戸惑う明音が可愛い。

「大野……サトシ……?」

「え?おいらのこと知ってる?」

「……知らない人、きっといない。」

ぶっきらぼうな言い方が似合ってて、不器用そうなところにも好感が持てた。

履修科目も被ってるのがいくつかあって、会えば自然と話すようになった。

明音と話していると、他の学生も寄って来てくれて……。

明音のおかげでおいらも打ち解けることができたんだと思う。

「どうしたの?急いで。」

隣に並んだ明音に首を傾げると、明音が少し息を上げながら、おいらを見上げる。

「次の秋元先生、休講だって。アトリエ行く?」

アトリエは実習課題を描く為の教室。

「ん~、休みかぁ。行こうかな?」

明音がホッとしたようにうなずく。

今日は秋元先生で終りだったから、このまま帰ってもいいんだけど……。

駅からの帰り道はショウ君ちの前を通る。

こんなに早い時間じゃ、きっとショウ君はいないね……。

ただ通り過ぎるだけなんだけど、

ショウ君の部屋に明かりが点いてるかどうか確認しちゃう。

明かりが点いてれば、今日は早く帰れたんだね、無理しないでね、なんて思って。

消えてれば、バイト頑張ってるのかな?おいらも頑張るって思って。

でも……。

会えないから、会いたい気持ちが募っちゃう。

ショウ君は、たくさんやることがあって、忙しいに決まってる。

ただ会いたいだけのおいらに会う時間なんて、きっとない……。

明音と二人で並んで歩いてたら、みんながやって来た。

斉藤先輩が、ふざけておいらの肩に手を回す。

表情のあまり変わらない明音が、嫌そうな顔をするのが斉藤先輩は面白いらしい。

「大野、嫌がってるから。」

明音はおいらの肩の手をじっと見つめてぼそぼそとしゃべる。

「そんなことないよなぁ?大野は俺のこと大好きだから。」

斉藤先輩がおいらに同意を求めるけど……。

嫌いじゃないよ?

でも大好きかどうかは……。

「ほら、大野が困ってる!」

「困ってないよな?照れてるんだよな?」

「斉藤先輩、眼科に行った方がいいですよ?」

「悪いな。俺の視力は2.0だ。」

みんなも笑って、楽しそうに二人のやりとりを見てる。

おいらも笑って受け流し……。

ふと見た学生会館のところに……ショウ君?

え……まさか……まぼろし……?

会いた過ぎて、とうとう幻覚まで見えちゃってる?

おいらは目を凝らしてじっと学生会館の入口を見つめる。

……間違いない。ショウ君だ。

ショウ君がどうしてここに……?

おいらのこと……心配して……?

それとも何か用事?

ううん、なんだっていい!

ショウ君に会えるなら!

「ごめん、おいら帰る!」

斉藤先輩の手を振り払い、明音に視線だけ投げて、ショウ君に向かって走る。

「え?大野!」

ごめん、明音。

おいらは心の中で呟いて、ショウ君に向かって走り続ける。

近づくにつれ、大きくなっていくショウ君。

やっぱり幻覚じゃない!

本物!

「ショウ君……?」

ショウ君は誰かと携帯でしゃべってて、携帯から相手の声が聞こえる。

女の人……?

彼女……?

ショウ君にはいっつも彼女がいる。

しょうがないよね?

あんなにイケメンなんだもん。

女の人が放っとくわけがない。

ショウ君はイチイチ彼女ができたなんて言わないけど、

みんなが教えてくれるし……言われなくてもおいらにはわかる。

ずっとショウ君を見てるから……。

でも、ショウ君は携帯を切って、おいらに向かって笑う。

「いいの……?」

隠すように携帯を後ろに回すショウ君。

「ああ、大丈夫。大した用事じゃないから……。」

それだけで……おいらは嬉しい。

彼女よりおいらを優先してくれた。

「もしかして、わざわざ来てくれた?」

「え……ああ、近くまで来たから……。

 久しぶりにサトシに会いたいなぁと思って……。」

久しぶり……本当に久しぶり。

高校時代は毎日会ってたのに。

ショウ君に会えることが当たり前だったのに……。

会いたいと……思わないと会えない。

会いたいと……思っただけじゃ会えない。

そのショウ君が、会いたいと思ってくれた……。

それだけで、おいら、嬉しくて舞い上がりそう!

ショウ君……!

おいらは嬉しくて、ただ嬉しくて。

会えるだけでいい。

おいらは多くは望まない。

望む権利もない。

だからせめて……。

せめて幼馴染って立場だけは、

これだけはおいらにずっと残しておいて……。

幼馴染なら……会いたいって思ってもいいでしょ?

会いたくなっても……いいよね?

ショウ君……。

ショウ君の部屋を見上げて、ショウ君を想うくらいは……許してくれるよね?

彼女がいる人でも、想うだけなら……。

……ショウ君だけを、そっと想うだけだから……。










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