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「ふたりのカタチ」
ふたりのカタチ(やま)【201~ 】

ふたりのカタチ (219)

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「ごめんなさいね。類、まだ迷惑かけてる?」

「いえ……そんなことは……。」

二人で向かったのは美術館の奥。

二階に続く階段の下。

ここは……広告の歴史なのかな?

年表のようなものが貼り出されてる。

「何かあったらすぐ言ってね。締めとくから!」

奥さんが手で締める真似をする。

「あはは。大丈夫ですよ。」

キョロキョロしながらゆっくり歩く。

「あいつにとっては一大決心なの。」

一大決心?

おいらは隣の奥さんを見る。

「今までずっと、なんだかんだ言って、親の言う通りにしてきたの。

 大学だっていいとこ行って、仕事だって一流企業に入って。

 類の両親は当たり前のように時期が来たら跡を継いでくれると思ってた。

 もちろん、私も。」

奥さんは右側に掛けてある、番付表を見て立ち止まる。

「あんな風でも、親の期待にちゃんと応えるいい子だったの。」

奥さんは寂しそうに笑って、番付表を見上げる。

「好きなようにやってるようで、どこかで縛られてたんだと思う。」

類さんも……やっぱりいろんな想いを抱えてる。

「でも。」

奥さんが大きく息を吸う。

「これで鎖から解き放たれるわ。」

すっきりしたようにクスッと笑う。

「いつでもあの一番上にいなきゃいけなかったのよ?

 私だったら肩が凝っちゃう。」

おいらも番付表を見上げる。

そうだよね。

勉強もスポーツも仕事も、全てに期待されるって大変なこと。

それが親からなら……プレッシャーも半端じゃない。

しかも類さんはそれに応えてきてる。

きっとショウ君も……大変だったんだと思う。

おくびにも出さないけど。

「だからね、良かったと思って。今回の転職。」

奥さんが嬉しそうに笑っておいらを見る。

「刺激されたんだと思う……大野さんと櫻井さんに。」

「え?おいら達……?」

「うん。二人がここまで来るって容易ではなかったでしょ?」

「まぁ……。」

大変だったよ。

自分の気持ちを伝えるのも、親を説得するのも。

でも、全部、ショウ君が跳ね退けてくれた。

カズ達にも助けられて……。

おいらは周りに恵まれてる。

やりたい仕事ができて、好きな人と一緒にいられて。

これ以上、何も望むことはないってくらい。

「二人のおかげで、類も一歩踏み出せたのよ。

 きっと類の両親もわかってくれる……。」

「そうですね。きっとわかってもらえる。」

おいらが言うと、奥さんがもう一度、番付表を見上げる。

頑張って欲しい。

類さんが初めて出した一歩。

あのポスターみたいな広告、絶対作れるよ。

類さんなら!

おいら達は顔を見合わせ、先に向かう。

すると、後ろからパタパタと音がする。

二人で振り返ると、小学校……3年生くらいの男の子が走って来た。

「あ、……大野……サトシ……さん?」

男の子が遠慮がちにおいらを見上げる。

「そうだけど……。」

男の子の顔がパッと明るくなる。

「お、俺、大野サトシの絵……好きです!」

え?

「大野サトシの絵を見て……俺も描きたいって……。」

あ、うそ……。

なんか……照れる……。

男の子はキラキラした目でおいらを見つめる。

「これからもたっくさん描いてください。

 俺もたっくさん描くから。大野サトシみたいな絵、描くから!」

「うふふ。おいらみたいな絵を描かなくてもいいんだよ。」

「え……?」

男の子が不思議そうな顔をする。

「たっくさん、たっくさん描いてごらん。

 そしたら、本当に描きたい絵がわかるから。

 最初はおいらの真似するのもいいかもしんないけど、

 きっと最後はおいらとは全然違う、自分の描きたい絵を描いてるから。」

「俺の……描きたい……絵?」

「そうだよ。自分にしか描けないものがきっとあるから。

 それは、みんなにあるんだよ。」

「……みんな?」

「そう。みんな、それぞれがそれぞれにしか描けない絵がある……。」

類さんやショウ君も、自分にしか描けない未来を描いてる。

この子にも、自分にしか描けない絵がある。

それはおいらの真似じゃない。

その先にある未来……。

「おいらが……そのきっかけになったなんて……すごく嬉しい。」

おいらが笑うと、男の子の顔がポッと赤くなる。

なんか、おかしい。

赤くなるの、おいらの方なのに。

だって、すごく恥ずかしいんだよ?

恥ずかしくて……すごく嬉しい。

「じゃ、俺が俺の絵を描けたら……見てくれる?」

「もちろん。おいらの方が見たいよ。その絵。」

男の子が、本当に嬉しそうに笑う。

「うん!絶対見せに行くから、だから絶対見て!」

「わかった。待ってる。」

通路の向こうから、男の子を呼ぶ声が聞こえる。

振り返った男の子が、一瞬どうしようか迷って、戻りかけて立ち止まる。

「俺の名前、ユーリ!覚えておいて!ユーリだから!」

おいらは笑って大きくうなずく。

うん、覚えたよ。

ユーリ君。

ユーリ君は走ってお父さんの元に戻って行く。

おいらは隣の奥さんと顔を見合わせて笑う。

やっぱり恥ずかしい。

でも嬉しい!

「うふふ。可愛い男の子だったね。」

「はい。びっくりしたけど……。」

笑い合って先に向かう。

そろそろショウ君達もやってくるはず……。

先を曲がったら、一周回ってあのポスターの所に戻れるはず。

おいら達が角を曲がろうとして……。

それに気付いてびっくりする。

え?うそ……。

立ち止まって、しげしげとそれを見ているおいらに、奥さんが首を傾げて近づいてくる。

「どうしたの?」

「あ……、これ……。」

奥さんに指さして見せたのは、江戸時代の双六。

「へぇ、面白いわね。」

奥さんもじっと双六を見つめる。

「あら?なんかこれ……。」

奥さんが指さしたのは落書きのように描いてある……。

「携帯と……キャンディ?まさかね。江戸時代に携帯とキャンディなんて……。」

……すごい。

すごいすごいすごい!

ちゃんと繋がってる!

ちゃんと残ってる!

なんか……どうしよう……おいら、泣きそうなくらい、嬉しい!










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