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智は有楽町の駅前にいた。

この季節なら、外で待っても暑いこともない。

店の看板が灯り始め、人々が街の中へ消えて行く。

スマホをタップし、時間を見る。

約束の時間を15分過ぎている。

櫻井からのメールもまだない。

辺りを見回し、小さく溜め息をつく。

今日もドタキャンか……。

そう思った時、スマホが震える。

見ると、櫻井からのメールだ。

『ごめん。お客から電話が入った!遅くなりそうだから、

 今日はなしにしよう。埋め合わせは必ずする!』

最後に、ごめんと謝るクマの絵文字がチカチカする。

智は盛大に溜め息をつき、スマホをポケットに入れる。

久しぶりだから……。

初めて櫻井と会った店に行こうと思っていた。

その店に、一人で行くのは……寂しすぎる。

智は駅の中に戻って行く。

家で一人で食べるのも面倒くさい。

なら……。

定期を取り出し、ピッと改札を抜ける。

「一番線か……。」

案内板を確認し、階段を上った。



「はぁ、おいしかった!」

目の前の空の皿を見つめて腹を叩く。

こんなに食べたのは久しぶりだ。

元々小食で、櫻井が大口を開けて食べるのを見るのが好きだった。

人が食べる姿は安心する。

智は天上を見上げ、懐かしい店内を見回す。

智が高校時代、部活の帰りによく寄った店だ。

芸能人のサインも当時のまま飾ってある。

智は一人、フッと笑う。

学生が行くと、必ず大盛りにしてくれた。

安くて量が多くて旨いときては、学生が行かないわけがない。

夜は7時を過ぎると居酒屋になる。

居酒屋になると学生は入れない。

部活が終わると、みんなでこの店に走った。

あの頃と違って、今は居酒屋になってからも入れる。

最後のビールを喉に流し込み、唇をペロリと舐める。

ビールの美味しさもわかるようになった。

少しは大人になったのか?

自問自答し、小さく首を振る。

とても成長したとは思えない。

でも、時間は確実に過ぎている。

あの頃、笑顔で迎えてくれた店のおばちゃんは、今は若い店員さんに変わっている。

お勘定を終え、店を出ると、見覚えのある神社の前を通りかかる。

学生時代、よくこの神社まで走らされた。

「懐かしい……。」

暗い神社への道をゆっくり進む。

街灯は点いている。

いったい何時までやっているのだろう?

智は鳥居をくぐって立ち止まる。

五月の空には、春が終り、夏に移行する間(はざま)の危うさがある。

春とも夏ともつかない微妙な空気が、神社を一層神秘的に見せる。

智はグルッと辺りを見回す。

「なんだろう?なんか……知ってる?」

首を捻ってじっと辺りを見つめる。

シンと静まり返る中に、厳かな雰囲気が漂っている。

黒くシルエットになった樹々。

時折風に揺れる若い木の葉。

学生の頃は、暗くなってからこの神社に来たことなどなかった。

でも、この雰囲気をどこかで感じたことがある……。

智は鳥居の下から神社をじっと見つめる。

すると、ポケットの中がブルッと震える。

ドタキャンのお詫びと、家に帰っているか心配する櫻井からのメールだった。

「あ……。」

メールを閉じ、スマホのアイコンを見て思わず声が出る。

毎朝読んでいるサイトのアイコン……。

そうか。

あの小説のシーン……。

勇者の書く小説の1シーンが、この場所にぴったり合うことに気付き、

智は大きくうなずく。

「そうか……あれか……。」

ふっふと笑って、灯りの点いている方に向かう。

社務所は半分だけ開いていて、おばあさんがこっちを見てにっこり笑う。

期待させているのがわかって、智は財布を取り出した。

「あの……。」

並べられたいくつかの中から、黄色いお守りを手に取る。

いつもだったら選ばない色だが、この場所にはこの色がしっくりくる気がした。

勇者の書く小説の主人公が、いつも着ているシャツの色……。

小さな白い袋に入れられたお守りをポケットにしまう。

無性に小説が読みたくなった。

あの世界に浸って、現実を忘れたかった。



智がスマホをカチャカチャ弄っていると、しばらくして櫻井が帰って来た。

「ただいま~。」

「お帰り……。今日は家に戻るのかと思ってた。」

智は顔も上げず、一心にスマホを打ち続ける。

「まさか!」

そんな智に後ろから櫻井が抱き着く。

「今日はごめん……。」

「いいよ。仕事じゃしょうがないよ。」

スマホを下し、櫻井を見上げる。

「ほんと、ごめん!智はわかってくれるから、甘えちゃってるのもわかってる!」

櫻井がぎゅっと智を抱きしめる。

「いいよ、ほんと、しょうがないじゃん。」

「智……。」

櫻井の唇が智に重なる。

智も櫻井に応えて、唇を軽く開く。

櫻井の舌が智の舌を捉えると、智の手の中で、スマホがブルッと震えた。

『メッセージを送信しました』

文字を確認し、智は目をつぶって、櫻井の腕に体を預けた。










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