Green Light ⑰

「これはどうでしょう？」

ショウが落ち着いた色のネクタイを選ぶ。

「これからは、ネクタイをすることも少なくなる。」

「そうですね。では、ラフな部屋着などがいいのでは？」

「そうだねぇ……。」

おいらは店の中を見回す。

どうもピンとこない。

二宮教授のプライベートを知らないのだから当然か。

もっと遊び心のあるものをあげたいんだけど……。

店の隅のそれが、目に着く。

「これはどう？」

おいらがそれを取り上げると、ショウが不思議そうに首を捻る。

「これ、ですか？」

「うん。よくないかなぁ。」

おいらは手の上のサンダルをショウに突き出す。

ファーのついた若者向けのサンダルだ。

「冬なのにサンダルですか？」

「だからいいんだよ。誰もサンダルなんてあげないだろ？」

「そうですけど……。使えないからあげないのでは？」

ショウがやはり不思議そうにサンダルとおいらを見比べる。

「使えるよ。ベランダとか、ちょっとした庭いじりとか。」

「そうでしょうか？」

「そうだよ。決めた！これにしよう！」

おいらはサンダルを持ってレジに向かう。

ショウは多少不満そうではあるが、おいらの後に着いてくる。

「これを、プレゼント用で。」

「かしこまりました。」

カウンターにサンダルを出すと、店員はにっこり笑ってサンダルを受け取る。

「どのようにお包みしましょうか？」

店員が、レジを打ちながら聞く。

「そうだな。リボンがいい。赤いリボン。」

「箱にお入れして、赤いリボンでよろしいでしょうか？」

「ああ、それで頼む。」

「少々お時間、かかりますので、店内でお待ちください。」

カードで決済し、振り返って、ショウを見る。

「ショウにも何か買ってあげよう。何がいい？」

「何も……私が欲しいものなんて……。」

「今のサンダル、二宮教授とおソロで履くか？」

おいらが笑うと、ショウが困った顔をする。

「知らない人とお揃いなんて……。」

「だったら、ちゃんと欲しい物を言ってごらん。」

おいらは二宮教授へのプレゼントが早く決まって、気を良くしていた。

ショウに何か買ってあげたい。

それは自分の罪悪感からなのかもしれない。

アンドロイドは感情を持たない。

だから、罪悪感など持つ必要はない。

でも、出かける間際の顔が頭から離れない。

「私の欲しいものは……。」

ショウが遠慮がちに視線を上げる。

「なんだい？なんでも言ってごらん。」

ショウの顔を覗き込む。

ショウの欲しい物なら、なんでも買ってあげたい。

ショウの望むことなら、なんでも叶えてあげたい。

それがおいらの自己満足だってわかってる。

それでも……何もせずにはいられない。

「大好きのキスを……。」

ショウが小さな声でつぶやく。

おいらは眉間に皺を寄せる。

「……唇に。」

「ショウ……。」

「私の望むのはそれだけです……。」

ショウの手がおいらの肩にかかる。

もう片方の手が頬に触れる。

ショウの顔が近づいてくる。

「ショウ……！」

「サトシは欲しいものを言えといいました。

　私の欲しいのはこれだけです……。」

ショウの唇がおいらの唇に重なる。

冷たくて、優しいキス。

おいらのことが大好きだと、唇から伝わる。

触れるだけの唇が、おいらから離れて行く。

「だから、唇へのキスを……許して欲しい。」

ショウの悲し気な顔を見て、おいらは何も言えなくなる。

ただ黙ってうなずいて、

店員が持ってきた赤いリボンのプレゼントを、見つめるしかなかった。



それからも、ショウは唇へキスをしたがった。

おいらはそれを受け入れた。

受け入れるしかなかった。

「どうして唇へしたいの？」

おいらが聞くとショウが困った顔をする。

「……どうしてなんでしょう？」

ショウにも理由はわからない。

でも、おいらは、おいらがショウの唇にキスしたい理由はわかってる。

「いいよ。わからなくて。」

いい。一生わからなくて。

分からない方がいい。

ショウが唇にキスしたい理由……。

それはおいらが望んでるから。

おいらがショウの唇にキスしたいから。

おいらが……ショウを愛してるから。