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「短編」
短編(いろいろ)

Magic Hour 上

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あ~あ、やっちゃった……。

10年に一度の大失敗。

いや、今世紀最大の大失態。

俺、何やってんだろ。

今日は誕生日だって言うのに!

社会人になって、がむしゃらに頑張って……。

あげくがこの様。

働いて働いて……。

仕事は楽しい。

新しいことを覚えるのも、新しいことを始めるのも。

勉強することはいっぱいあるし、考えることもいっぱいある。

やりたいことも、やれることも、どんどん増える。

毎日毎日仕事のことばっかり考えてた。

おかげで彼女にもフラれた。

でも、それでもいいかと思ってた。

仕事が面白かったから。

なのに……。

先方を怒らせた。

なんでちゃんと確認しなかったんだろ。

何度も何度も見直したはずなのに。

どっかで甘えがあったのかな。

ちょっと褒められて、同期の中でももてはやされて、調子に乗ってたのかなぁ。

「ああ~っ!」

気付いたら叫んでた。

夕暮れ時の高架の上。

電車の音で、気付く人は誰もいない。

あ~あ、俺、どうしよう……。

どうすればいいんだろ……。

両手を橋の手すりに掛け、頭を抱える。

考えてもしょうがないことを、何度も考える。

あの時、ああしておけば、こうしておけば……。

でも……時間は逆には回らない。

帰り道を急ぐ人波が、俺の周りを過ぎ去って行く。

すぐ近くが駅だから、人の流れも多い。

高架から見える空は綺麗で、落ち込んだ俺を、夕陽が余計に落ち込ませる。

電車が通るのと同時に、もう一度声を上げる。

「うおおお~っ!俺のばかあああ~っ!」

思いっきり叫んだら、少しはすっきりするかと思ったら、そうでもなくて……。

ここでこんなことしててもしょうがない……。

手すりから離れ、もう一度空を見上げて駅に向かおうとしたら、

3mくらい離れた所に、同じように空を見ている男がいた。

夕陽を浴びる横顔が綺麗で、思わず立ち止まる。

柔らかそうな髪を風が撫でる。

何を考えてるのか、真っ直ぐな目が、真っ直ぐ夕陽を見つめてて、

綺麗だった……。

ただ、綺麗だと思った。

綺麗だと思ったら、どうしょうもなく涙が溢れて来て……。

ちくっしょ!

俺、頑張ってんのにな……。

溢れた涙は拭っても拭っても後から後から溢れてきて、

大の男がこんなとこで泣いてるなんて恥ずかしくって、

うつむいて、手の甲で涙を拭って、誰にも見えないように隠した。

涙のせいで、風が冷たい。

涙のせいで、夕陽が霞む。

涙のせいで……動けない。

なんとか涙を押し込めて、グッと口を引き結ぶ。

涙、止まったか?

止まったな?

自分で自分を確認し、顔を上げる。

夕陽はやっぱり綺麗で、ふと、隣を見ると、3m先の男がこっちを見てた。

ハッとして、顔を背ける。

見られたかな?

見られたよな……。

こんなとこで男が泣くなんて、

しかも、どうみても会社帰りの男。

仕事で失敗したのがバレたかな……。

……バレてもいいか。

知らない人だし……。

それでもバレるのが恥ずかしくて、チラッと隣を見る。

男はこっちを見て優しい顔で笑ってて……。

憐れまれた?

そう思ったら、カッと怒りが込み上げてくる。

見ず知らずの人に、憐れまれる筋合いはない!

何か言ってやろうと口を開いたら、男が話しかけてきた。

「ここ、汚れてる。」

男は頬を突き出し、頬骨の辺りを指さす。

え?と思い、右手で頬を撫でる。

手が汚れてたのかな?

涙拭った時についたか?

「違う違う。もっと右。」

右側を撫でると、男は、あ~あって顔で近づいてくる。

ポケットからハンカチを出し、それで俺の頬を拭う。

なぜか、黙って拭かれてる俺。

ゴシゴシと擦られて、男はニコッと笑う。

「恥ずかしがることないのに。」

男は拭ったハンカチを見て、そのままポケットにしまう。

「夕陽を見て泣くなんて、心が綺麗な証拠。」

「そんなんじゃ……。」

俺が泣いたのはそんなんじゃない。

そんなカッコいいもんじゃない。

そう思ったけど、言えなかった。

綺麗だと思ったのは、目の前の男で、泣いたのは自分が不甲斐なかったから。

「もう、仕事終り?」

うなずく。

優しい上司が、今日はもう帰れって言ってくれたから、何年ぶりかの定時。

誕生日だから、気を遣ってくれたのはわかってる。

でも、余計に寂しさを感じてた。

もう要らないって言われたみたいで。

「お腹、空かない?」

お腹……。

言われて初めて気づいた。

俺、腹減ってる……。

「旨いラーメン屋があるんだ。行かない?」

俺は素直にうなずた。

初めて会ったどこの誰ともわからない男と、飯食いに行くなんて有り得ない。

でも、そういうの、取っ払っちゃう何かがその男にはあって……。

優しい笑顔かな。

いや、この夕陽のせいかな。

今は……誰かと一緒にいたいのかもしれない……。

男はクスッと笑って歩き出す。

俺も並んで歩き出す。

「名前は?」

男が聞く。

「櫻井。あなたは?」

「大野。」

「大野さんか……。」

また、大野さんの横顔を夕陽が染める。

俺からはシルエットになってよくわからないけど、

きっと、さっきと同じ綺麗な目で、こっちを真っすぐ見てるんだ。

そう思うと、こんな出会いもありっちゃありかな?と思えてくる。

「下の名前は?」

「俺?翔。はばたくの翔!大野さんは?」

「智。知るに日って書く智。わかる?」

「わかるわかる。賢そうな名前だね。」

「そうかな?翔君の名前もカッコいいね。芸能人みたい。」

「ははは。」

俺らは笑いながらラーメン屋に向かった。

ふと見ると、夕陽は落ちて、空が不思議な色に変わってた。

綺麗だなと、そう思った。










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