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「短編」
短編(いろいろ)

暁 一話

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「そろそろ障子を閉めましょう。

 智姐さんが風邪を引いちまいます。」

カズが障子に手を掛ける。

「いりんせん。」

わちきはキセルをちょいと揺らす。

「でも……。」

カズの困ったような顔をチラッと見、わちきは月を見上げる。

足を崩し、横に伸ばして体を倒す。

青い仕掛に銀糸の鳥、赤い艶花は牡丹。

衣擦れの音がサラサラと流れる。

肘掛に体を預けると、窓から見える月が高くなる。

「あぁ、いい月だねぇ。」

まぁるい月にかかるは霞みの雲。

窓から聞こえるは、客を誘う遊女の甘い声。

「しばらく一人にしてくれなんし。」

わちきはポンとキセルを叩く。

長いキセルから、草が落ちる。

カズは黙って部屋を出る。

静かに襖を閉め、廊下を歩くカズの足音が遠のいて行く。

もうすぐ客が来る。

今宵の客は大事な客だから、粗相のないようお前に付けた。

そうおっかさまが言っていた。

御大尽はちゃんと礼を尽くす。

初会。

柔らかな笑顔に、思わず微笑みそうになった。

大きな瞳に吸い込まれそうなほど見つめられて……。

初心な頃を思い出す。

主さんはわちきの正面に座り、意を決したように息を飲む。

「あなたを大事に想うので、往日の習いに則(のっと)り、

 三度通おうと決めました。」

そう言って、手も触れず……。

野暮ではないのに、なぜか浅葱裏のような匂いもして、

真面目で不思議な御仁。

おっかさまに言って、裏もすんなり受け入れた。

二度目はさらに温かい笑顔。

恥ずかしくなって、綺麗なその指に、ずっと目をやっていたのは内緒。

主さんが、わちきの襟元ばかり見ていたのも秘密にしてあげる。

そして、今日、初めて床に入る。

何度もこうして床に入った。

幾人もの男を悦ばせた。

手練手管も散々使った。

嫌だなんて言っちゃいられない。

ここでしか、生きていく術がないんだもの……。

でも、こんなに……。

こんな気持ちになるのは初めてで……。

新造の時だって、こんなことはなかった。

どうしてだろう?

どうしてこんなに胸が高鳴る?

蒲団の上で、向い合わせの主さんの指が肩にかかる。

「あ……。」

「この日を……待ち焦がれておりました。」

真面目な主さんがわちきの顔を覗き込む。

「主さん……。」

主さんの指が顎を掬い、上を向いた瞬間に口を吸われる。

ああ、柔らかい、想像通りあったかい唇……。

抱きしめられ、ぎゅっと胸の奥が締め付けられる。

離された唇が恋しくて、主さんの厚い胸に顔を埋める。

男の匂いがして、腹の奥がざわざわと波立つ。

「翔と……呼んではくれませんか?」

わちきが顔を上げると、初めて会った時のような、

柔らかい笑みで見つめられてて……。

恥ずかしくなって顔を背ける。

「翔……さん?」

「そうです。そう呼んでください。」

翔さんは、抱きしめたまま、わちきを蒲団の上に倒す。

真綿で包むように、優しく優しく蒲団に寝かせてくれる。

「翔さん……。」

「……智。」

翔さんの唇が思いっきり、わちきの唇に押し当てられ、意識が飛びそうになる。

こんな口づけを……したことがない。

もっと強く抱きしめて欲しくて、翔さんの背に手を回す。

熱い体が重なって、わちきの熱さも翔さんに伝わりそうで、

体をずらそうとしたら、翔さんが襦袢の合わせに指を入れた。

「あ…っ。」

滑るように撫でる指は、胸の突起にすぐ気づく。

捏ねるみたいに押しつぶされ、前の証が熱を持つ。

「は…ぁんっ。」

仰け反る喉に、翔さんの唇が吸い付く。

これでもかと突起をいたぶられ、

イヤイヤと首を振っても、前の証はどんどん固くなっていく。

「ぁあ、翔さんっ!」

「……嫌?私では、嫌なのか?」

不安そうな翔さんの声。

「そうではござりんせん……そうじゃ……。」

わちきは翔さんの首に腕を回す。

「今、この時、わちきは翔さんお一人のもの。

 翔さんの為にいるのでござりんす。」

翔さんの目をじっと見て、そう言うのが精一杯で……。

遊女の手管と思われるならそれもよし……。

それでも、わちきはその腕に抱かれたいと思ってる。

翔さんに貫かれたいと……!

「翔さん……!」

「智……お前を私だけのものにしたい……。」

何度も言われたその台詞。

響くことなど一度もなかった。

なのに、今、その唇から零れる言葉のなんと甘いこと……。

翔さんの指が、乱れた合わせを広げていく。

行灯に照らされるわちきの肌。

翔さんの腕が、わちきの両手を縫いとめる。

唇同士が重なり、出し入れする舌の動きに、唾液が泡立つ。

「翔……さん……。」

「智……智、さとし……。」

翔さんの唇が胸を這い、指が肌の上をなぞる。

わちきの腕は翔さんを抱きしめ、その髪にそっと指を絡める。

愛しいと……。

そう思ったのは初めてで……。

この気持ちだけで生きていける。

そう思うほど、わちきの心は満たされて行く。

「……可愛いよ、私の智……好きだよ、智……。」

翔さんの声に、わちきも、と答える。

体が素直に反応する。

翔さんの指に、肌に、唇に。

片膝を立て、触りやすくしてあげる。

その拍子に障子の隙間から月が見える。

夜半の月。

わちきと翔さんを見てておくれ。

例えこれが夢だとしても、お月さんだけは覚えておいて……。

わちきが翔さんのものになる全てを……。










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