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「時計じかけのアンブレラ」
GreenLight(やま)

Green Light ⑩

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次の週、マツモト君の入れたアポは3社もあった。

研究の合間に入れられたアポの準備は完璧で、

そういうことが苦手なおいらは、マツモト君に頭が上がらない。

「まずはS社です。世界的な大企業ですからね~、研究費も期待できますよ。」

用意したファイルとモニターを確認するマツモト君が、ニヤニヤする。

「いやらしいことを言うもんじゃない。」

おいらが口をへの字にすると、マツモト君の口が尖がる。

「そうは言ってもお金は大事です。何をするにも先立つものがないと……。

 ドクターはそう言うことに関心がなさすぎます。」

「おいらは研究ができればいいんだよ。」

「その研究ができなくなっちゃうんです!!」

マツモト君が頬を膨らませ、ファイルをテーブルの上に並べると、

おいらはショウを別室に待機させた。

本物を見せる必要はない。

マツモト君のファイルで十分だ。

「ではドクター、応接室へ。」

「うん。」

おいらはマツモト君に促されるまま応接室に向かう。



企業の話はどこも同じだった。

ショウのファイルを見せると、どの企業も絶賛し、

どこまでならカットできるか探りを入れてくる。

ショウをそのまま作れば、話題にはなるだろうが、費用がバカにならない。

必要な部分だけ残し、それ以外を軽くしたいのだろう。

ニーズに合わせて……と言うことだ。

次に、注文生産の小型ロットにかかるコストについて、しつこく聞かれる。

ショウを大量生産?

ばかか。

金型を作って、ポンと次々にできるものではない。

体だけでも数か月はかかる。

どう考えても、安い金額にはならない。

一家に一台ショウを、という時代は一生くることはないだろう。

それが無理だとわかると、今度はショウの頭脳、AIを簡略化できるかと聞いてくる。

簡略化して学習能力だけを応用したいと言うわけだ。

話にならない。

おいらは首を横に振り続けた。

だが、1社だけ、A社だけがショウをそのまま、

あの形で作ってみたいと言ってきた。

だが、おいらは首を縦に振らなかった。

また来ますと言って、A社が帰るとマツモト君が渋い顔をする。

「どうしたの?」

おいらはA社の帰った応接室でマツモト君を見る。

「どうしたって、全部断っちゃうんですから。」

マツモト君が、ファイルをトントンとテーブルで整え、おいらを見る。

「ドクターはARS-0125を売る気はないんですか?」

マツモト君の目は明らかに非難している。

ショウが売れれば、当面の研究費は心配ない。

存分に研究に没頭できる。

それはわかっている。

当初はそれを見込んでショウを作った。

だが……。

「マツモト君は、ショウをどう思う?」

「どうって……?」

「ショウは……人間にとって必要なのかな?」

「そりゃ、いたら助かるでしょう?

 人間以上に働けるんですから。

 それに、あの見た目は人を安心させます。

 絶対裏切らない、ミスをしないアンドロイドが、

 状況に応じて学習していくんですから、申し分ありません。」

「本当にそうだろうか?」

マツモト君は溜め息をついておいらを見る。

「例えば……老老介護の現状も、アンドロイドがいたら少しは楽になると思いませんか?

 自分の孫のようなアンドロイドが介護をしてくれる。

 身も心も疲れることなく、嫌がることもなく……。

 需要は必ずあります。」

今度はおいらが溜め息をつく。

「ショウは学習していく。

 そんな状況を憂いだりしないだろうか?」

「ドクター!何を言ってるんですか。アンドロイドに感情はありません。

 機械なんですから!」

マツモト君は、おいらの馬鹿な考えを断ち切るように、パチッとモニターを消す。

感情はない……。

わかっている。

そんなことはわかっているのだ。

なのに……。

「……ああ、そうだ。マツモト君の言う通りだよ……。」

「ドクター……。」

おいらは立ち上がり、応接室を出る。

馬鹿な考えだ。

研究者としてあるまじき妄想だ。

わかっているはずなのに……。

ショウを見ると、もしかしてと思ってしまう。

人間の感情が経験によって成長していくのなら、ショウももしかしてと……。

マツモト君が、急いで後を追いかけてくる。

「ドクター!」

マツモト君が軽く息を吐きながら、おいらに並ぶ。

「さっきの話ならわかったから。企業についても、もう一度考えてみるよ……。」

「ドクター……。」

マツモト君が一瞬悲し気な顔をして、ギュッと胸に抱いたファイルを抱きしめる。

「ドクターの研究は人類に大きな進化を与えます。

 それは間違いありません。」

マツモト君が真剣な顔でおいらを見つめる。

「ありがとう。」

おいらは笑って、マツモト君の先を歩く。

「……だから……気を付けてください。」

「気を付ける?」

おいらが振り返ろうとすると、またマツモト君が隣に並ぶ。

「ドクターの研究は今、世界から注目されています。

 それを妬む者も、盗もうとする者もいます。

 だから……できるだけ、ショウを連れ歩くのは……止めてください。」

目力の強いマツモト君が力を込めてそう言うと、

小さく会釈して、おいらを追い越し、研究室に戻って行く。

マツモト君は……ショウが狙われていると言いたいのか?

おいらのショウが?

おいらはマツモト君の背中を見つめ、黙って考え込んだ。










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