「時計じかけのアンブレラ」
GreenLight(やま)
Green Light ⑨
2018.01.11 *Edit
マツモト君の忠告を頭の隅に置きながら、
それでもおいらはショウを連れて歩いた。
ショウは経験により学んでいく。
新たな経験はショウを成長させる。
家に閉じ込めておくのは、ショウの成長を阻害することになる。
「そろそろショウにも新しい服を買おうか。」
「私に服ですか……?」
「そうだよ。ショウほどのイケメンなら、何を着せても似合う。」
おいらは笑ってショウの背中をポンポン叩く。
ショウは渋い顔をしながら、おいらに着いてくる。
「これなんかどうだろう?」
デパートの洋服店のショーウィンドーを指さす。
マネキンが着ているのは、ワインレッドのセーターにジーンズ。
「サトシが着せたいのなら、なんでも……。」
そう言いながら、さらに渋い顔をする。
「どうした?気に入らない?」
「そういうわけでは……。」
「どれか着たい服があるの?」
おいらは店内を見回す。
冬物の服が並ぶ店内は、温かそうだが、深みのある色合いが多い。
「どれでもいいなら……。」
そう言って、ショウはツカツカと店の奥に向かう。
この店は、女性用、男性用、子供用と幅広く扱っているらしく、
ショウの向かったのは、女性用の売り場だ。
「ショウ?」
おいらは首を傾げながらショウに続く。
「……これがいいんですけど……。」
ショウが手にしたのは、青いワンピースだ。
ウエスト部分に切り替えが入っているシンプルなものだ。
「これを……着たいの?」
「はい……ダメですか?」
「ダメじゃないけど……。どうして、これ?」
ショウは恥ずかしそうに下を向く。
「……サトシが、楽しそうに見てたから……。」
楽しそう?
おいらが?
「いつ……?」
「この前のパーティで……。」
ショウはワンピースを指先で擦り、スッと視線を上げる。
「チケットをサトシに渡してた女性を……。」
思い出した。
ショウが固まった時だ。
確かにあの時の女性はスカートを履いていた。
ワンピースだったかどうかまでは覚えていない。
おいらが見ていたのはチケットで、女性の服装に全く興味などなかった。
ついでに言えば、女性にも全く興味はなく、おいらはチケットしか見ていなかった。
あれを覚えていて、ショウはワンピースが着たいのか?
おいらはクスクス笑う。
そんな必要、全然ないのに。
ショウの腰に手を添え、ワンピースを置いて男性用売り場に戻る。
「サトシ?」
戸惑うショウの腕を掴んで、グイグイ戻る。
「ショウは勘違いしているよ。」
「勘違い?」
「女性の服装を見ていたんじゃない。チケットを見てたんだ。」
「チケット?でも、女性と話しているサトシは楽しそうだった。」
「ああ、ミュージカルの話だろう?
おいらはミュージカルが好きだからね。」
「好きなのはミュージカル?」
「そうだよ。興味があったのはミュージカル。女性に興味があったわけじゃない。」
おいらは戻ってきた男性用売り場で手を広げる。
「さ、ここで服を選ぼう。どれがいい?」
ショウは恥ずかしそうに、困ったように頭を掻く。
「なんでも……サトシが好きなものを……。」
「そうはいかない。勘違いした罰だ。ちゃんと選んで。」
おいらがそう言うと、ショウは仕方なさそうに店内を見回す。
「じゃ、これを……。」
ショウが手にしたのは、ウィンドーに飾ってあるセーターの色違いだ。
爽やかなブルーのセーターを、ショウが自分に当てる。
「似合いますか?」
「ん~、いいね。でも、あっちの方がショウには似合うんじゃない?」
おいらがウインドーを指さすと、ショウはゆっくり首を振る。
「こっちがいいです。水平線の青に似てます。」
ショウはセーターを両手で広げ、じっと見てニコッと笑う。
「うん。似てる。」
おいらの好きな色。
ショウはどこまでもおいらの好みに忠実だ。
「わかった、じゃあ、それにしよう。それと……。」
おいらは近くにあった、黒いパンツを取り上げる。
「これも買おう。きっとそのセーターに似合うよ。」
おいらが笑うと、ショウが嬉しそうに目尻に皺を作る。
自分で作ったプログラム。
どこまでもマスターに忠実に。
ショウはその通りに行動してるだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない……。
「一つだけ約束して欲しい。」
「約束?」
ショウはセーターとパンツを持って首を傾げる。
サラッと揺れる髪が頬で止まる。
「けして、女性になろうなどと思わないでほしい。
おいらがこの先、女性と付き合うことになっても、ショウは特別だ。
おいらとショウを離すことなど誰にもできない。
できるのは……おいらだけだ。」
ショウは真剣な表情でうなずき、おいらを見つめ返す。
「ではそれを買っておいで。」
レジに向かうショウの後ろ姿を見て思う。
おいらにこの先、ショウ以上の人間が現れるだろうか?
ショウだけで、十分なのではないか……?
レジの店員が、ショウを見て頬を染める。
それに気づくことなく、ショウはセーターとパンツをカウンターに乗せる。
店員が楽しそうにショウを見上げるのを見て、胸の奥がチクっと痛んだ。
それでもおいらはショウを連れて歩いた。
ショウは経験により学んでいく。
新たな経験はショウを成長させる。
家に閉じ込めておくのは、ショウの成長を阻害することになる。
「そろそろショウにも新しい服を買おうか。」
「私に服ですか……?」
「そうだよ。ショウほどのイケメンなら、何を着せても似合う。」
おいらは笑ってショウの背中をポンポン叩く。
ショウは渋い顔をしながら、おいらに着いてくる。
「これなんかどうだろう?」
デパートの洋服店のショーウィンドーを指さす。
マネキンが着ているのは、ワインレッドのセーターにジーンズ。
「サトシが着せたいのなら、なんでも……。」
そう言いながら、さらに渋い顔をする。
「どうした?気に入らない?」
「そういうわけでは……。」
「どれか着たい服があるの?」
おいらは店内を見回す。
冬物の服が並ぶ店内は、温かそうだが、深みのある色合いが多い。
「どれでもいいなら……。」
そう言って、ショウはツカツカと店の奥に向かう。
この店は、女性用、男性用、子供用と幅広く扱っているらしく、
ショウの向かったのは、女性用の売り場だ。
「ショウ?」
おいらは首を傾げながらショウに続く。
「……これがいいんですけど……。」
ショウが手にしたのは、青いワンピースだ。
ウエスト部分に切り替えが入っているシンプルなものだ。
「これを……着たいの?」
「はい……ダメですか?」
「ダメじゃないけど……。どうして、これ?」
ショウは恥ずかしそうに下を向く。
「……サトシが、楽しそうに見てたから……。」
楽しそう?
おいらが?
「いつ……?」
「この前のパーティで……。」
ショウはワンピースを指先で擦り、スッと視線を上げる。
「チケットをサトシに渡してた女性を……。」
思い出した。
ショウが固まった時だ。
確かにあの時の女性はスカートを履いていた。
ワンピースだったかどうかまでは覚えていない。
おいらが見ていたのはチケットで、女性の服装に全く興味などなかった。
ついでに言えば、女性にも全く興味はなく、おいらはチケットしか見ていなかった。
あれを覚えていて、ショウはワンピースが着たいのか?
おいらはクスクス笑う。
そんな必要、全然ないのに。
ショウの腰に手を添え、ワンピースを置いて男性用売り場に戻る。
「サトシ?」
戸惑うショウの腕を掴んで、グイグイ戻る。
「ショウは勘違いしているよ。」
「勘違い?」
「女性の服装を見ていたんじゃない。チケットを見てたんだ。」
「チケット?でも、女性と話しているサトシは楽しそうだった。」
「ああ、ミュージカルの話だろう?
おいらはミュージカルが好きだからね。」
「好きなのはミュージカル?」
「そうだよ。興味があったのはミュージカル。女性に興味があったわけじゃない。」
おいらは戻ってきた男性用売り場で手を広げる。
「さ、ここで服を選ぼう。どれがいい?」
ショウは恥ずかしそうに、困ったように頭を掻く。
「なんでも……サトシが好きなものを……。」
「そうはいかない。勘違いした罰だ。ちゃんと選んで。」
おいらがそう言うと、ショウは仕方なさそうに店内を見回す。
「じゃ、これを……。」
ショウが手にしたのは、ウィンドーに飾ってあるセーターの色違いだ。
爽やかなブルーのセーターを、ショウが自分に当てる。
「似合いますか?」
「ん~、いいね。でも、あっちの方がショウには似合うんじゃない?」
おいらがウインドーを指さすと、ショウはゆっくり首を振る。
「こっちがいいです。水平線の青に似てます。」
ショウはセーターを両手で広げ、じっと見てニコッと笑う。
「うん。似てる。」
おいらの好きな色。
ショウはどこまでもおいらの好みに忠実だ。
「わかった、じゃあ、それにしよう。それと……。」
おいらは近くにあった、黒いパンツを取り上げる。
「これも買おう。きっとそのセーターに似合うよ。」
おいらが笑うと、ショウが嬉しそうに目尻に皺を作る。
自分で作ったプログラム。
どこまでもマスターに忠実に。
ショウはその通りに行動してるだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない……。
「一つだけ約束して欲しい。」
「約束?」
ショウはセーターとパンツを持って首を傾げる。
サラッと揺れる髪が頬で止まる。
「けして、女性になろうなどと思わないでほしい。
おいらがこの先、女性と付き合うことになっても、ショウは特別だ。
おいらとショウを離すことなど誰にもできない。
できるのは……おいらだけだ。」
ショウは真剣な表情でうなずき、おいらを見つめ返す。
「ではそれを買っておいで。」
レジに向かうショウの後ろ姿を見て思う。
おいらにこの先、ショウ以上の人間が現れるだろうか?
ショウだけで、十分なのではないか……?
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