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「時計じかけのアンブレラ」
GreenLight(やま)

Green Light ⑥

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砂浜近くの駐車場に車を止め、降りる。

南東の陸の方に雲が広がっていたが、概ね快晴で、おいらは空に向かって両手を上げる。

「ん、ん~~っ!」

ずっと座っていたから、背中が痛い。

ショウは後部座席からレジャーシートと紙袋を取り出す。

「ん?何を持ってきたの?」

「端末で調べたら、お弁当とレジャーシートが必要と書いてあったので。」

にっこり笑って、おいらの前を歩く。

20世紀後半からの科学の進歩は目覚ましい。

二足歩行に必要な重心バランスの歩行制御方法も、その頃に研究されたものだ。

現在作られているアンドロイドは、ほとんどがその恩恵に預かっている。

ショウも例外ではなく、でこぼこした砂の上でも、なんなく歩くことができるし、

人間と同じように手や指先を動かすことができる。

もちろん、屈伸や跳躍も。

その力は人間の数倍あるのだが、それが発揮されることは、

おいらとの生活ではほとんどない。

「これが……海ですか……。」

ショウが視線を水平線に向ける。

「そうだよ。知らなかった?」

「いえ、知ってはいましたが、見るのは初めてだから……。」

眩しいのか、目を細めるショウに、おいらも目を細める。

「本当に広いんですね。」

「そうだよ。海は広くて……青い。」

「青……。」

「青と言っても様々だ。空も青ければ、青い草花もある。」

水平線に目を馳せる。

「おいらは……あの水平線辺りの濃い青が好きなんだ。」

ショウは黙って海を見つめ続ける。

「サトシの好きな色……。」

そうだよ。

おいらの好きなもの、これからもたくさん見せてあげるよ。

「……キラキラしてる。」

沖の方で、波が跳ね、陽を浴びてキラキラ光る。

ザザァーと、波の音がおいら達を包む。

この世に、おいら達だけになったような、静かで穏やかな時間。

凪いだ海と穏やかな陽ざしとキラキラ光る波間。

時々空を横切る鳥たち。

そして、おいらの隣にショウ。

おいらの好きなもので満たされた時間……。

「そうだね。綺麗だ……。」

おいらはショウを見上げる。

ショウの顔にも陽が当たって、キラキラと輝いている。

おいらは少し背伸びをし、ショウの頬に唇を当てる。

この愛しい時間に、おいらのショウに。

「これは……可愛い?それとも大好き?」

おいらはクスッと笑う。

「どっちもだよ。大好きで可愛い……おいらのショウ……。」

おいらはショウを抱きしめる。

少しの間黙って抱きしめられていたショウの手が、おいらの背に回る。

「私も……大好きで可愛い……サトシに……。」

ショウの唇がおいらのおでこに当たる。

抱きしめたまま見上げると、ショウの唇がおいらの唇に当たる。

柔らかくてヒンヤリしたその感触……。

おいらは反射的に唇を開く。

ショウの唇の間に舌を差し込み、ショウの舌に絡める。

ショウの舌は乾いていて、柔らかさはあるものの冷たい。

その感触が、ショウがアンドロイドだと言うことを、思い出させてハッとする。

……思い出すと言うことは……忘れていたということだ。

ショウがアンドロイドだと言うことを、おいらは忘れている……。

唇を離し、ショウを見上げる。

「どこでこんなこと覚えたの?」

軽く笑ってみせる。

「覚えたのではありません。サトシを見ていたら、キスしたくなりました。」

ショウが困ったように笑う。

おいらの好きな表情で……。

「ショウのプログラムを間違えたかな?こんな遊び人になるなんてね。」

「遊び人?私は遊んだ覚えはありませんが……。」

ショウが不思議そうな顔をする。

「口同士のキスは大好きのキスとはちょっと違うんだよ。」

「違うんですか?」

ショウがびっくりしたように目を瞠る。

「そうだよ。口と口のキスは……恋人同士のキスだ。」

「恋人……。」

「そうだ。愛し合う者同士でするものなんだ。

 言わば、特別なキスだな。」

「……申し訳ありません。そんなこととは知らずに……。」

「いいよ。わかってる。」

わかってる。

ショウを作ったのはおいらだ。

ショウに恋愛のノウハウなどインプットした覚えはない。

ショウに必要なのは、人とコミュニケーションを取る方法と、

人に混じって、人と同じように仕事をすることだ。

人の手助けにならなければならない。

それがアンドロイドに課せられた命題であり主題である。

恋愛ノウハウなど、覚えてもトラブルを招くだけだ。

アンドロイドに必要なプログラムではない。

「どうかしましたか?」

ショウが心配そうにおいらを見る。

「いや、なんでもない。」

おいらは笑って一歩前に出る。

ショウの顔を見ないように。

「私がキスなんかしたから……。」

「そうじゃない。」

おいらは振り向かず答える。

「でも……。」

ショウの言葉が止まる。

波の音が響き、遠くで鳥が鳴く。

「でも、サトシと私の関係に恋人も含まれているのだから、

 間違いではありませんよね?」

意外なショウの言葉に思わず振り返る。

ショウは照れたように笑い、レジャーシートを持ち上げる。

「これ、どこに敷きますか?」

ショウの笑顔が眩しくて、目を細めて笑うと、ショウの目が三日月に変わる。

「もう少し、波際にしよう。もっと近くで海を感じたい。」

おいらが海に向かって歩き始めると、ショウも後に続く。

歩く度にカタカタと弁当の箱が鳴って、おいらの頬が緩む。

「お弁当の中身はなんなの?」

ショウの楽し気な声が答える。

「サトシの好きなパンですよ。サンドイッチにしました。」

ああ、いいね。

海を見ながらサンドイッチを食べよう。

ショウの作った美味しいサンドイッチを。










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