FC2ブログ

「短編」
短編(いろいろ)

Sugar 三人 ~やま~

 ←Sugar 一人 ~やま~ →Love so sweet №90

席に戻った大野を、課長が呼び留める。

「まだいたのか。」

「もう帰ります。キリのいいとこまでやりたかったんで。」

大野はパソコンを切り、鞄を椅子の上に乗せる。

「そうか。たまには一杯行くか?」

「今日は帰ります。すみません。」

ジャケットを羽織り、携帯をポケットに入れると、課長に会釈する。

「まぁ、いいよ。お前だって、待ってる人がいるもんなぁ?」

「いないですよ。そんな人。」

大野が軽く笑い、鞄を掴む。

その長い指を見ながら、課長が顎を撫でる。

「お前、いくつになった?」

「……37です。」

大野が訝しそうに課長を見上げる。

「そろそろ、決めた方がいいんじゃないのか?

 いつまでも遊んでばかりもいられないぞ?」

課長が意味深に笑う。

「だから、そんな人いませんって。」

「お前くらい、いい男で誰もいないことないだろ?」

課長は大野の指から視線を離さない。

「ああ、これですか?特に意味はないんですけど……。」

大野は緩くなった指輪を親指と中指で撫でる。

「本当にいないなら、紹介するぞ?」

「じゃ、困ったら、よろしくお願いします。」

大野は早くこの話を切り上げたかった。

面倒見がいいと評判の課長だ。

本当に紹介してくれそうで怖かった。

「じゃ、お先に失礼します。」

「おぅ。」

大野がオフィスを出ると、狙いすましたように携帯が震える。

ポケットから携帯を取り出し、手慣れた調子でタップする。

エレベーターホールに人影はない。

このフロアで残っているのも数名だろう。

エレベーターのボタンを押し、携帯が繋がるのを待つ。

コール3回、きっかりで繋がる。

「あ、もしもし、智?」

聞き慣れた声。

「ん。」

「今日、何時に帰ってくる?」

「もう、家?」

「うん。」

「最近早いね。」

「そうだね……、プロジェクトが終わったから。」

「……終わったの?」

「うん……終わった。」

「寂しくなるね。」

「……そんなことないよ。これで智との時間ができる。」

大野は左手のリングをクルッと回す。

「そっちは?忙しい?」

「……ぼちぼちかな。」

「ぼちぼち?」

「ん……まだ、どうなるかわからない。」

「わからないの?」

「……今の案件はクライアント次第だから……。」

「そうなのか……。大変だね。」

大野は、そっと人差し指に唇を当てる。

「そんなことないよ。」

ポーンと音がして、エレベーターのドアが開く。

「あ、エレベーター来た。切るね。」

「わかった。早く帰って来なよ?」

「ん。」

大野はエレベーターに乗り込み、携帯をタップする。

雅紀と書かれた文字が消える。

一階のボタンを押し、壁に背中を預ける。

一気に疲れが押し寄せる。

大野は目をつぶって、エレベーターが一階に着くのを待つ。

最初は、木曜日だけ帰りが遅いのが気になった。

付き合いだろうと、あえて詮索はしなかった。

そのうち、雅紀から知らない匂いがするようになった。

雅紀の態度が変わる前、もう、その頃には確信していた。

でも、雅紀に聞く勇気はなかった。

ただ、相手が知りたかった。

どんな相手が雅紀を夢中にさせたのか。

自分から、雅紀を奪うのはどんな奴なのか。

木曜日、半休を取って、雅紀の会社に行った。

雅紀の後をつけ、どんな奴に会うのか見てやろうと思った。

案の定、雅紀は男と会っていた。

繁華街の小洒落たバー。

親し気に笑い合い、テーブルの下で手を握り合っているのを見て、

カッと頭に血が上った。

驚くことに、大野は相手を知っていた。

同じ会社、部署は違うが、一期下の後輩だった。

二人はそのまま、ホテル街へ消えて行った。

ポーン。

エレベーターの音で目を開ける。

額に手の甲を当て、よいしょと体を壁から離す。

エレベータ―を降り、外に出ると、ヒヤッと外気が頬を冷やす。

もう、この辺を歩く人影は少ない。

見上げると、月が明るく輝いている。

駅に向かう道を、ゆっくり歩く。

どんな手を使って雅紀に言い寄ったのか、

どんなところがよかったのか、興味だけで近づいた。

いや、やり返してやりたい気持ちもあった。

この程度の男だと、雅紀に見せつけてやりたかったのかもしれない。

会社でも評判のイケメンで、成績も優秀な後輩は、大野から見てもいい男だった。

爽やかな笑顔が印象的で、大野の素気ない態度にも、嫌な顔一つしない。

惹かれるのに、時間はかからなかった。

そんな自分が許せなくて、でも、会わずにもいられなくて……。

月のキレイな夜、切羽詰まった櫻井に言われた言葉。

「男同士でこんな気持ちになるなんて初めてで、

 どうしていいかわからなくて、

 この先、どうなるかもわからない……。」

櫻井がどんなに爽やかに笑っても、真摯な態度を見せても、大野は知っていた。

全部嘘だということも、これが手だと言うことも。

大野は唇を押し付ける。

これ以上、この唇から嘘は聞きたくなかった。

「指輪……してるくせに。」

大野が言うと、困ったように櫻井も言う。

「あなたが外してくれないから……。」

「俺は……外さないよ。」

大野はクルッとリングを回す。

雅紀とのペアリング。

きっと櫻井のも……。

それなのに、櫻井のキスは大野を酔わす。

目くるめく時を刻みつける。

大野は駅の明りを見て、ブルッと身震いする。

それが、寒さのせいなのか、違うのか、大野にはわからない。

ただ、強く抱きしめられたいと思う。

あの腕で、あの唇で。

形のある物などいらない。

だから、その時だけは……、自分を、理性を、解かして欲しい。

明るく輝く月が、駅の明りに霞んでいく。

大野は駅の階段を一段一段踏みしめる。



もうすぐ、日付が変わる。










関連記事
スポンサーサイト






 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ 3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ 3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ 3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ 3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ 3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ 3kaku_s_L.png season
総もくじ 3kaku_s_L.png Sunshine(やま)
総もくじ 3kaku_s_L.png 五里霧中
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏の名前
総もくじ 3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ 3kaku_s_L.png Deepな冒険
総もくじ 3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ 3kaku_s_L.png 時計じかけのアンブレラ
総もくじ 3kaku_s_L.png 大人の童話
総もくじ 3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
総もくじ  3kaku_s_L.png Sunshine(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png 時計じかけのアンブレラ
もくじ  3kaku_s_L.png つなぐ(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png 白が舞う
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png Happiness(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png 夏疾風(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png STORY
【Sugar 一人 ~やま~】へ  【Love so sweet №90】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【Sugar 一人 ~やま~】へ
  • 【Love so sweet №90】へ