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つなぐ(やま)

風雲(かざぐも) 下

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雅紀には何が起こったかわからない。

大きな爪の先は、後一寸ほどの所で止まっている。

爪は、大きなかまいたちの前足で、

そのかまいたちも空中でさかさまに止まっている。

何が起こった?

周りを見回してみる。

唸りを上げて上空を回っていた無数のかまいたちが、四方八方に散っていく。

はるを見ると、はるは樹々の間、一点を見据えて身動き一つしない。

雅紀もはるの視線の先に目を凝らす。

雅紀には何も見えない。

代わりに、雅紀の目の前で、大きな爪がピクリと動く。

ああ、やっぱりダメか……。

そう思って、はるを抱く腕に力を込めた時、

何かが、大きな風の音と共に二人の上に落ちてくる。

「我の吾子(あこ)に手をだそうとはいい度胸だ。」

豪風吹きすさぶような笑い声。

「そう、いきり立ちますな。」

層雲(そううん)立ち込めるように、辺りを包む柔らかい声。

二人の声が闇夜に木霊し、二人に気付いた雅紀が天を仰ぐ。

「翔さん!」

同じく天を見つめるはるの顔が笑顔に変わる。

「狐さん!」

地上に降り立った櫻井が雅紀に駆け寄ると、雅紀がぎゅっと抱き着く。

櫻井はその頭を撫で、片手ではるを抱きあげる。

はるの背の赤い血の跡を見て、智の目がギラッと光る。

「ただで済むと思うなよ?」

智の握った手が、空中で静止しているかまいたちに向かう。

大きな体を捻り、かまいたちが爪を振り上げる。

智の手がパッと開かれると、手の平から放たれた圧が、

かまいたちの腹を直撃する。

それと同時に、かまいたちの背から、人型の紙がパラリと落ちる。

体をくの字に曲げ、猛り狂ったかまいたちが爪を振り上げる。

智の手から、また圧が飛び出す。

爪が、圧を切り裂いて智に向かう。

すかさず櫻井の式が飛ぶ。

「ノウマクサンマンダウンタラタカンマン!」

早口で叫び、手刀を投げる。

手刀に押されるように、式がかまいたちの爪に貼りつく。

爪が智の鼻先で動きを止める。

智は伸ばした手の平に力を込め、圧を放つ。

近距離からの圧に、かまいたちの体が跳ね飛ばされる。

「キ、キィーーーッ!」

かまいたちは背を樹にぶつけ、地面に落ちる。

遠巻きに見ていた他のかまいたちが、また頭上でグルグルと渦を描き出す。

渦はゴゥと言う音をさせ、智を取り囲む。

「あんなにいっぱい……いくら白狐さんでも……。」

雅紀が心配そうに櫻井を見上げる。

「大丈夫ですよ。白狐が負けることなんかありません。」

櫻井がにっこり笑い、雅紀を自分の隣に並べる。

「さぁ、二人共、しっかり見ていなさいな。

 これが狐殿です。」

智が走り出す。

風を起こし、雲を率いて飛び上がる。

「うわぁ~。」

はるの目が大きくなる。

雅紀が息を飲む。

「うはははは、ぬるいわ!」

智が動くたび、周りのかまいたちが次々地面に落ちて行く。

「いくらでもいい、相手になってやる。

 かかってこい!」

縦横無尽に智が動く。

その動きは正に圧巻。

これほど早く、軽やかに飛べる妖がいるだろうか。

その動きに目を奪われ、気付けば目の前に現れるのだ。

相手になる妖など存在しない。

バタバタと地面に重なって行くかまいたちに、雅紀がブルッと体を震わす。

櫻井はそんな雅紀の肩を撫で、智に向かって叫ぶ。

「もう、いいでしょう?戻って来てくださいな。」

智は笑いながら尚高く飛ぶ。

「はると雅紀を怖がらせた報いだ。これでも足らんわ!」

智の動きに釘づけになっていたはるが、最初の小さなかまいたちの鳴き声に気付く。

「キィ~。」

小さなかまいたちは、大きな爪のかまいたちの近くで、心配そうに声を上げている。

大きな爪を必死で舐めている。

舐めながら、か細い声で泣き続ける。

そんなかまいたちを見て、はるが櫻井の首にしがみつく。

「もうダメ……。もうやめて……。」

櫻井も小さなかまいたちに気付き、はるに向かってニコッと笑う。

「狐殿!そろそろお腹が空いてきました!帰りますよ!」

櫻井ははるを抱いたまま、雅紀の手を引いて、智に背を向ける。

「なんだ!もう帰るのか?……仕方ないな……。」

智は飛ぶのを止め、地上に降り立つ。

グルグル回っていたかまいたちが、散り散りになって逃げていく。

「翔さん、あのかまいたち……。」

雅紀が心配そうに振り返る。

「きっと親子なのでしょうね。

 親は子供を心配し、倒れた親を子が心配する……。」

「逃がしてあげたのに……。」

「きっと、頭に血が上ったのでしょう。狐殿みたいに。」

櫻井は智を見て、クスッと笑う。

智は不満そうに口をへの字に曲げる。

「オトギリソウを持って行っておあげ。あれは妖でも効くから。」

雅紀は大きくうなずき、先ほど取った薬草を少しばかり握り締める。

かまいたちの近くまで行くと、子供を怖がらせないよう、しゃがんで優しく話しかける。

「これ、薬だよ。傷口に塗ると早く治る……。わかる?」

子供が首を傾げ、警戒しながら数歩、雅紀に近づく。

「ああ、いいよ。私は行くから、いなくなってから持って行けばいい。」

雅紀はゆっくり立ち上がり、ニコッと笑う。

「もう悪戯しちゃダメだよ?」

子供はつぶらな瞳で雅紀を見つめる。

雅紀は小さくうなずいて、櫻井の元へ戻って行く。

櫻井の腕に手を掛け、振り返ると、子供が薬草を咥えて親の所に戻って行くのが見える。

これで大丈夫。

雅紀はホッとして櫻井を見上げる。

「今日の夕餉はなんですか?雅紀さん。」

「今日は青菜と……。」

雅紀が楽しそうに夕餉の献立を話すのを聞いて、智は櫻井の腕からはるを受け取る。

はるは智の顔を見て、その首にぎゅっと抱き着く。

雅紀は櫻井の手をぎゅっと握り締める。

「怖かったね。」

雅紀の肩を抱き寄せると、雅紀が声を上げて泣きだした。

「頑張ったね。」

櫻井が雅紀の頭を撫で、智がはるの頭を撫でる。

「はるも頑張ってたな?」

「うん!」

四人が家に向かって歩き出す。

「もうそれ以上泣くと、目が落ちてしまいますよ。」

櫻井が笑って雅紀の頭を撫でる。

「翔さんが……グスッ、青菜を食べたら、グスグスッ、泣き止みます。」

鼻をすすりながらの雅紀の言葉に、あっと口を開けて櫻井が笑う。

智とはるも笑う。

「仕方ありませんねぇ。頑張りましょう。」

櫻井が困ったような顔をすると、雅紀が嬉しそうに笑う。

智の首に抱き着いたままのはるが、空を見上げる。

西の空に輝くいつもの星が、雲で隠されようとしている。

嵐が来る前兆だ。

でも何が来ても大丈夫。

櫻井と智がいれば、怖い物などない。

はるはうつらうつらし始める。

智の温もりに安心し、櫻井の声に癒されて……。



何があっても、四人でいる限り、

向かうところ敵なし!










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