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つなぐ(やま)

風雲(かざぐも) 上

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「しまった。」

雅紀は持っていた茶碗と箸を置いて、ガタッと膝立ちになる。

「どうしたの?」

はるは首を傾げ、雅紀を見上げる。

雅紀が食事中に大きな音を立てることなど滅多にない。

「帝のとこに持って行く生葉、採って来るの忘れてた!」

「明日の朝じゃダメなの?」

「昼までに持って行きたいんだ。翔さんに頼まれてたのに……。」

雅紀が視線を落とすと、長い睫毛が影を作る。

はるは、そっと窓から空を見つめる。

夕闇迫る空は、赤と言うよりはもう藍色に近い。

その視線に気付いた雅紀も、振り返って窓の外を見る。

「今から行く……?」

はるが心配そうに聞く。

「でも、もう外に出るのは……。」

この時間だ。

まだ幼いはるを一人にするのは危ない。

かと言って、連れて行って何かあっても……。

雅紀は、はるに視線を移す。

「はる、一人で待てる?」

はるは、考えるまでもなく答える。

「はるも行く!雅兄ちゃんに何かあったら大変だもん。」

まだ八つのはるが、勇んで立ち上がる。

「摘んだらすぐ帰ってくるでしょう?

 だったら、一人より二人の方が早く済むよ。」

確かにはるの言う通りだ。

だが……。

雅紀はその小さな顎に手を当て考える。

雅紀の体もまだ大人ではない。

年齢は櫻井とあまり変わらないが、鬼の雅紀はまだ12歳ほどの大きさだ。

鬼は人より成長が遅い。

雅紀はしばらく悩み、意を決して立ち上がる。

「はるも行こうか。今から行けば、暗くなる前に山からは下りられる。」

「うん!」

はるは、ニコッと笑って雅紀の隣に並んだ。



「雅兄ちゃん。」

木の根の近くに生えた薬草に、はるが手を伸ばす。

「あぁ、それだ。」

雅紀ははるの隣にしゃがみ、薬草を千切って行く。

思ったより早く見つかり、安堵した雅紀が笑う。

その顔を見て、はるも笑って薬草を取って行く。

「もうちょっといる?」

「そうだね。もう少し……。」

二人が夢中になって木の根に目を凝らしていると、

シュッと小さな音が山の上の方から聞こえてくる。

……なんの音だ?

また、シュッと音がする。

さっきより近い。

空を切るような音。

刀を振った音とも違う。

もっと早く、細く、鋭い音……。

シュッ。

今度はかなり近い。

雅紀は顏を上げ、辺りを見回す。

何かが動いている様子はない。

樹々の上の方で風が騒ぐ。

この時刻では飛んでいる鳥もいない。

空は刻一刻と闇に閉ざされて行く。

不穏を感じ、はるの肩に手を掛ける。

「はる、そろそろ……。」

途端、雅紀の頬を何かが掠める。

「雅兄ちゃ……。」

はるの目が見開かれる。

雅紀は、自分の右頬を撫でる。

ピリッと痛みが走ったものの、血が出ている様子はない。

傷はない。

だが、何かいる。

どこにいる?

はるを自分に寄せ、後ろに隠す。

目を凝らし、周囲を伺う。

妖……?

「雅兄ちゃん……。」

はるが後ろから手を伸ばし、雅紀の右上を指さす。

雅紀は必至で目を凝らす。

だが、何も見えない。

シュッと大きな音が、今度は左側を掠める。

咄嗟にはるを庇い、身を避ける。

なんだ?

何がいる?

「雅兄ちゃ……。」

はるの手が、雅紀の右頬を撫でる。

はるの指先が赤く染まっている。

雅紀も頬を拭い、自分の頬の血を確認する。

時間差でやってくる傷……。

以前、どこかで聞いた覚えが……。

雅紀が考えながら、警戒していると、

またシュッと耳障りな音が、今度ははるの側から聞こえてくる。

「はる!」

雅紀がはるを胸に庇う。

「うっ。」

雅紀の服の背が、斜めに大きく裂ける。

「雅兄ちゃんっ!」

抱きしめられたはるが、さっと樹の上を指さす。

「いるっ!」

雅紀は振り向きざま、身構える。

目を凝らし、普段押さえている力を開放させる。

大きな二本の角が頭の上に飛び出す。

緑色に光る瞳が、薄暗い樹の上を睨みつける。

体中に力をみなぎらせ、樹の上の微かな音を聞き分ける。

「いたっ!!」

雅紀の瞳が、頭上の樹の上を見つめる。

シュッと音がして、何かが雅紀の上に降って来る。

「はるっ!避けろ!」

はるがパッと雅紀から離れる。

雅紀の両手が、素早い動きで何かを掴む。

「うっ!」

掴んだ腕に、鋭い爪が突き刺さる。

「雅兄ちゃん!」

駆け寄ろうとするはるに、雅紀が怒鳴る。

「来るなっ。」

雅紀は、爪が突き刺さったまま、妖の首を締め上げる。

逃げ出そうと、体を左右に振る長い胴体。

長い爪は刃物のように鋭く、丸い顔が苦しそうに鳴き声を上げる。

「キーッ、キキーーッ!!」

苦しそうな顔を見て、雅紀も苦しそうに眉間に皺を寄せる。

「……かまいたち……。」

雅紀は自分の腕から爪を外し、じっとかまいたちを見つめる。










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