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「大人の童話」
15th moon(やま)

15th moon ⑳

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「これはいつの時代のものか……。」

紀成亮(きのしげあき)が書庫の整理をしていると、

書庫の片隅に、古い巻物が三帖、埃をかぶっているのが目に入ります。

成亮は、それらを手の取り、ふぅと埃に息を吹きかけます。

厚く溜まった埃は舞い上がり、もわっとした空気に、思わず咳き込むほどです。

「ごほっ、ごほごほっ……。」

成亮は涙目になりながら、巻物の題字の埃を払います。

巻物には、『竹取物語』と書いてあります。

「竹取……物語?絵巻か……。」

絵巻とは、絵と詞(ことば)を交互に書いた巻物のことです。

「この中から歌だけを取り出すのは面倒だな……。」

成亮は、古い歌の中から、味わい深いものを選び、編さんする任に着いていました。

過去、調べられる限りの歌を調べ、良い物を厳選したい成亮は、

面倒だと思っても、この絵巻を打ち捨てることができません。

書庫の端にある文机まで持って来ると、丁寧に埃を拭きとり、巻物を開きます。

まず初めに開いたのは『竹取物語 潤』と書かれた巻物です。

色は古びておりましたが、書かれた当初は色鮮やかであっただろうと思われる

豪華絢爛な絵巻物です。

あまりの絵の美しさに溜め息が漏れます。

構図もすばらしく、色々な角度から楽しむことができます。

成亮は先ほどとは打って変わって、期待に胸膨らませながら読み進めます。

ところどころ、薄くなったり、虫が食っているところはありますが、

読めないほどではありません。

物語は、竹の中から生まれた歌の上手い、美しい姫の話です。

勇敢な皇子達の求婚を断って、最後に月に帰るところなど、圧巻です。

巨大な丸い光が姫を迎えに来ると、哀しみにくれた姫は、

育ててくれた養父と抱き合い、そのまま月に帰っていきます。

立派な結婚相手より、育ててくれた親を大事にする、孝行者の姫の優しさが胸を打ちます。

次に『竹取物語 雅』とある巻物を開きます。

最初の、竹から生まれるところは同じですが、

三人の公達に姫は無理難題を言い、ひどい仕打ちをします。

それでも勇猛果敢な公達たちは、姫からの使命を全うしようと頑張ります。

けれど、なかなか上手くはいきません。

無理難題は、ここに残る為に必要だったのか、

姫は月に帰りたくないと、毎朝毎晩、泣き歌います。

それを耳にした帝が、姫を守ろうと月からの迎えに軍勢を向かわせます。

大軍が姫を守りますが、月からの使者は不思議な術を使い、軍をかく乱します。

さすがの帝もこれには敵わず、姫は月へと帰っていきます。

ハラハラドキドキの冒険活劇と言ったところでしょうか。

最後の『竹取物語 和』は、なんと大胆な物語でしょう。

姫は男で、しかも、毎朝毎晩、喘ぎ歌うのですから、大変です。

しかも相手は養父です。

床を一緒にし、睦み合う様子が、事細かに書かれています。

姫(男)の成長と共に、体位も変わり、妖艶さに磨きがかかります。

姫(男)のあまりの床上手に、近所の公達や帝までやってきます。

姫(男)は相手を変え、もっと淫らになっていきます。

喘ぎ歌う声も、どんどん艶やかに激しくなっていきます。

巻物のほぼ三分の二が床の場面です。

成亮は頬を赤らめながら読み進めます。

とうとう、月の者まで姫(男)の床にやってきます。

姫(男)を巡る戦いは夜を徹して繰り広げられ、

結局は、月の者が不思議な船で姫(男)を連れ去って行くのです。

「これはこれは……。」

三帖、全ての絵巻の最後に、東山院の内印が押されています。

院がまだ帝だった頃のものです。

「東山院の時代……。遥か昔にこんなものが……。」

成亮は溜め息をつきながら、巻物を畳みます。

三帖の物語はそれぞれ、似通ってはいるものの、全く違った話になっています。

「……面白い。」

成亮は、じっと目をつぶり、腕を組んで考えます。

巻物は古く、修復しなければ、後数年で読めなくなってしまうでしょう。

修復と言っても、虫の食った穴を元に戻すことはできません。

静かな書庫に鳥の鳴き声が響きます。

窓から見える、遠い遠い彼方に、一筋の煙を昇らせる綺麗な山が見えます。

成亮は目を開け、新しい紙を広げると、筆を取ります。

「……今は……昔。竹細工の……、う~ん、ここはちょっと変えてみようか。

 ……竹取りの……翁と言ふものありけり……。」

成亮は、さらさらと筆を走らせます。

三本の物語を一本にまとめてみようと思ったのです。

元々一つの事実から生まれた物語です。

それが三つに分かれ、後の世でまた一つに戻る……。

不思議なものです。

そして、成亮によって書かれた物語は、

事実と似通ってはいても、全く違う物語として生まれ変わります。

成亮によって加筆修正され、より物語らしくなります。

成亮は、この物語の最後をこう締めくくります。

「(富士の山の)煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ、言い伝へたる。」

富士山の煙が、智と翔の朝餉夕餉を作る煙だとも知らず、

こう終えるのですから、不思議なものです。

そして、人々が恐れ慄く、樹海の音……。

高く響く風のような音が、智の声だとも気づかれることもなく、

二人のARA18は、誰にも見つかることなく、煙を上げ続けるのです。

成亮はせっせと筆を走らせます。

いつの間にか、外は暗く、月が上り始めます。

成亮を照らすのは大きな十五夜の月です。

もう、月の左に輝く星はありません。

二人のことを知る者も、もういません。










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