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「大人の童話」
15th moon(やま)

15th moon ⑬

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扇子で顔を隠した翔が、帝の前でシナを作ります。

大人になっても細身で撫で肩の翔は、座っていれば、まるで本物の姫のようです。

「これ、顔を見せよ。」

翔は扇子で顔を隠したまま、動こうとはしません。

「これ、見せよと言っているのが聞こえぬのか。」

帝も黙ってはいません。

じっと智を見つめ、プレッシャーを掛けます。

帝の眼力に、たじたじになった智は、そっと翔の袖を引き、助けを求めます。

翔は扇子の影で智に耳打ちします。

智は小さくうなずいて、帝に向かって言います。

「ひ、姫は……。」

智の声が裏返ります。

智はゴクッと唾を飲み、喉を潤そうとしますが、唾すら出ません。

「ひ、姫は怖くて帝の顔を見ることができないと申しております。」

「見ることができないとはどういうことか。」

「姫は家から出たことがありませんので、殿方の顔を、私以外知らないのでございます。」

帝は、ふむと顎髭を撫でます。

「余は怖い男ではない。怖そうな見かけでもないと思っておるのだが……。」

目で智に同意を求めるので、智も、もちろんでございます、とうなずきます。

「姫が怖いのは……帝の髭でございます。」

「……髭?これか?」

帝は撫でていた手を止め、智を見ます。

「はい。その髭が怖いのでございます。」

帝の髭は、帝の象徴とも言えるほど、皆に親しまれています。

髭帝と言われるくらいです。

その自慢の髭が、姫を怖がらせているなど、帝には思いもよらないことでした。

「皆はこの髭がいいと言ってくれるぞ?」

「そうでございましょうとも。

 ……ですが、姫は髭を見たことがないので、怖くてたまらないのでございます。」

「そうか……。」

帝はそう言うと、黙ってしまいました。

これでなんとかやり過ごせそうだと、智は内心ホッとします。

帝が髭を大事にしていることは、国中の者が知っています。

以前、係の者が、誤って帝の髭を剃り落したことがありました。

帝が怒ったことは言うまでもありません。

ですが、怒ったところで髭が生えるわけもなく、髭が生えそろうまで、

帝は政務すら内裏で行い、人前に一歩も出て来ませんでした。

それくらい、帝にとっては大事な髭なのです。

……その髭があるから、姫は顔を見せられない。

そう言えば、帝は自ら引き下がるはずとの翔の目論見は、見事成功するかに見えました。

「ならば、剃ろう。」

帝がそう言うまでは。

「み、帝?」

智は素っ頓狂な声を出します。

「本気でございますか?」

「本気も本気。余が本気であることが伝われば、姫も心を開いてくれるに違いない。」

帝が小姓に何か言います。

これはまずい、と智のこめかみに汗が滲みます。

髭を剃られた日には、翔が手籠めにされ、かつ、男だとバレてしまいます。

扇子の影で、翔もゴクリと唾を飲みます。

「み、帝の見事な髭を剃り落そうなど……。」

「そうせねば姫は顔を見せてくれないのであろう?

 髭はいずれ生えてくる。大したことではないわ。」

帝は、はっはっはと快活に笑います。

でも、その声は少し乾いているようにも聞こえます。

困った智は翔を見ます。

翔は指先を曲げ、智を呼びます。

智が耳を傾けると、扇子の影で翔が言います。

「俺、顔見せるわ。」

「え?でも、そんなことしたら……。」

「一瞬なら女に見えるだろ?」

「そうかもしれないけど……。」

「髭なんか剃られたら……。」

その後を想像して、智も翔も身震いします。

「それで、ごまかせなかったら……。」

「ごまかせなかったら……?」

翔がニコッと笑います。

「大丈夫。俺に任せて。」

「でも……。」

「何があっても……俺は智から離れないから。」

翔が真摯な瞳で智を見つめます。

不安いっぱいの智でしたが、翔のその顔を見て、コクリとうなずきます。

「み、帝!」

智が帝の前に進み出ます。

「ひ、姫が、少しだけなら扇子を下げると言っておりますので、

 髭を剃るのはどうか……。」

「何?顔を見せてくれるのか?」

「はい……。」

智は上目遣いで帝を見ます。

帝は満足そうにうなずいて、翔を見つめます。

「では、姫、扇子を……。」

智が言うと、翔はスッと扇子を下します。

化粧をし、白く塗られた翔の顔が扇子の影から見えます。

「おおー、これは美しい!」

帝が感嘆の声を漏らすと、すぐに扇子を上げてしまいます。

「これ、もう少し見せてみよ。」

翔は扇子の影で、いやいやと首を振ります。

「なんだ、もう見せてくれないのか?」

「姫は恥ずかしがり屋なもので……。」

智が言うと、帝はポンと膝を叩きます。

「気に入った!都に連れて帰るぞ!」

帝は意気揚々とそう言って、立ち上がります。

慌てた智がとりなそうとしますが、ずかずかと歩いて翔の方へ行きます。

「喜べ!お前は今日から余の妻なるぞ。」

翔の手首をグッと掴み、扇子ごと、引きあげようとします。

「お待ちください、帝!」

智が叫んでも、帝は手を離してくれません。

「それは……できません。」

翔が静かに言います。

「なぜだ?誰だって、喜んで余の元に来るぞ?」

「もちろん、そうでございましょう。ですが、わたくしは……。」

翔はチラッと智を見ます。

「やはり、帝の髭が怖いのでございます。」

「髭とな……?」

帝は顎髭を隠すように撫でながら、渋い顔をします。

やはり、帝も髭は惜しいのです。










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