「大人の童話」
15th moon(やま)
15th moon ③
2017.11.04 *Edit
智は膝の上の翔を見ながら想像します。
元服姿の翔……。
「……綺麗すぎる~。」
ニヤニヤが止まりません。
黒装束の翔はどれほど美しくなることか。
見た者全てが翔の虜となるでしょう。
智は、うんうんと、うなずくように首を縦に振ります。
しかし、喜んでばかりもいられません。
そうです。
大人となった翔は嫁をもらい、結婚してこの家を出て行ってしまうかもしれないのです。
智は、いやいやと首を横に振ります。
いやでも仕方がありません。
大人になるとはそういうことです。
いつまでも子供のままではいてくれません。
ましてや、成長著しい翔です。
そんな日はあっという間にやってきます。
妙齢の麗しい女子(おなご)相手に、あんなことやこんなこと……
なんて日ももう間近なのです。
翔を抱く、智の顔が強張ります。
強張ったまま、ギュッと翔を抱きしめます。
腕の中の翔の温もり……。
この温もりに包まれる、どこの誰かもわからない相手……。
智は想像します。
勉強熱心な翔のことです。
恋愛の手練手管もあっという間に学んでしまうことでしょう。
翔に夜這いを掛けられて、断る女がいるでしょうか?
いるはずない!と智は鼻息を荒くします。
こんなに綺麗で可愛くて、賢い男に求められて、断れるわけがないのです。
智の目がじわじわと潤んできます。
誰にも渡したくない……。
その想いが涙となって溢れて来ます。
智の様子がおかしいことに気付いた翔が振り返ります。
「智、どうしたの?」
智の目から涙が溢れているのを見て、翔の眉間に皺がよります。
「なに?何か思い出したの?」
智は首を振ります。
「じゃ、お腹が痛くなった?」
智はまた首を振ります。
翔と一緒にいられないくらいなら、いっそ……。
智は翔の顔をじっと見つめます。
「元服するの……やめようか?」
智が言うと、翔が不満そうな顔をします。
「嫌だね。俺は早く大人になりたい!」
翔は不機嫌そうに頬を膨らませ、そっぽを向きます。
智はじっと翔の後頭部を見つめます。
「大人になったら……あんなことやこんなこと、しなくちゃいけないんだよ。」
「あんなことやこんなこと……?」
翔が振り返ります。
「そうだよ……。あ、あんなことを翔ちゃんがするなんて……。」
智の目にまた涙が溢れます。
「あんなことって、どんなこと?」
翔の大きな目が、智の目を捉えます。
智はグッと息を飲み、翔を見つめ返します。
大人になりたいと言う翔を……智が止めることなどできません。
「あんなことは……あんなことだよ~。」
「だから、どんなこと……?」
つぶらな瞳を閉じることもなく、じっと智を見つめます。
「だ、だから……。」
智はどうしようか戸惑いました。
まだ小さな翔に、あんなことやこんなことを教えるなんて……。
しかも、覚えた翔が、どこぞの女子の所でそれを……。
「ダ、ダメだ!翔ちゃんには教えられない!」
「どうして?」
「どうしても!」
「じゃ、福沢先生に教えてもらってくる!」
翔が智の膝から立ち上がります。
「ま、待って!」
智の手が翔の腕を掴みます。
「じゃ、教えてくれる?」
翔がニヤッと笑います。
「翔ちゃん、ずるい……。」
「智が教えてくれないのが悪いんだろ?」
翔は胡坐をかく智の上に向き合って座ります。
「ほら、ちゃんと教えて。
俺、すぐに覚えるから。」
だから、教えたくないんじゃん!
智はそう思いましたが、あえて口にはしませんでした。
ただ、ちょっとだけ口を尖らせます。
「あんなことって、どんなこと……?」
心なしか、翔の声が甘く艶を含んで聞こえます。
「あ、あんなことはあんなこと……。」
それでもごまかそうとする智の顔に、翔の両手が伸びます。
「逃げんな。……本当に他に行くよ?いいの?」
智は頬を包む翔の手を握り、ブンブンと首を振ります。
「ほら、だったら……教えて?」
翔は、握られた手の指先を握り返し、そこへ唇を当てます。
温かく、湿った息を指先に感じ、智の体がビクッと揺れます。
「しょ、翔ちゃん……。」
智は翔の、伏せた睫毛から目が離せません。
「なに?どうすれば『あんなこと』になるの?」
ゆっくり上がる睫毛の下の、強気な視線が智の迷いを封じます。
「あ、あんなことは……。」
智は翔の頬に両手を添えます。
首を少し傾げるようにして、翔の唇に唇を当てます。
柔らかい感触が二人を包み、智の頬にかかる髪が、翔の頬もくすぐります。
唇を離し、翔を見つめると、翔はきょとんとした顔で智を見つめ返します。
「こんなのいつもしてるじゃん。」
「ここから先……。」
智はもう一度唇を当て、翔の唇の間に舌を差し込みます。
翔の体がビクッと跳ね、智の動きをじっと待ちます。
智の舌は、川を上る竜の如く、スルスルと翔の舌に巻き付きながら入っていきます。
「んっ。」
翔も、送り込まれる唾液を飲み込んで、智の動きに舌を合わせます。
縺れ合い、淫らな音をさせながら、二つの竜はどんどんと昇って行きます。
甘噛みするように唇を動かし、より深く絡まろうとする竜に、二人は夢中になっていきます。
舌の感触の心地よさに、翔の顔がトロンとしてきました。
「翔……ちゃん……。」
智の手が、翔の体を引き寄せます。
「さとっ……。」
翔は智の両脇に膝を付き、体を寄せて膝立ちになります。
膝立ちになった翔は、胡坐をかいた智より少し高く、
上から見下ろすように智の唇を貪ります。
「んっ、んんっ、しょ……ちゃ……。」
翔の両腕は智の頭を抱え込み、智の唾液を吸い上げます。
「んあっ!」
翔が体重をかけるようにして、智を後ろに押し倒します。
「しょ、翔ちゃんっ!」
智の上に馬乗りになった翔が、手の甲で涎を拭いて笑います。
「ほら、これで終わりじゃないんだよね?
『あんなこと』……教えてよ?」
翔の表情に、智の腹の奥がズキッと痺れます。
自分の上に馬乗りになっているのは、智の可愛い可愛い翔ちゃんではありません。
男の色気を纏った、これから目の前の羊をどう食べようか舌なめずりする、
一人前の狼だったのです。
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