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「大人の童話」
15th moon(やま)

15th moon ②

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翔の成長は智の知っている子供たちよりずいぶん早く、

1週間もすると歩き始め、10日経つと片言を話し始めました。

初めて口にした言葉らしい言葉は

「さ…とっ……。」

でした。

もちろん、智は可愛くて可愛くてしようがありません。

溺愛です。

目の中に入れても痛くないほどの溺愛ぶりです。

竹で竹とんぼや弓など、たくさんのおもちゃを作り、

今まではあまり気にしなかった食べ物も、翔がよく食べる物を作ってあげました。

その為には、たくさん仕事もしなければなりません。

何せ、翔の好きな物と言ったら、貝だの甘い物だの、お金がかかるものばかり。

そこで、それまでからは考えられないくらい、智は籠を作りました。

腕はいいので、作ったそばから飛ぶように売れていきます。

売れれば売れるほど、智の籠は人気を呼び、

都の雅な家でも使われるくらいになりました。

智の籠は使い勝手はもちろん、その見た目の美しさから、

女達の受けがとてもよかったのです。

翔は、その後もグングンと成長し、十五夜が二度過ぎた頃、

見た目が10歳くらいの男の子になると、智に向かってこう言います。

「智は腕がいいんだから、籠ばかり編んでないで、違う物も作ったらいいよ。」

利発そうな瞳がキラキラと輝きます。

「違うもの?」

「そうそう、例えばこんなの。」

翔は筆を持ってさらさらと絵を描いていきます。

四角に丸が幾つも書かれているようですが、智には何が描かれているのかわかりません。

「ん~?これ、なぁに?」

智が首を捻ると、翔は反対に口を尖らせます。

「わかんないかなぁ。これ、筆筒(ひっとう)だよ。」

「筆筒?」

「筆を立てておいたりする道具。竹の筒に絵を彫ったりしてカッコよくするんだ。」

どうやら、四角は筆筒の形で、丸は中に描くカッコいい絵のようです。

智はその紙の隅に5人のカッコいい神様の絵を描いてみせます。

「こんな感じ~?」

「そうそう!」

神様たちは仲良さそうに寄り添って笑っています。

ちょっと女心を擽るような、甘い顔付きをしているのは智の好みでしょうか。

「じゃ、最初に作ったやつは翔ちゃんにあげるね。」

「え?俺に?」

「うん。上手にできるかわかんないけど。」

智はサラサラと筆を走らせ、実物と同じくらいの大きさに神様たちを描いていきます。

「嬉しい!智は絵も上手いなぁ。どうして俺はヘタなんだろ?」

「翔ちゃんのはヘタなんじゃなくて、個性だよ。

 俺は結構好きだけどな?」

「……ほんと?」

「うん。」

智が笑うと翔も笑います。

大きな目をクシャッと歪ませ、少し大人びた顔で笑います。

翔が笑うと、辺りが一面明るくなり、家中がまるで月明かりに照らされたようになります。

智が一人でいた頃とは大違いです。

「おいで。」

智が手を伸ばします。

いつものように、翔は智の膝の上に乗って、智を見上げます。

「大きくなったねぇ。翔ちゃん。」

後ろからギュッと抱きしめると、翔がくすぐったそうに体をもぞもぞさせます。

智の無精髭が頬に当たって、チクチクするのです。

「早く大きくなるからね?

 大きくなって、智に楽させてあげるから。」

「いいよ~。俺は翔ちゃんがいればそれで十分。」

智はチュッと翔のこめかみに唇を当てます。

「もうそろそろ抱っこもできなくなっちゃうなぁ~。」

「え?大きくなると抱っこしてもらえないの?」

「そうだよ~。大人を抱っこしたりしないだろ?」

「いいじゃん、抱っこしたって。

 そういう既成概念が日本人の社会性を狭くするんだよ?」

「……翔ちゃん、そういう言葉、どこで覚えてくるの?」

最近、翔は近所の福沢先生のところに通うようになっていました。

智が竹を取りに行っている間です。

智もなんとなくは気付いていましたが、何も言いませんでした。

これからの男は、字だけではなく、

算盤や儒教を勉強した方がいいと、感じていたからです。

智は、勉強は好きではありませんでしたし、

考えることも得意ではありませんでしたが、

時代の波を読み解く勘は鋭かったのです。

智が首を傾げると、翔も同じ角度で首を曲げ、クスッと笑います。

「言葉なんてどうでもいいから……。」

翔の唇が智の唇を掠めます。

「俺、智を満足させられる男になりたいんだ。」

「……満足?」

翔はキラキラな笑顔を、さらにキラキラと輝かせます。

あまりの眩しさに智は目を瞬かせます。

「うん。智にやりたいことをさせてあげたい。

 今の籠作り、嫌いじゃないだろうけど、やりたいことでもないでしょ?

 俺、智に認めてもらえるような、包んであげられるような、

 包容力のある男になりたいんだ。

 抱っこもされたいけど、抱っこ、してあげたい!」

「翔ちゃん……。」

智はぎゅっと翔を抱きしめます。

この小さな男の子が可愛くて可愛くて仕方ありません。

翔は後ろから抱きしめる智の手に、そっと口づけます。

智の手はゴツゴツとしていて固く、でも柔らかく翔を包んでくれます。

「翔ちゃんにもそろそろ、大人になる準備をしてあげないとなぁ。」

翔は首だけ振り返って智を見ます。

「大人になる……準備?」

翔の頬がポッと赤くなります。

そんな翔を見て、智はコブシの実みたいだなぁと思いました。










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