「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the twins (5人)
テ・アゲロ the twins ⑧ -45-
2017.10.25 *Edit
二人はゆっくり男に近づいて行く。
地味なグレーのジャケットに、ツバ付きの帽子を目深に被ってはいるが、
大野も櫻井も、見間違いではないと確信していた。
男は二人から逃げるように背を向け、走り去ろうとする。
「誠さん……ですよね?」
不意に大野に声を掛けられ、その肩がビクッと揺れる。
村の大人たちは祭りの準備に余念がない。
誰も三人に気付く様子はない。
男はそれでも背を丸め、逃げようとする。
と、大野の声がその背中を止める。
「瑠加さんの部屋に、人形がありました。」
男は足を止め、ゆっくり振り返る。
「……人形?」
「そうです。あなたの人形です。誠さん。」
誠と呼ばれた男は、訝しそうに二人を見つめる。
「……どこかで……会ったことが……?」
大野を見て首を傾げる。
「ええ、以前……冬の散歩道と言うバーで。」
誠はじっと大野を見て、思い出したように顔を上げる。
「ああ、記者さん……。」
「はい。」
大野がにっこり笑うと、誠は逆に疑り深そうに眉をひそめる。
「どうして……こんな所に記者さんが……?」
大野は困ったように頭を下げ、誠に一歩近づく。
「すみません……本当は大貴さんに頼まれて……あなたを探してました。」
「大貴に……会ったこともないのに?」
「はい。ここに戻ってきて欲しいと……。」
誠は何も言わず、大野を見つめる。
「ここに来たのも、大貴さんに頼まれたんです。」
「大貴はなぜ……?」
「大貴さんも菊代さんも……あなたに戻って来て欲しいんです。」
「俺に……?」
「そうです。あなたに……瑠加さんの後を引き継いで欲しいと思っているんです……。」
瑠加と言う言葉に、誠の瞳が揺れる。
「…………。」
誠が何も言ってくれないので、大野は櫻井の顔をチラッと見る。
櫻井は小さくうなずき、大野の隣に進み出る。
「失礼だとは思ったのですが……瑠加さんの日記を……読ませて頂きました。」
「日記……。」
「ええ、中学時代の日記です。」
誠の顔色が変わる。
「そこにはたぶん、全てが書かれていたのだと思います。」
「……あいつはなんて……?」
大野は躊躇いがちに口を開く。
「あなたへの気持ちと……あの日、ここであったことが……。」
誠は静かに息を吐く。
視線を空に向け、遠い昔を思い出すように、ゆっくり目をつぶる。
「そうですか……。」
二人は黙って誠の言葉を待つ。
「ではお二人は……知ってるんですね。
私と瑠加のこと……ここで何があったのかも……。」
「はい……。」
誠は準備中の祭りの様子を見回し、ひと目を避けるように木々の間に入って行く。
大野と櫻井もそれに続く。
「あの日も……大人たちは、祭りの準備に忙しかった。」
歩きながら、誠は思い出すように、一言一言言葉を区切って話す。
「夜になれば、大人たちは大人の祭りでいなくなる。
俺達は、お互いに、自分の想いに苦しんでた。
絶対知られてはいけない想い……。
だから、瑠加は……あんな薬を作ったんだ。」
「薬は、お祖父さんの……つまりは誠さんのお父さんの研究結果……?」
誠はチラッと大野の方を振り返る。
「ああ、父はこの村に軍が介入した時の資料を整理していて……、
軍が何の為にあの花を調べていたのか疑問に思ったんだよ。
残った資料で研究して……途中でわかったんじゃないかと思う。
あの薬がとんでもない化け物を生み出すって。
父の研究資料は途中までで、それを引き継いで瑠加が作った。
俺の為に……俺と、結ばれる為に……。
そんなことしなくても、俺の気持ちは瑠加にしかなかったのに……。」
「使ったんですか?あの薬を……?」
誠は小さくうなずく。
「あの薬は……悪魔の薬だ。」
誠はギリッと奥歯を噛みしめ、辛そうに顔が歪む。
大野と櫻井は顔を見合わせ、犬の墓のことを思い出す。
中学生には……いや、大人であっても、きっと残酷な光景だったに違いない。
「それは……その……体を重ねてから起こったんですか?」
大野が聞きづらそうに聞く。
誠は溜め息のようにうなずいて、ぼそりと答える。
「俺と瑠加が……体を重ねたのはその時を合わせて二度だけ……。」
「二度?思いが通じ合ったのに?」
櫻井が不思議そうに聞くと、誠が振り返る。
「あの薬は……悪魔を生み出す前に、最高の快楽を与えてくれる。」
「快楽……。」
櫻井が思わずそうつぶやくと、誠が大きくうなずく。
「薬のあるなしで……全く違ったんだよ。
このまま一緒にいたら、あの薬を使いたくなる。
あの惨状を見てもなお、忘れられないほどの快感だったんだ。」
三人は、犬の墓の前に来ていた。
誠は墓の前に跪き、手を合わせる。
大野と櫻井も少し後ろから手を合わせた。
いつもは静かな神社が、人々のざわめきで満ちている。
遠くでピヨ~と笛の音がする。
徐々に暮れ始めた空は赤く、鳥が群れをなして飛んでいく。
誠が立ち上がると、大野は誠をじっと見つめる。
「あの薬は……使ってからどれくらいで悪魔を生み出したんでしょうか?」
誠の顔が歪む。
「すみません。辛いことを聞きました。
実は、あの薬に似た薬で苦しんでる友人がいるんです。
少しでも……何か手がかりはないかと思いまして……。」
大野の言葉に、誠はうつむき加減で視線を斜め上に上げる。
「俺達が服を着る時間は十分にあったから……2時間後くらいじゃないかな?」
大野は納得したようにうなずいて、頭を下げる。
ピ~ヨヨ~~と笛が響き、ついで、太鼓の音がする。
三人が神社の広場の方に視線を向ける。
篝火に火が灯され、ざわめきが、どんどん大きくなっていく。
パッと提灯が赤く色づく。
祭りが、始まろうとしている。
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