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「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the twins (5人)

テ・アゲロ  the twins ⑧ -43-

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「……父さんの日記……。」

三人は有岡の父の部屋に移動し、日記を捲る。

「今日はうだるような暑さだ。

 父の研究を知って始めた実験。

 父は何を調べていたのか?

 私にはまだ難しくてよくわからない。

 でも、材料は全て揃っている。

 祭りに使う花の汁は愛の液体。

 今日も誠に気づかれないよう、こっそり実験室に向かう。」

櫻井が読み上げる。

「お前の親父はたぶん、媚薬か何かだと思っていたんだろうな。

 例えば……好きな人に飲ませれば、必ず自分を好きになる、みたいな……。

 結婚相手を決める花の汁だからな。」

「そういうおまじないとか、女子の間で流行ってましたよね。

 小指の爪を伸ばすとか、消しゴムを一人で使い切るとか。」

「まぁ、そういうやつだな?」

櫻井は笑いながら、続きを読み上げる。

「できた。やっとできた。

 きっとこれで、私の願いは叶う。

 一度だけ……。

 一度だけでいい。

 そうすれば、全て忘れて私がこの家を継ぐ。

 誠はこの家を出たがってる。

 広い世界に行きたがってる。

 誠には……夢を見せてやりたい。」

「父さん……。」

大野と有岡の目が、櫻井に続きを要求する。

「準備は完璧だ。

 決行するのは満月の夜。

 月の光は人を狂わすと言う。

 一晩だけ……誠は狂ってくれるだろうか?

 失敗したら……もう二度と口も利いてくれないかもしれない。

 ……その方がいい。

 こんなに苦しいなら、いっそその方が……。」

「父さん、苦しんでたんだね。」

「そりゃそうだろ?相手は血のつながった双子の弟だ。」

「普通の倫理観を持ってれば、まぁ、そうなるよね?」

大野と櫻井が顔を見合わせ、小さくうなずく。

「明日は満月。

 私にとって、人生でただ一度の運命の日。

 私はきっと、この先どんなことが起ころうとも、

 この日を忘れないだろう……。

 成功しても、失敗しても。」

「とうとうですね?」

有岡が心配そうに大野を見つめる。

大野も黙ってうなずくと、櫻井に目配せする。

櫻井はそれを受けて、次のページを読み上げる。

「な、なんと言うこと!まさか……、まさか……。

 あの薬のせいなのか?

 いや、罪を犯した私のせいだ!

 全部私が悪い!

 私が……!」

「自分を責めてる?父さんに何が起こったの?」

有岡がさらに心配そうに眉を歪める。

「これから3日間、日記は書かれてない。」

櫻井は日記を行ったり来たりしながら、次のページを捲る。

「ああ、私は罪深い。

 私の罪は、あのなんの罪もない犬の命を奪った。

 まさか誠があんな風になるなんて……。

 薬のせいだ。

 いや、私のせいだ!

 私があんな薬を作ったばっかりに……。

 誠の心に大きな傷を負わせた。

 誠は私を許してはくれないだろう。

 私の我が儘が、ただ一度望んだ愛の成就が、

 誠を化け物にした!

 いや、化け物になったのは私だ!

 私が……。

 ただ一度、契りを結びたかったために……。」

「な、何があったの?犬?犬って?あのお墓の犬?」

有岡が大野の腕を掴む。

大野は小さく溜め息をつき、有岡を見つめる。

「そうだ……あの犬だ。たぶん……。

 薬を使ったせいで、叔父さんは変貌したんだ。

 化け物に。」

「化け物……?」

「命を奪いたくなる凶暴な化け物。

 命を奪うことに、何の躊躇もない化け物。」

「そんな……。」

有岡がゴクッと唾を飲む。

「そういう薬だったんだよ。

 人の中枢神経を麻痺させる……。

 体だけじゃないく、精神も……。」

櫻井が手元の日記を見ながら言う。

「精神?」

「狂暴化……するんだよ。

 たぶん、自分の痛みすら感じず……、

 相手を仕留めることしか考えられなくなる……。

 そういう薬だったんだ。」

「薬……。」

「そうだ。全ては薬のせいだ。お前の父ちゃんが悪いわけじゃねぇ。」

「……わかってる……、わかってるけど……。」

有岡が俯いたまま顔を上げずにいると、大野が有岡の肩を抱く。

「大野さん……。

 父さんと叔父さんはその後、どうなったの?」

大野は櫻井に視線を向ける。

櫻井はペラペラとページを捲り、ふと、手を止める。

「今日、誠が旅立つ。

 誠には才能がある。

 これでいい。

 これでいいんだ……。

 私は幸せだ。

 あんな罪を犯したのに、誠は私を愛してると言ってくれた。

 生涯、私だけだと……。

 誠の為に……。

 私は笑顔を作らねばならない。

 誠は私といれば、あの罪を思い出す。

 罪は全て私が背負う。

 だから笑って見送ろう。

 誠が笑えるように……。」

「父さん……。」

有岡の目から、一筋涙が流れる。

大野は有岡の肩に回った腕に力を込める。

櫻井も、そんな二人を穏やかな表情で見守った。










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