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つなぐ(やま)

つなぐ 三十三帖

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「翔さん、今日は薬を届けに行きますが、翔さんもご一緒しますか?」

縁台で庭を眺める櫻井に、雅紀が声を掛ける。

「いえ、止めておきましょう。

 私がいると邪魔になりましょう。」

櫻井がにっこり笑うと、雅紀の頬が赤く染まる。

「それは……。」

言い訳しようと口を開く雅紀に、櫻井はさらに笑って見せる。

「深い意味はありません。私が行くと帝にも負担を掛けてしまうでしょうから、

 私は一人で待っていますよ。」

櫻井は笑顔だ。

男がいなくなってからも、変わらず笑顔を絶やさない。

雅紀にはそれが心配だった。

櫻井は無理をしているのではないか?

思いの外早くに男がいなくなった為、実は雅紀の落胆も大きかった。

雅紀は不満で仕方なかった。

毎日文句を言ってやりたかった。

あまりに突然すぎる別れにも、何も言わずにいなくなったことにも。

だが、櫻井が何も言わない。

だから、雅紀も何も言えなかった。

確かに二人の間には何か、雅紀にはわからない

絆のようなものがあったはずなのに……。

雅紀が何か言いたげに櫻井の側に立っていると、

櫻井がクスッと笑って雅紀を見上げる。

「不思議ですか?」

「え……?」

雅紀は不意を突かれて、すぐに言葉が出ない。

あんなに言いたい事だらけだったのに。

「雅紀さんから、不穏な空気が流れていますな。」

「あ、当たり前です!」

櫻井が高らかに笑う。

「ははははは。雅紀さんは狐殿になついていましたからねぇ。」

「そ、そんなことありません!」

雅紀が思いっきり否定すると、櫻井はさらに笑う。

「大丈夫。心配しなくても、狐殿はすぐに帰ってきますよ。」

「そうでしょうか……。

 1000年、どこにいつくこともなく、フラフラしていたんですよ?」

雅紀の言葉に、櫻井は空を見上げる。

「今は……星は見えませんが……。」

雅紀も空を見上げる。

「見えなくても、星はそこにあるんですよ。」

雅紀は、見渡す限りの青空を仰ぎながらつぶやく。

「あると言われても……見えなくては意味がありません。」

「意味がない?」

「読めないし……、星の瞬きに心奪われることもないから……。」

雅紀が遠慮がちに櫻井の顔を見る。

櫻井はクスッと笑って、雅紀の手を握る。

「雅紀さんは、素直ですな。」

「星は……、繋がっているのですか?」

櫻井は、少し首を傾げて雅紀を見つめる。

「それは、雅紀さんと帝のこと?それとも……。」

「あの男と、翔さんです!」

雅紀は当たり前だと言わんばかりに頬を膨らませる。

櫻井は、笑顔のまま、雅紀の腕を撫でる。

「私たちはずっと繋がっていますよ。」

空を見上げ、目を細める。

「だから、安心して待っていらっしゃいな。」

「私は……。」

雅紀が次の言葉を躊躇うと、櫻井が安心させるようにさらに優しい声で言う。

「呼べば、いつでも来てくれるらしいですよ?」

「だったら、すぐ呼んでください!」

「それはできませんな。時期になったら帰ってきてくれます……。」

「時期……?」

「星は輝いたままです。心配はいりません。」

櫻井は握っていた手を離し、雅紀の腕をトントンと叩く。

「さぁ、さっさといってらっしゃい。

 帝がお待ちかねですよ?」

納得したわけではなかったが、そろそろ行かなければならない。

雅紀は小さくうなずいて、櫻井に背を向ける。

パタパタと出て行くその小さな背中を見つめ、櫻井が溜め息をつく。

「心配させていますよ。」

空を見上げ、青い空のその先に目を馳せる。

「まだ、そちらの用事は終わりませんか?」

眩しさに、手を翳して目を細める。

「あれから、五十余日が過ぎました。」

立ち上がり、一歩、庭に下りる。

「そろそろ帰って来てもよいのではありませんか?」

ゆっくり歩き、土間の端に置いてある、釣り道具を取り、肩に掛ける。

「ふふふ。やはり私も寂しいのでしょうな。」

櫻井は、一人笑って家を出る。

「料理の腕は上がりませんが……、

 私の釣りの腕は、少々上がりましたよ?

 早くあなたに見せてあげたい。」

川に向かって歩きながら、また空を見上げる。

庭から見る空とは違い、遮るもののない空はどこまでも続く。

「あなたが帰って来た時は……私の釣った魚で私が夕餉を作りましょう。」

男と釣った辺りで足を止め、川を見つめる。

二人並んで釣りをしたことが昨日のことのように思い出される。

「ああ、私も限界かもしれませんね。

 ……あなたを……呼んでもいいですか?」

櫻井が川に近づいて行く。

櫻井の目が涙で霞み、釣りをする男の姿が浮かんでくる。

「自分がこれほど堪え性がないとは思いませんでした……。」

櫻井は、潤んだ瞳を見開き、乾かすように空に向ける。

「……智…………会いた…い……。」

川の上を風が吹き抜け、櫻井の頬をくすぐる。

輝く太陽は、櫻井を包み込むように、柔らかい光を放っている。

「もう、秋ですな……。」

櫻井は川岸に腰を下ろす。

「今日は何が釣れるのか……。」

乾いた目を二度瞬きし、釣り糸を放つ。

そのまま、じっと浮きを見つめた。










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