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つなぐ(やま)

つなぐ 三十二帖

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イワナは二人の懸命な説得のおかげで、無事美味しい塩焼きになった。

大きなイワナを三人でつつく。

「やはり、鬼っ子の飯は旨い。」

男は嬉しそうにイワナを頬張る。

「私が作ったら、もっと美味しかったかもしれませんよ?」

櫻井も、そうは言いながら、次から次へと箸を運ぶ。

「人には向き、不向きがあると教えてくれたのは翔さんですよ?」

雅紀も楽しそうに口を動かす。

「和也殿にはすぐに会えましたか?」

櫻井は器用に箸を動かし、魚をほぐしていく。

「少し待ちましたが、ちゃんと渡せました。」

雅紀は櫻井がほぐした魚を摘まんで口へ運ぶ。

「待っている時……。」

雅紀は言い掛けて言葉を濁す。

櫻井に大人と関わったことを報告すべきか?

しかし、二宮には見られている。

遅かれ早かれ、櫻井は雅紀と帝が出会ったことを聞くだろう。

それならば、自分の口から言う方がよい。

雅紀は意を決して櫻井を見る。

「待っている時……何かあったのですか?」

男も首を傾げて雅紀を見る。

「はい……若い……お公家様に会いました。」

「お公家様……?」

「……今上帝に……。」

櫻井と男は顏を見合わせる。

星の導きは、違(たが)えることなく、雅紀と帝を出会わせた。

櫻井は満足そうにうなずく。

「そうですか、お会いになりましたか……。」

男は面白くなさそうに胡坐を組み直す。

雅紀は櫻井と男の顔を交互に見る。

「会うことが……わかっていたのですか?」

「星は、そう教えてくれました。」

櫻井が笑う。

「そうですか……。」

雅紀は考えるように天井を見上げる。

出会うことは決まっていた。

何のために?

どんな意味があるのだろう?

それは、櫻井も知っているのだろうか?

「私は……昔、帝にお会いしたことがあります。」

櫻井が目を瞠る。

「なんと!」

雅紀は茶碗と箸を置き、両手を膝に添える。

「まだ両親が生きていた頃……、伊勢にいた時のことです……。

 野山で遊んでいたら、都からの御一行がやってきて……。」

櫻井も茶碗と箸を置く。

「藤壺様と帝ですね。」

「はい、たぶん……。」

「当時、帝が今のようになるとは、誰も思っておりませんでしたからな。

 藤壺様の身分は低く、当時の帝には弘徽殿様との間に男の子がおりましたし……。」

男はイワナを摘みながら櫻井をチラッと見る。

「いつの時代も変わらぬな。」

男が意味深に笑うのを受けて、櫻井が小さく首を振る。

「そんな物騒な話ではありません。

 血の濃さゆえか、弘徽殿様との間のお子は、

 皆、幼くしてお亡くなりになってしまわれたのです。

 帝と弘徽殿様は従妹同士でございましたから……。」

「それも、わからぬぞ?」

男がニヤニヤと笑う。

櫻井は、小さな子を叱るように、メッと声に出さずに男を睨む。

「雅紀さん、続けてくださいな。」

櫻井は優しく雅紀を促す。

「はい……。藤壺様は身分を気にしない、気さくな方でいらしたので、

 同じ歳位の私と帝が仲良く一緒に遊ぶのを、微笑まれながら御覧になっていて……。」

雅紀は思い出すように、窓の外に目を向ける。

「帝は、それは美しい方でした。

 小さいながらも品があって、華やかで。

 誰もが目を奪われる……。」

雅紀が櫻井に目をやると、櫻井も同意するようにうなずく。

一度会えば、誰もが目を奪われ、同じ思いを抱く。

「私もあんなに美しい人には会ったことがなくて……。

 子供ながらに夢中になっていました。」

雅紀が恥ずかしそうに笑う。

「いやいや、美しいものに心奪われるのは仕方なかろう?」

男が櫻井を見て、ニヤッと笑う。

「それは誰のことをおっしゃっているのです?」

「さぁな?」

二人が見つめ合いながらクスクス笑う。

それを見て、緊張していた雅紀の口も柔らかくなる。

「帝が、桔梗の花を見て、藤壺様にあげたいと。

 何人かの子供と一緒に遊んでいたのですが、

 二人で桔梗を摘んで藤壺様に差し上げました。

 あの頃、私と両親は、人として、人の中で暮らしていました。

 ただひっそりと、穏やかに……。

 私も何も考えておらず、身分など、知る術もありませんでした……。」

「子供はそれでいいのです。」

櫻井がにこりと微笑む。

男も、うむとうなずく。

「ほんの一刻のことですが、普段の生活とはかけ離れた、華やかな時間でした。

 両親と一緒に暮らしていた頃の記憶はほとんどないのに、

 それでも覚えているほど……。」

「星の……巡り合わせですね。」

雅紀は櫻井の顔を見て、大きくうなずく。

「帝は……体を悪くしておいでです。

 力になってあげてください。」

「そうは見えませんでしたが……、病気も治ったと言っていました。」

「雅紀さんと会って、体が楽になるとは言っていませんでしたか?」

雅紀は思い出すように斜め上を見上げる。

「そう言えば……、胸がすーっとすると……。まだ薬を飲んでいないのに。」

櫻井はにこりと笑って、うなずく。

「きっと薬も効くでしょう。」

雅紀には櫻井の言っていることがよくわからなかったが、

ニコッと笑って、ギュッと膝の上の手を握り締める。

「はい。丹精込めて作ります。」

「そうしてあげてください。」

櫻井はそう言って、雅紀の手を握り、男の顔を見る。

男も、腕を組んで大きくうなずく。

「さ、残りの魚を食べてしまいましょう。

 雅紀さんの焼き方は、最高ですからね?

 私が全て食べてしまいますよ?」

櫻井は箸を持ち、いそいそと魚を口へ運ぶ。

「待て、わしの分も残せ!」

「早い者勝ちです!」

「翔さん、待ってください!」

雅紀も急いで箸を握る。

魚はあっという間に無くなったが、三人の楽しそうな笑い声は遅くまで響いた。



それからほどなくして、男は櫻井の元から姿を消した。

置手紙すら残さずに。










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